2012年にフジテレビ「ノイタミナ」で放送されたアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』が映画化され、9日より公開中だ。深夜アニメから続編、映画が作られるほどヒットした要因の一つに、奇抜な設定や独特の世界観に偏り過ぎず、「人間模様を描きたい」という塩谷直義監督の手腕をあげることができるだろう。

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　同アニメは、『踊る大捜査線』シリーズを手がけた本広克行氏が新たに挑んだ警察ドラマで、『仮面ライダー鎧武／ガイム』や『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本家・虚淵玄氏（ニトロプラス）が、緻密かつ大胆に書き上げたディストピアな世界観のSF作品。塩谷氏は、OVA『東京マーブルチョコレート』、映画『劇場版BLOOD-C The Last Dark』などの監督を経て、『PSYCHO-PASS サイコパス』では企画の立ち上げ当初より参加し、シリーズ通して監督を務めている。

　12年10月〜翌年3月にテレビシリーズ1期、14年7〜9月に同新編集版、14年10〜12月に同2期が放送され、2期に後続する形で、新たなストーリーが劇場版アニメーション作品として紡がれる。

　同アニメで描かれる近未来の日本は、人々の心理状態や性格的傾向を数値化する「シビュラシステム」によって管理され、事前に犯罪を防ぐことによる治安の維持と完全なセキュリティーを実現していた。このシステムによって計測される「犯罪係数」が規定値を超えた人物は「潜在犯」と呼ばれ、罪を犯していない段階でも裁かれ、逮捕・排除されてしまうからだ。すべてをコンピュータに委ねた管理社会、そこにどんな正義があるのかと、問いかける。

　シリーズ初の劇場用長編アニメーションとなった今作では「ストーリーの起承転結をはっきり描き、この作品特有のキーワード、犯罪係数や監視官、執行官などの知識が浅くてもカタルシスが得られる作品を目指していました」と塩谷監督。これまでのバックグラウンドを知らなくても会話についていける、かつ、コアなファンも満足できる要素を「レイヤーを重ねるように積み上げていった」という。

　1期のラストで失踪し、2期では生死不明だった狡噛慎也が劇場版に再登場するが、これまでのいきさつを知っているファンならついにやけてしまいそうな狡噛と常守朱の会話のシーンも「新規の観客に『ここで出てくるからには何かあったんだろうな』と受け入れてもらえるよう、演出を工夫しました。そこから彼のことが気になってテレビシリーズ1期の1話から観てもらえたらうれしい」と話す。

　アニメの魅力は現実にはありえないどんな映像でも作れるところだが、画面構成をかなり緻密に作り込む塩谷監督は、それに対するこだわりも人一倍強い。「人物の配置や大きさ、カメラとの距離感、アングル、また肌の色一つをとっても、それで喜怒哀楽を表現できたりもする。そういうところも一つひとつ丁寧に作っていきました。劇場版では戦闘シーンをはじめ、テレビシリーズではスケジュール的に不可能だった一歩先ゆく映像を目指しました。これまでのシリーズの集大成になっていると思います」。

　観客は細かい演出意図に気付かなくとも、それを臨場感として感じ取っていく。塩谷監督が考えるヒットの要因は「メインキャラクターたちがしっかりと地に足がついた人物に見えるところが『PSYCHO-PASS サイコパス』の面白いところだと思う」と話す。今後もシリーズは続くのか？　「今作の先にさらにストーリーが広がっても良い流れにはしてあります。この作品が話題になれば、可能性は広がると思います」と話している。