亀田誠治が語る音楽シーンの危機感「僕のミッションは世代をつなぎ、“本物の音楽”を継承すること」

 昨年、編曲を手がけたMISIA「アイノカタチfeat.HIDE(GReeeeN)」がロングセールスを記録するなど、長らく音楽業界の第一線で活躍し続ける音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治氏。プレイヤーとして活躍する一方、文化継承や人材育成など、良質な音楽を次の世代につないでいくための活動にも尽力している。時代とともに音楽を取り巻く環境は様変わりしているが、今のシーンに対してどのような思いを抱いているのだろうか。

今はヒットが点在する時代、流行歌が生まれにくい環境ではない

――平成という時代は、音楽業界にとって激動の時代だったように思います。振り返って亀田さんは今の音楽シーンをどう捉えていますか?
亀田 ネットで音楽を聴き、情報を得て育った世代が登場したことが一番大きな変化でしょう。それにより音楽の聴き方や在り方が多様化しましたから。古い音楽を遡ることができることで、OKAMOTO’S やTHE BAWDIESなど1950〜70年代の音楽をルーツに持つバンドが登場し、米津玄師を筆頭に、サウンドからビジュアルまでセルフプロデュースできる新時代のミュージシャンも次々と登場しています。それはネットの普及による教育的な裾野の広がりだと思うし、その恩恵は計りしれない。その状況は若者の音楽環境を豊かにしているはずです。一部では、ネットの普及によって音楽を聴く時間が奪われたとも言われていますが、僕はむしろ人々が音楽に触れる機会は増えていると感じます。

――椎名林檎さんや平井堅さん、大原櫻子さんなど、さまざまなヒットに携わっていらっしゃいますが、「ヒット」について時代を経て感じることは?
亀田 すべての年齢層、幅広いジャンルを網羅するヒット曲が生まれづらくなっているのは確か。ですが、決してヒット曲が生まれないというわけではなく、ある層に集中的に届いている楽曲、ネット上でバズっている楽曲など、今はいろいろなヒット曲が点在する時代なのだと思います。

市場縮小による制作費減で現場が疲弊、打開のカギはストリーミングに

――海外と比べ日本はストリーミング(SpotifyやLINE MUSICなどの定額制音楽サービス)の普及が遅れています。普及によってアーティストが利益を得づらくなるのではという指摘もありますが、ストリーミングについてどうお考えですか?
亀田 僕はストリーミング推奨派なので、その立場からお話ししますね。マーケットの縮小により、アーティストに利益が還元されないことも大きな問題ですが、それ以前に制作費の削減によって現場が疲弊していることを指摘したいです。僕が関わっている現場でも制作費は数年前に比べ、平均的に1/3くらいカットされていますが、このままでは作品のクオリティが担保できなくなる。さらに良くないのが、「それが当たり前」「しょうがない」という風潮がまん延していること。若いアーティストはもっと苛酷な状況に追い込まれているので、僕が先陣を切ってこの状況を改善したいと思っています。そういったなかで、ストリーミングは大きな可能性を秘めていると思います。世界的にもその勢いを止めることはできないし、ストリーミングに対抗する手を打とうなんて愚の骨頂。そうではなく、日本でももっと浸透するように努力すべきです。
――ストリーミングが浸透すれば、日本の音楽業界の問題も改善できる?
亀田 そう思います。日本では月額1000円程度ですが、その価値が浸透し加入者が増えれば、音楽業界全体にお金が行き渡るはずです。ですが、現状は加入者があまりにも少ないので、すべての音楽関係者に対して「ストリーミングに楽曲を解放して、新しい扉を開けませんか?」と言いたいです。制作費削減の問題もそうですが、多くの利益を得たミュージシャンが次世代や弱者のために動く、上から下に向けた音楽の流れを作ることはとても大事ですよね。

――ストリーミングの広がりによって、アルバムの価値が下がる、という一部の見解についてはいかがですか。
亀田 僕の考えはまったく逆で、ストリーミングの浸透によって、アルバムの意味合いはさらに強まると思っています。実はCDアルバムのほうが没個性的になっていて、たとえば最近CDの帯や資料を見ると、タイアップやコラボ情報ばかりで「売り文句はそれか?」と感じることが多々あります。そういう作り方こそ、アルバムをつまらなくしている理由ではないでしょうか。ストリーミングはむしろ、コンセプチュアルな作品を発表しやすいんですよ。ビヨンセとジェイ・Zの『Everything Is Love』もそうですが、しっかりとしたコンセプトやストーリー性のあるアルバムは今後増えていくと思います。できれば、楽曲に関わっているミュージシャン、プロデューサー、デザイナー、スタジオなどのクレジットを各プラットフォームで掲載してほしいですね。そういう情報を求めている音楽ファンは多いはずだし、次の世代の音楽関係者を育てることにもつながるはずです。

提供元: コンフィデンス

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