平井堅、20周年を迎えた「Ken’s Bar」で魅せた“進化” 「過去や今を壊して前に進む」

「歌い手を続けている限りは、自分の過去や今を壊して前に進みたい。新しい平井堅をお見せできるように頑張っていきたい」――クリスマスシーズンの恒例のコンセプト・ライブ『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.3』、12月23日横浜アリーナ公演のラストで、平井堅は自分に言い聞かせるかのように言葉を選びながら、観客に自身の“進化”を誓った。その決意が具現化されたような今回のライブは、新たな発見に満ちていた。

20周年を迎えても当初のスタイルを踏襲する“Ken’s Bar”

 オープニングSE「GREEN CHRISTMAS」が流れ、グリーン、ブルーのライトが場内に差し込み、ステージ正面には“Ken’s Bar”のピンクの文字が鮮やかに浮かび上がる。やがて、ステージの袖から店主の平井堅がスーツ姿で登場した。

 オープニング・ナンバーは、今年JUJUに書き下ろした「かわいそうだよね」のピアノ弾き語りだった。初の作詞作曲での楽曲提供となった同曲は、女性の真情を吐露した歌詞も注目を集めた。聴いていて、なんとも身につまされてしまう…。そんな複雑な思いも、2曲目の「思いがかさなるその前に…」に入ると、さっと溶けるように消え去っていった。アカペラで始まり、ギターの音色が歌声に優しく寄り添い、のびやかな歌声は会場全体を包み込んでいく。
 お酒やソフトドリンクを飲みながら、大人の空間で音楽を楽しむというコンセプトのもと、98年5月に始まった“Ken’s Bar”は今年で開店20周年を迎えた。今年はそれを記念して、第1弾は5月にTOKYO DOME CITY HALL、第2弾は8月にニューヨーク・Sony Hall、そして第3弾は11月の札幌を皮切りに福岡、広島、宮城で開催され、12月23日・24日の横浜公演でファイナルを迎えた。

 今は応募多数でプラチナチケット化している同ライブだが、スタートした98年当時は、観客が数十人であったという。その後、会場が大きくなっても、客席にはテーブル席、場内にはドリンク・コーナーが用意され、自分の楽曲だけでなく、本人が歌いたい楽曲も織り交ぜて歌われる当初のスタイルを踏襲している。MCで当時を振り返りながら「まさか20年も続けられるとは…」と感慨深げな様子が印象的だった。

オリジナル、カバーで見せた平井堅の新たな表情の数々

「装飾のないコンサートなので精神的には全裸な感じなんですよね」と、独特の言い回しで観客の笑いを誘い、「外は寒いですけど、ここ横浜アリーナは、歌うサンタクロースが温めてやるからな、最後までよろしく横浜BOYS& GIRLS!」の決めゼリフで、会場の熱気が一気に高まる。

「大好きな曲です」そう言って、小気味いいパーカッションの音色とともに歌いだしたのは、樹木希林&郷ひろみの「林檎殺人事件(郷ひろみ&樹木希林)」だった。ピンクの眼鏡をかけ、振付を交えながらのウィットに富んだナンバーの後には、15年ぶりにライブで歌ったという二日酔いの歌「I’m so drunk」をギターとセッション。続いてピアノとボーカルで、スモーキーな「POP STAR」を披露した。これまで耳にしたことのない斬新なアレンジに、ハラハラドキドキ、ザワザワ…心はかき乱される。シンプルな構成だからこそ際立つボーカルスキルの高さ、聴きどころ満載のチャレンジングなナンバーが続いた後で、観客の感情の高ぶりを落ち着かせるように、「LIFE is...」「センチメンタル」とバラード2曲が続き、二部構成の前半が終了した。

人気コーナーでの観客との距離感の近さ

 後半の1曲目は井上陽水の「リバーサイドホテル」のカバー。ウッドベースと歌声の丁々発止の掛け合いはとてもスリリングで、後を引く味わいだった。ドラマチックな「僕は君に恋をする」で、会場の雰囲気を一転させた後、ファンお待ちかねの観客参加型“リクエストコーナー”へと突入する。観客がにわかに色めき立つのが見てとれた。それもそのはず、このコーナーは客席に投げたボールをキャッチした観客は、歌ってほしい平井堅の持ち歌を自由にリクエストでき、しかも本人とのークも楽しめるという、ファン冥利に尽きる企画なのである。

 メインステージを下り、テーブル席の間を縫って、中央に設置されたサブステージまで移動して、観客との距離感はぐっと近くなる。一投目のボールをキャッチした人にマイクが渡される。平井堅の絶妙な突っ込みもあって、やり取りの間じゅう会場のあちこちからひっきりなしに笑いが起き。この日は2曲、「楽園」と「夢のむこうで」がリクエストされた。メインステージにいるミュージシャンとの軽い打合せの後の、ぶっつけ本番とは思えない見事なパフォーマンスは驚異的であった。

 同コーナーを終え、正面ステージまで「恋人がサンタクロース」(松任谷由実)を歌いながら戻ると、そこから怒涛のクライマックスへ向かう。「君の好きなとこ」の4つに組み合ったウッドベースと歌声の迫力に興奮を覚え、濃厚な「LOVE OR LUST」に酔う。「KISS OF LIFE」はアカペラで始まり、パーカッション、ベース、ピアノと加わっていき、この日初めてのバンドスタイルで演奏された。短いなかにいくつもの見せ場のある同曲の壮大な響きに圧倒される。次の「Love Love Love」でマイク片手にステージ上を端から端まで動き回り、盛り上がりは最高潮に達した。

“新しい平井堅を見せたい”MCで語った決意

 本篇ラストを飾ったのは、昨年発表されて新たな代表曲となった「ノンフィクション」。心のひだに触れてくる深遠なメッセージ、それを伝える歌の力によって、さまざまな感情が湧き上がってくる。この楽曲を得たことで彼は新境地を開いた、そう思うのは、おそらく私だけではないはずだ。

 アンコールは、会場中央のサブステージで、1曲目同様に自身のピアノの弾き語りによって、11月にリリースされた最新作「half of me」が披露された。歌い終わるとメインステージに戻り、マイクを通さない地声で「皆さんのおかげで最高の夜でした!」と感謝を伝えて、この日のライブは終了した。

「ノンフィクション」に入る前のMCで、デビューから23年、アーティストを続けてくることができたのはファンのおかげであると謝意を伝えるとともに、「板の上で歌うというのは、僕にとっては喜びでもあり苦行でもあります。長くやっているとフレッシュさはなくなっていきます。いい意味で危機感をもち、自分でも知らない自分の可能性を探したい」、「歌い手を続けている限りは、自分の過去や今を壊して前に進みたい。新しい平井堅をお見せできるように頑張っていきたい」という、決意表明のような言葉が心に響いた。

 彼が探し求める“新しい平井堅”の姿を推し量ることはできないが、今回のライブには、いくつもの新たな発見があったことは確かだ。次はいったいどんな表情を見せてくれるのか、そう思うとなんだかワクワクしてくる。来年4月からは第4弾となる、全4ヶ所計6公演のアリーナ・ツアー「Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.4」の開催が発表されている。さらに進化した姿が楽しめるに違いない。

文/カツラギヒロコ
『Ken's Bar 20th Anniversary Special !! vol.3』
(12月23日横浜アリーナ公演)セットリスト

■ACT1
1 かわいそうだよね
2 思いがかさなるその前に…
3 林檎殺人事件(郷ひろみ&樹木希林)
4 I’m so drunk
5 POP STAR
6 LIFE is...
7 センチメンタル

■ACT2
8 リバーサイドホテル(井上陽水)
9 僕は君に恋をする
10 楽園
11 夢のむこうで
12 恋人がサンタクロース(松任谷由実)
13 君の好きなとこ
14 LOVE OR LUST
15 KISS OF LIFE
16 Love Love Love
17 ノンフィクション

■ENCORE
18 half of me

提供元: コンフィデンス

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