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宇多田ヒカル、約12年ぶりツアーに見た表現者としての“真価”

 アンコールの「Goodbye Happiness」を歌い終え、静かな興奮と温もりのこもった拍手を全身に浴びながら、少し戸惑ったように、今にも泣き出しそうな笑顔で、宇多田ヒカルはしばし会場を眺めていた。ツアーとしては約12年ぶり、活動休止前の2010年12月に行われた横浜アリーナ公演からは約8年ぶりとなる『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018』12月5日のさいたまスーパーアリーナ公演に立ち会い、稀代のアーティストの帰還を実感した。

ボーカリストとしての魅力を見せつけた2時間余り

 宇多田ヒカルというと、ソングライティングの非凡な才能はもとより、唯一無二の存在感、率直な発言などがクローズアップされがちだが、ボーカリストとしてのポテンシャルも高く評価されている。大仰な演出は行われず、ひたすら歌と演奏で魅せた2時間余りのステージは、シンプルにまとめられてはいたものの、とても濃密で見ごたえのある内容だった。
 1曲目は「あなた」。背中の大きく開いた黒いドレスを身にまとって、ステージ中央からせり上がってきた彼女は、歌いながら前方に向かって歩き出す。会場は一瞬にして、祈りにも似た歌世界に引きずり込まれていく。少女の面影を残した孤高のアーティストは、いつの間にか憂いを帯びた表情が似合うアーティストへと変貌を遂げていた。続く「道」は、16年に発売された復帰アルバム『Fantome』のメインテーマとも言える楽曲だ。休養期間を経たことによって得た“ギフト”とも言える2曲を冒頭に据えたことで、本ツアーに臨む覚悟が窺えた。2曲立て続けに歌い、「どうも、みんな」と短いあいさつの後、聴き慣れた軽快なイントロが始まり会場が一気に沸き立つ。「traveling」のサビでマイクを観客に向けて「一緒に歌って!」と呼びかける。

 MC第一声は「こんばんわ! 今日初めての人はいますか?」、ライブへの参加の有無をについて観客に問いかけると、3分の2ほどが手を挙げる。「ほとんどじゃん。あまりライブやらないから…」と、ぼそっとつぶやく。場内からの「お帰り!」の声に「ただいま」と照れたように応える。この辺りの朴訥とした観客とのやり取りを目の当たりにして、「変わっていない部分もある…」と思わず笑みがこぼれてしまった。

ライブの随所に感じられた宇多田ヒカルの価値観

 今回のライブでは、全編を通してスマホでの撮影や録音が許可されていた。国内では、楽曲を決めて撮影や録音を許可するケースもなくはないが、非常に稀である。「フラッシュは使わないで。動画は画面を暗くして、他の人の邪魔にならないように気を付けて撮って」等々、本人自ら撮影のマナーについて注意喚起が為された。欧米のやり方に倣ってというよりは、これまで、ネットライブやイベント等でもユニークな発信を行ってきた独自の価値観によるものなのだろう、そう解釈した。

「Prisoner Of Love」から、歌声がいっそう伸びやかになっていく。軽快な「Kiss&Cry」、オリエンタルな魅力の「SAKURAドロップス」、厳かな「光」の後、ステージに一人のダンサーが現れた。高瀬譜希子――昨年7月に配信リリースされた「Forevermore」では、全編本人によるダンスで構成されたミュージック・ビデオが話題を集めたが、その振付を担当したのが彼女である。「ともだち」「Too Proud」で、宇多田に寄り添ったり離れたり、手を絡めて踊ったり…。赤い照明に浮かび上がる2人の姿はとても艶やかで、魅惑的だった。

 まだ余韻が残るステージに突如として映し出されたのは、ピース・又吉直樹との対談映像であった。ツアーのテーマである“Laughter in the Dark”をテーマに2人が語り合うドキュメンタリーだと思いきや、あるひと言がきっかけで物語は思わぬ方向へと転がっていき、場内には笑いが起きる。「ここにコメディを挟むのか…」少々面食らったものの、このギャップも、彼女のライブの醍醐味での一つなのだと思い返す。

 そんな和んだ会場の雰囲気も、後方のステージに彼女が登場した瞬間に一変する。「誓い」「真夏の通り雨」「花束を君に」、情感たっぷりの歌声に、会場は一気に飲み込まれていく。スポットライトが当たり、まるで宙に漂よいながら歌っているような幻想的なシーンだ。

20年を経ても変わらぬ楽曲の新鮮な輝き

「20年ありがとう。ここでライブをできていること、ここにいることに有難うと言いたい」この日、彼女は何度も、会場に居合わせたファンとの邂逅を祝福していた。そして、流れ始めたのは、「First Love」のイントロ。一気に00年代を目前に控えたあの時代に引き戻された気がした。おそらく、会場にいたすべての人が、同じ思いを味わったに違いない。20年という時を隔てて、宇多田ヒカル自身が詠み交わした同曲と相聞歌のような「初恋」から「Play A Love Song」へとなだれ込む。ライブのクライマックスだ。強いメッセージをポップなラブソングに包み込んだこの曲の持つ明るさは、本編のラストを飾るにふさわしいものだった。

 アンコールは男性の視点と女性の視点が交互に出てくる「俺の彼女」。ここで、この日のステージを支えたバンドとストリングスの紹介が行われた。デビュー曲「Automatic」、ライブを締めくくった「Goodbye Happiness」の新鮮さ。今回の新旧織り交ぜたセットリストの輝きは、宇多田本人の歌唱力はもちろんだが、素晴らしいアレンジと演奏に拠るところも大きい。

近い将来、再び彼女はステージに戻ってくると確信

 当初は今回のツアーに対する不安を感じていたそうだが、「今までの中で一番ライブを楽しんでいる状態にいる」と満足げに語り、「それはお客さんとの関係なのかな」とつぶやいた彼女。この言葉を聞いて、8年前の横浜アリーナでの光景がよみがえった。ラストの曲を歌い終えて、喜怒哀楽すべてを内包したような、何とも言えないすっきりした表情でステージを去っていく姿を見て、休養の後に戻ってくる場所はステージであってほしいと願ったが、その期待は今回のライブで叶えられたように思う。いつまでも鳴り止まない拍手を全身で受け止める彼女の心中をかすめたのは、次なるライブへの意欲ではなかったか。ツアーで深まったファンとの絆によって、近い将来、再び彼女はステージに戻ってくる、そう信じてやまない。

 14万人を動員したツアーの模様は、来年1月27日午後9時からBSスカパー!で放送が決まっている。また、3月10日にはMUSIC ON! TVでツアードキュメンタリーも加えた完全版が放送される。

文/カツラギヒロコ
『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour』【※12月5日(水) 公演セットリスト】
M1 あなた
M2 道
M3 traveling
M4 COLORS
M5 Prisoner Of Love
M6 Kiss & Cry
M7 SAKURAドロップス
M8 光
M9 ともだち
M10 Too Proud
M11 誓い
M12 真夏の通り雨
M13 花束を君に
M14 Forevermore
M15 First Love
M16 初恋
M17 Play A Love Song
EN1 俺の彼女
EN2 Automatic
EN3 Goodbye Happiness

提供元: コンフィデンス

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