サザンや星野源ら所属、レーベル長語るヒットの理由「まず音楽でしょ」

音楽情報サイト「SPEEDSTAR CLUB」立ち上げの意図

――普通に考えると、レーベル設立25周年であれば、記念イベントなりフェスなりを開催してもおかしくないかと思うのですが、そのような動きは今回特にしていない。それには何か理由があるのでしょうか。
小野 単純にあまのじゃくなだけです(笑)。実際、20周年の際には記念イベントを盛大に行いました。ですがよく考えてみると、レーベルが20周年でも25周年でも、お客様にはあまり関係ないんですよね。記念フェスをやっても、お客様はあくまで目当てのアーティストのパフォーマンスが楽しみで会場に集まってくる。ですので25周年は、ファンもアーティストたちも我々も満足できるほかの仕掛け、方法論はないものかといろいろと模索をしました。LINE LIVE でマンスリーのMV番組『SPV』を展開したのも、音楽レーベルが25年も継続していることの意義はどこにあるのかを、改めて探った結果の1つです。
――なるほど。無料登録制の音楽情報サイト「SPEEDSTAR CLUB」を立ち上げたのも、そうしたトライアルの1つなのでしょうか。
小野 現在や過去の所属アーティストを眺めてもらえればわかるように、決してジャンルで選ばれた人たちではありません。アーティストに発信力があり、かつ作品性が高いというなんとなくの共通項こそありますが、ジャンルはバラバラ。ですが25年の歴史のなかで、魅力ある作品群そのものが大きな財産になっています。ここで改めて、スピードスターとしての新たなファンを増やすための発信の仕組みを整えたいと考えた。

 このオウンドメディアを活用して、新人アーティストへの興味喚起や、所属する中堅・ベテランの多様なアーティストへのつなぎ込みまで、可能な環境を作っていけたらと思っています。カタログ活用という意味では、昨今のプレイリスト人気などにもうまく対応したい。スピードスター縛りでのプレイリスト提案や、人気アーティストにキュレーションしてもらうといった方法もあるでしょう。

才能を見極めるポイントの1つは“覚悟の度合い”

――現状、斉藤和義、くるり、ハナレグミといったベテラン、星野源、竹原ピストルなどの注目組、スガ シカオ、KREVA 等の移籍組、さらに細野晴臣、矢野顕子といった重鎮から雨のパレード、never young beachといった若手まで、非常にバランスの良いラインアップが揃っています。
  • 7月25日に発売された、斉藤和義のデビュー25周年記念ベストアルバム 『歌うたい25 SINGLES BEST 2008〜2017』

    7月25日に発売された、斉藤和義のデビュー25周年記念ベストアルバム 『歌うたい25 SINGLES BEST 2008〜2017』

  • 今年10月にCDデビュー20周年を迎えるくるりの最新アルバム『ソングライン』(9月19日発売)

    今年10月にCDデビュー20周年を迎えるくるりの最新アルバム『ソングライン』(9月19日発売)

小野 ベテラン・中堅・若手、どれが欠けてもレーベル運営はうまく回らなくなってしまいます。決してビジネス的な側面だけの話ではなく、どうしても活動のタームが長くなりがちなベテラン勢にあまり無理をさせないため、必然的にベストミックスが求められる。特に、若手の発掘・育成には常に注力しています。

――若手の才能の見極めはとても難しいと思います。ご自身ではどんな部分にこだわっておられますか。
小野 まずは、「絶対にこのアーティストをやりたい!」という現場のスタッフの熱量を信頼します。ダメ出しはよほどのことがないとしない。その上で敢えて言うならば、訓練ではどうにもならない、そのアーティストならではの魅力の有無はしっかり見ます。ライブもトークも技術的な上手い下手は訓練次第でどうにでもなりますが、そもそもの声の魅力とか、ぽつんと発する言葉とか、そういう光る魅力の有無は大事。

 あとは、どこまで音楽をやっていく覚悟があるかどうかも無意識に判断しているかもしれませんね。これは明確な根拠のない持論なのですが、どんなアーティストでも必ず一度はやってくる、大きなチャンスをきちんと掴めるかどうかの覚悟でもあります。好機を迎えたタイミングで、しっかりとチャンスを掴むことができたアーティストは、音楽業界で長く活躍できているように思うんですよね。

いろんなことに手を出す前に、まずはきっちり良い音楽を

――小野さんがレーベル長になってからの2010年代以降というのは、それこそ音楽業界も激変し、リスナーの音楽の聴き方や購買行動もどんどん変化してきました。
小野 CDが売れないとか音楽産業の未来がとか、さんざん語られていますよね。業界外の友人に心配されて、忸怩たる思いがあったり(苦笑)。業界全体としては360度ビジネスへのシフトが加速していて、もちろんそれは意味のあることだと思いますが、やはり音楽あってこその音楽産業です。

 僕ら現場の人間は、基礎となる音楽を作り、送り出すサポートをしているのだから、浮足立っていろいろなことに手を出す前に、きっちり良い音楽を届けることが大切。「まず音楽でしょ」と誰かが言い続けないといけない。そのうえで、作品を作る際の仕掛け、それをプロモートする仕掛けで、我々じゃないと実現できないような大きな設計図を描くのがメジャーの役割です。個人レベルやインディーズでは実現できない、そういう領域でやれることはまだまだたくさん残っているはずだと思っています。

(文:及川望/写真:西岡義弘)

プロフィール

おの あきら
1970年7月生まれ。1994年、大学卒業後ビクターエンタテインメントへ入社。エリアプロモーターとして東北6県を担当、2年目よりスピードスターレコーズ専任のエリア担当として宣伝全般に携わる。1996年、スピードスターへ異動後、THE MAD CAPSULE MARKETS、つじあやの、WINOなど、さまざまなアーティスト担当を歴任。2006年よりサザンオールスターズも担当している。2010年よりスピードスターのレーベル長。ベテランから新人まで分厚いアーティスト層を備えたレーベルの新たなピークを創出している。

提供元: コンフィデンス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索