デビュー40周年サザンオールスターズのプレミアライブにファン熱狂 「久しぶりで緊張する」
みんなが目の前にいるのは久しぶりで緊張する(桑田佳祐)
1曲目に演奏されたのは、予想通りデビューに馴染みの深い楽曲。桑田が大学2年生の時に作ったオリジナル曲で、デビューアルバム『熱い胸さわぎ』に収録されていた「茅ヶ崎に背を向けて」だ。自らの出身地である茅ヶ崎をモチーフにした歌詞に、“おかげ様で40年”や“いつもいつもありがとう”といった40周年絡みのキーワードを織り交ぜてゆく。しんみりさせずに感謝の言葉へと繋げるテクニックは、さすがサザン。最後は“ここは天下のNHK〜”と、本日の会場を意識した歌詞で締めた。
間髪入れずに始まったのは、ホーンセクションの豪華なアレンジで始まるブギ調の「女呼んでブギ」だ。これまたデビューアルバムからの選曲で、2曲目にして圧倒的な存在感を見せつける。その凄さをさらに実感したのが、ここから「いとしのエリー」への流れだ。陽気な雰囲気から一転、清らかなストリングスの調べが会場を包む。さっきまでの熱気はどこへ?と感じるのも束の間、会場のテンションは完全にバンドに持って行かれる。初期サザンきっての名曲をここで出していいのか!?とも思ったが、考えてみれば彼らの名曲はまだまだ無限に残っている。桑田が“エリ〜”と歌い上げたその時、“祝40周年”の文字がスクリーンに映し出され、現在放映中のNHK連続テレビ小説『半分、青い。』にかけて「“まだまだ半分、青い。”サザンオールスターズ」の文字が。と、ここでようやくMCがスタート。ひとしきりデビュー当時の思い出を語ったあと、ライブ・ビューイング専用カメラの前へ。ライブ会場にいるのは数千人だが、「このカメラの先に7万人が待っていると思うと、失敗できないという追い詰められた状況が待っている(笑)」という桑田らしいユニークな表現で、全国に散る7万人のファンに呼びかけた。
MC後は、シンセサウンドを多用したクールでアーバンな「さよならベイビー」、学生時代の仲間がバンドから離れていった時の寂しさを綴った「せつない胸に風が吹いてた」を披露。会場がしんみりとした空気に包まれていると、一転、前衛的なシンセのフレーズが奏でられる。すると、あの曲が始まった。ダークでムーディーなホーン、淡々とした打ち込みのリズム、呪文のようなリリック、ラップ……。1996年に発表された「愛の言霊(ことだま)〜Spiritual Message〜」だ。会場のライティングは落とされ、妖艶なムード一色になったところで再びMCへ。
桑田は「こうしてNHKホールのような空間でやるのは新鮮で、みんなが目の前にいるのは久しぶりで緊張する」と話し、次の演奏曲目を「14年ぶりにやるすごく好きな曲」と紹介した。そう言って始まったのが「SEA SIDE WOMAN BLUES」だ。ハワイアン調のイントロが印象的な、湘南を彷彿とさせる楽曲。続いて、ライブで演奏されることも多い、バンドサウンドが前面に押し出された「汚れた台所(キッチン)」、大人のフロアナンバー「My Foreplay Music」、原由子が初めてボーカルを担当した昭和歌謡「私はピアノ」と息つく間もなく往年の名曲たちが披露され、気づけばライブは中盤へ。
還暦過ぎて学生みたいなバンドをやっているのは私ぐらい(原由子)
サザンらしいトークで場が和むと、現在公開中の映画『空飛ぶタイヤ』主題歌の「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」がスタート。バグパイプのような特徴的なイントロが流れると、スクリーンに都会のビル群が映し出され、スーツ姿のパフォーマーが登場。ここからは見せるライブのスタートだ。力強い歌詞と共に、サザンの今を象徴するサウンドが会場を包む。パワフルな演奏が終わると、波の音が流れ、スローテンポのバラード「はっぴいえんど」が始まった。この曲は2015年に発表された楽曲だが、桑田が病気によって休養した際、「人はひとりじゃ生きられない。みんなのおかげで生きている」と思ったことが歌詞になっている。
続いて演奏されたのは、桑田の監督作品映画『稲村ジェーン』の主題歌で、「サザンの中で一番好きな曲の1つ」と桑田が公言する「真夏の果実」だ。ファンの中でも「TSUNAMI」や「希望の轍」と1、2を争う人気曲で、会場は皆一様にこの名バラードに聴き入った。そしてこのままバラードが続くのかと思いきや、次に演奏されたのは明るさ全開の、生音を前面に打ち出したバンドナンバー「太陽は罪な奴」。これほどまでに抑揚あるセットリストを組んでくれると聴き応えがある。さすがサザンだ。これまでの流れを引き継いで「涙の海で抱かれたい 〜SEA OF LOVE〜」へ、会場は総立ち状態で、浴衣姿のパフォーマーもステージを彩る。と、ここでメンバーは一旦ステージ裏へ掃け、インフォメーションが。ドヴォルザークの「ユーモレスク」の軽やかなサウンドが流れる中、「次の曲の転換、音響機材の準備に充てさせていただきます。当バンドはメンバー全員が還暦を超えており、程よく呼吸を整える時間が必要です」とのアナウンスがスクリーンに映し出される。会場は笑いと激励の声に包まれ、リラックスしたところで後半戦スタート。
あらゆる年代の楽曲からセレクト、名曲を惜しげもなく披露
ここでサポートギタリストの斎藤誠が「PIPELINE」のさわりを弾いてクールダウンしたかと思いきや、先ほどの勢いを取り戻し、ラテン歌謡テイストの「HOTEL PACIFIC」へ。最後は桑田がポーズを決めたダンサーを突き飛ばすという愛情溢れるパフォーマンスで締め、メドレーのような怒涛の5曲が終わった。続いて「みんなのうた」の前奏として、「あの日から何度目の〜」とOVERTUREを歌唱。これはもともと、桑田がサザンを代表してファンへ30年間の感謝の思いを伝えたもので、毎回バージョンアップが繰り返されている。今回も、“6月25日にデビューしたサザンオールスターズ。みんなの応援があり ここに立っていられるのさ。美しい思い出も大切だけど 人生はこれからを夢見ることさ”と感謝の意を込めた歌詞が披露された。その流れからの「みんなのうた」は、盛り上がらないわけがない。デビュー10周年となる1988年6月25日に発売されたこの曲は、今や夏のコンサートやライブの定番曲。紙吹雪が舞う中、観客はオールハンズアップ状態で、さらなる盛り上がりを見せ、本編が終了した。
やり切ったという表情のメンバーたちはここで観客との写真撮影を行い、メンバーは一旦退散。会場にはアンコールを求める声援が交差し、衣装チェンジしたメンバーが再び登場した。そこで初めて、名古屋のライブ・ビューイング会場がトラブルでライブの冒頭15分間映像が流れなかったことが謝罪されると、会場からは「もう1回最初から〜!」という無謀な声が。もちろん桑田は笑顔で応え、「来年名古屋行くよ〜!」という明るい掛け声と共に、アンコールの「DIRTY OLD MAN 〜さらば夏よ〜」が始まった。アンコールの2曲目に選ばれたのは、ドラマ『Sweet Season』主題歌の「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート〜」。発売当時は歌詞に出てくる土地を訪れるデートが流行ったが、今日もスクリーンにはみなとみらいの夜景をはじめとした横浜の景色が映し出され、切ない歌詞に胸が締め付けられる。
最後を締めたのは、やはりデビューシングル「勝手にシンドバッド」だった。サンバ調の楽曲に合わせ、サンバ衣装を身にまとったダンサーたちが登場し、ステージと客席を縦横無尽に練り歩く。そしてお祭騒ぎのままのテンションで、「蛍の光」へ。再びメンバー紹介をし、最後は新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」の音源が流れるなか、メンバーは名残惜しそうにステージを後にした。あらゆる年代の楽曲からセレクトし、誰もが聴きたかった名曲を惜しげもなく聴かせてくれた今回のライブ。老若男女に愛され続けるバンドとなったサザンの40周年は、今ここに幕を開けた。