テレビかラジオか?! 本編をまるで無視した『コンフィデンスマンJP』の副音声が話題
フジテレビドラマのお家芸となりつつある斬新な副音声
副音声は、主音声の日本語に対して、英語など外国語で聞きたい場合の二か国語や、障害者向けのサービスとしての解説などを目的に使用され、従来はあくまでも放送の補完サービスとして捉えられていた。ところが近年では、『NHK紅白歌合戦』やスポーツ中継、ドラマなどでの副音声が話題になることが増え、SNSでバズを起こす起爆剤としての要素が強くなるなど、“副音声のエンタテインメント化”が目立ってきている。放送業界で活躍するジャーナリストの長谷川朋子氏は「出演者の理解、協力が必要になってくると思いますが、テレビ離れが叫ばれるなか、いろいろな手法でドラマを楽しんでもらう工夫が求められています」と昨今の視聴環境の変化を挙げる。“副音声”は、「リアルタイム視聴」を促す策の1つであり、パッケージ発売時の特典映像などで使用するコンテンツとしてスタンダード化されている。
『コンフィデンスマンJP』以外でもフジテレビでは、「悪魔の心の声解説」でのブラック副音声が話題となった『ファースト・クラス』(14年4月期)や、野村周平のはっちゃけトークで女性を惹きつけた『恋仲』(15年7月期)、ドラマの展開に合わせて本音トークをさく裂させた「真夏の激アツ副音声」が受けた『好きな人がいること』(16年7月期)など、主音声を上回る勢いの人気を得ていた。前述の長谷川氏は「フジテレビでは月9などの副音声企画が定着しており、SNSでの連動企画など、本編以外の仕掛けにも積極的。出演者の協力を得て、多角的に1つのドラマを盛り上げ、視聴者に楽しんでもらおうという狙いがあります」とファンを囲い込む1つの施策だという。
テレビかラジオか?! 主音声での本編を一切無視した副音声
その上で注目なのは、副音声が番組とはまったく関係のないラジオ番組を聞いているような作りになっていること。五十嵐役を演じる小手伸也がパーソナリティとなり、ドラマ出演者や主題歌を歌うアーティストがゲストとして出演する作りになっている。
「副音声はこれまでも何度もトライしました。副音声で聞く方は、ドラマの本編を注意深く観ている人ではない。注意深くドラマを観たい方は、副音声では聞かない。だからこそあえて副音声で聞いてくれる方には、話す内容やあきさせない企画にしないといけない、ということを過去の経験から得ました。そこで企画したのが『五十嵐のスウィートルーム』です」(草ヶ谷氏)
本編にほとんど触れないトークが受けているが、それも制作サイドの狙いだ。
「副音声は、ラジオを聞いてもらうような感覚で楽しんでもらいたい。あくまでメインは副音声で、作り手としても主音声での本編は一切無視しています。その背景にも、昨今の多様化したドラマの観られ方が大きいです」(草ヶ谷氏)
主音声をオフに…副音声で音楽を被せる斬新な手法
「オーディオコメンタリーは、なんとなく主音声が流れるなか、副音声で解説が聞こえる、それが通常だと思われていますが、本来何の決まりもない。初回ゲストは、主題歌を歌うOfficial髭男dismですが、副音声ではあまり類をみない生歌唱を取り入れました。副音声では音が噛み合うどころか、主音声をオフにしています。それは、わざわざ副音声で聞いていただけるなら、100%楽しんでもらいたい、何度でも楽しんでもらいたい、という制作の思いからです」(草ヶ谷氏)
第9話『スポーツ』編には、東出昌大、小日向文世と共に副音声企画に主演の長澤まさみが登場。お客さんを招いての公開収録が行われるなど、“副音声”の新たなコンテンツとしての可能性を示した同ドラマ。最終回ではどんな仕掛けがあるのか、本編だけでなく、副音声にも注目したい。