『アンナチュラル』Pが明かす主題歌「Lemon」完成秘話
死を描いた内容であっても悲しいだけの作品にはしたくなかった
新井 ありがとうございます。作品賞というのは全スタッフと全キャストの力が1つになって受賞できるものなので、みんなの努力が実を結んでこのような賞がいただけて本当に嬉しいです。
――脚本家の野木亜紀子さんとは本作で初めてタッグを組まれました。
新井 野木さんは、パワフルだし、何よりあきらめない人でした。オリジナルで法医学ドラマを作るにあたり、たくさんの先生方に取材をさせていただきました。法医学の先生方はもちろん、例えば1話なら感染症学の先生、2話なら水質の専門家の方など、毎回さまざまな専門家の方にお話を伺いました。特に法医学監修で入っていただいた上村先生には毎週のようにお会いして、「こういうのはどうですか?」とご相談して、時には「それは成立しないですね」と言われることもあったり…。
――審査員からは、「本当の死因の究明が残された人に希望を与えている構成が見事」との声が多く聞かれました。
新井 この作品のテーマは「死と向き合うことで現実世界を変えていく」というものでした。ただ、死を描いた内容であっても悲しいだけの作品にはしたくなかった。温かな気持ちが残り、観て良かったと言ってもらえる作品を目指しました。
主題歌をどこにかけるかを考えながら、ドラマを作った
新井 主題歌は「残された遺族の未来に、少し希望が差し込んだ」と思える曲にしたいなと。米津さんには、サスペンス調の煽るような曲でもなく、スカッとするポップな曲でもなく、心にスッと入っていくような、人の気持ちに寄り添える曲をお願いしたいと伝えました。
新井 本作では、どこに主題歌をかけるか考えながら台本を作っていました。ですから米津さんには、主題歌をかけたい箇所に付箋を貼った台本を渡したり、仮編集した映像があがったときは、観ていただいて、このあたりに流したいと説明しました。実は曲ができあがり、試写会用のMA(注※映像に効果音や音楽、ナレーションなどを加えたもの)が終わった後に、米津さんから「曲を直したい」と言われまして。第1話は、試写会用と実際にオンエアされた作品とではサビがちょっと変わっているんです。米津さんに「なんで変えたんですか?」と聞いたら、「なんとなく」って(笑)。
キャラクターにまた会いたくなるような作品にしたかった
新井 キャストのみなさんには、最初の顔合わせの時に、事件の面白さとともに、登場するキャラクターにまた会いたくなる作品にしたいとお話しました。死を扱っていても、会話劇は楽しく見られるような作品にしようと野木さんとも話していましたので、愛されるキャラクターを育てていってほしいなと。実は野木さんは、毎回面白い会話劇を長めに書いてくれているんですが、尺の都合でカットしているんですよ。すごく楽しいんだけど、カットしないと事件が入らないので(笑)。野木さんの書いた初稿は、ファンにはたまらないと思います。
新井 原作ものはベースがあるので、ある程度、共通のイメージが掴めます。でも、今回はゼロから作り上げなければなりませんでしたから、プロデューサーも、監督も脚本家もキャストも、手探りで走り始めた感じでした。みんなで意見を出し合って、反映させて、撮影を進めて、撮影中も言い回しがちょっと違うと思えば、その場で変えてみたり、みんなで力を合わせて、作り上げていきました。
とくにミコトと東海林と六郎は3人で会話をするシーンが多かったので、3人で繰り返し本読みをして、キャラクターを作りあげていきました。その時にポッと出たものを採用したこともありました。例えば、東海林役の市川実日子さんが突然笑い出したのが面白かったので、台本には書いてなかったけれど、その笑いを入れようって決めたり。今回ほど、キャラクターのことでいろいろな人と話したことはなかったですね。
――個人的に、思い入れのある回はありますか?
新井 もろろん全話に思い入れはありますが、第7話のいじめをテーマにした話は印象に残っています。いじめってどうしてなくならないのか、どうしていじめるのか、と思うし、それによって自殺する人がいるという現実がある。みんな経験しているとは言いませんが、若い頃の苦い思い出はみんなあると思うんです。そんな現状を踏まえたうえで、野木さんが考えられた、命を扱っている主人公が「死んだら意味がない」と訴えるという展開は、とても興味があったし、やって意味があると考えました。あと、第4話はバイク事故で父親を亡くした家族を描いた話。事故や突然死によって、もしも突然大切な人がいなくなったら…。それは、誰もが起こりうる現実。「自分だったらどうするか?」とても考えさせられる内容でした。
新井 内容がNGで断られるなら仕方ありませんが、スケジュールで断られるのは一番悔しいですからね。今回は台本を作っている時から、役名じゃなくてキャスティングしたい俳優さんの名前を呼びながら打ち合わせしていました。だから、キャスティングはその人以外、考えられなくなってしまうんです。なんとかスケジュールが成立しないかと画策するのですが、そのせいでスケジューラーさんに苦労をかけてしまいました(笑)。
――最後になりましたが、作品賞受賞の感想をお願いいたします。
新井 これまでどちらかというと、連続性があるドラマを手掛けてきましたので、1話完結の難しさを改めて感じました。1話で見ごたえがあって、なるほどと唸らせながらも、温かい気持ちが残るような作品になればと力を注いできました。スタッフ、キャスト、みんなの力が合わさったからこそ、数ヶ月経った今でもこうして評価していただける作品になったのだと思います。本当にありがとうございました。
(文/河上いつ子)