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石原さとみ、30代迎え意識に変化「脚本先行、演じたことのない役に挑戦したい気持ちがあった」

 法医解剖医の主人公を演じた金曜ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)が、各所で高い評価を集めている石原さとみ。18年1月期放送のドラマを主な対象とした『第11回 コンフィデンスアワード・ドラマ賞』でも見事に主演女優賞、作品賞など、7部門中4部門を受賞した。同作は石原にとって、30代になって初めて挑んだ連続ドラマ。キャリアの代表作にもなり得る同作で開いた新境地、トラウマになるほどだったという役作りなど、改めて撮影時を振り返ってもらった。

主人公のミコトは「野木さんが当て書きしてくれた」

――主演女優賞のほか、作品賞、助演男優賞(井浦新)、脚本賞(野木亜希子)の4部門を『アンナチュラル』が制しました。
石原 作品自体を評価してもらえたことがとても嬉しいです。オンエアが始まる前に撮影は終わっていたので、撮影中は、観てくださった方の反応がどうなっているのかわからないまま進んでいきました。そうしたなかで原動力になっていたのは“野木さんが書いてくれた脚本が面白い!”ということでした。その脚本の面白さを十分に表現した作品の一部になることができて、作品賞をいただけたことがなにより嬉しいです。

――三澄ミコトという役柄は石原さんにとっても新境地だったと思います。
石原 30代に入り、昨年1月くらいから、これまでに演じたことのない役をやりたいという気持ちがありました。また、30代に入って初めての連ドラでもあったので、Twitterのトレンドワードに作品名や役名がトップに挙がるような、脚本先行の作品をやりたいと思っていたので嬉しいです。

――そうしたなかで、この作品に出合ったわけですね。
石原 そうですね。野木さんの脚本で、枠はTBSの金曜10時、そして監督は塚原あゆ子さん(『リバース』『Nのために』など)というお話を聞き、その時点からもう楽しみでしかなかったです。今回は、実際に私と会って野木さんが当て書きしてくださったんですが、脚本では、とてもサバサバして、クールな主人公だったんです。そういうふうに見えているんだってビックリもしましたが、顔合わせの時、すごくクールにやったら、塚原さんから「違う。もっと穏やかで、朗らかな感じ」「石原さんのままでいいんだよ」と言われて…。それで柔らかくて、優しくて、穏やかな部分を出すようにしました。

トラウマになるほど役に向き合った

――ミコトの特殊なバックボーンをどう演じるか、キャラクター造形はとても難しかったと思います。
石原 撮影が始まり、監督と話していくなかでわかったのは感情の喜怒哀楽のなかで、テンションの数値が仮にゼロから100まであるとしたら、30から60を行ったり来たりしている、感情をずっとニュートラルな状態にコントロールできる子にしようということでした。
――審査員からも「抑えた演技が素晴らしかった」という声が多数聞かれました。
石原 ギャップがありすぎないようにしたいとは考えていました。すごく良く笑う子ではないけど、陰なわけでもない。その中間をキープすることをプライベートでも常に意識していたから、それが結構辛くて…。ドラマが終わってプライベートに入った時に、やっと“自分ってこうだよな”って思い出したくらい。でもそうやって感情を抑えられるようになって、その期間は少し大人になったような気もしましたね(笑)。

――その意味でもミコトという役柄を掴めたシーンがあれば教えてください。
石原 2話で神倉所長に「生きているときも助けられずに、死んでからも見なかったことにするんですか?」と言うシーンがあったのですが、そこをガツンと言うのではなく、諭すように“悲しみ”を多めに本番で演じたら、監督が駆け寄ってきてくれて、「素晴らしい!」と言ってくれたんです。その時に、この子のリミットというか、感情の幅が掴めました。
――2話では凍死しかけるとか、叫ぶシーンもありました。
石原 どのシーンでも “これでミコト、大丈夫?”という自問自答は常にしていましたし、監督にも確認していました。実はクランクイン直後の1話のシーンでは当初、声のトーンが低かったんです。あのシーンではナチュラルにやりすぎて、雑な声の出し方になっていました。それが気になって、最終的には完成直前だったにもかかわらず、監督にお願いしてアフレコし直してもらったんです。

――最終話の法廷のシーンでさえも見事に感情がコントロールされていました。
石原 とにかく集中を切らしたくなくて、(殺人現場や自殺、孤独死の現場で働く)特殊清掃員の方のブログを読んだり、現場にも来ていただいていた警察の方に質問したりして、実際に遺体を見た時にどういう感情を抱くのかとか、それこそトラウマになるくらい役作りに向き合いましたね。ただ、そうやって集中し、気持ちが入ると今度は表情が強くなったり、キツく見えたりする。そこは監督にも行き過ぎていたら言ってくださいと伝えていました。
――UDIラボ全体も見事なチームワークでした。
石原 現場ではみんな、見られ方とか見せ方を気にせず、この子はこういう子というように自分の役に向き合っていました。自分のキャラクターはこういうものと、考えながらやっている姿は職人さんが集まった感じでしたね。

――ミコトと中堂が背負っているものはとても重く、「不条理な死」と向き合う2人の姿に多くの人が共鳴していたようにも思います。
石原 すべてのキャラクターにバックボーンがありますから、それぞれが引っかかるセリフが違うんです。私だったら「殺人事件の半数以上は、親子兄弟夫婦といった親族間殺人」というセリフに対して、それを言う時の自分の感情としては、“家族を家族の殺人で失った人”のセリフですし、また、そのセリフを受ける人の反応も中堂さんや久部君、東海林でそれぞれ違う。“私、このセリフ、ここで引っかかるはずだ”だとか、台本を読んでいるだけではわからない部分が現場でわかったり。誰かがボソッといった一言に反応したり、そういうのが面白かったですね。

答えのない問いと向き合う時間がとても好きだった

――多くの視聴者も絶賛していましたが、野木さんの脚本も素晴らしかった。
石原 私は5話が一番印象的でした。中堂のように憎しみを原動力にするのはやっぱり苦しい。でも、もしかしたら、復讐できる相手がいるからこそ、“復讐できる幸せ”をあの犯人は抱いたのかもしれない。1話1話の中にいろいろな問いを野木さんが与えてくれて、そこに正解はないんです。その問いに対して自分がどういう答えを導きだすのか、どう受けとめるのかは、そのシーンごとにまったく違う。そうした問いと向き合うことがとても好きでした。
――終盤、養母である三澄夏代の前で涙を見せたシーンは、先ほどお話されていたミコトの感情の幅を超えた瞬間でもあったように思います。
石原 ミコトは引きずっている姿を見せないけど、カラッと乗り越えているわけでもない。でも人間って意外とそうで。例えば親が寿命ではなく事故で亡くなったとして、それを“乗り越える”って何?って話だし、“乗り越えた”というように過去形にもできない。みんな、何がゴールかもわからない。だから命は一番センシティブな問題。親の不条理な死をネガティブに捉えて、感情の幅で言うなら30以下まで落ちた状態で留めておくのかというと、ミコトは30〜60の間で抑える子、落ちない子でした。なのに、一番限界になったときに家族の前で、本当はそうしたくなかったけど、涙を流した。あの涙はあの場面だからこそでてきたんだと思っています。

――米津玄師さんの主題歌「Lemon」は放送終了後もロングセールスを記録しています。
石原 本当に素敵な楽曲です。ドラマを引っ張ってくれて、ドラマに寄り添ってくれて、それぞれのキャラクターのバックボーンも思い出させてくれる。なのにどこか抽象的でもある。撮影が進むなかで米津さんの「Lemon」が届いたんですが、あの楽曲が作品に入った瞬間にペダルがうまく回り始めて、サスペンスになっていった気がします。ドラマの深さやキャラクターの深さが出た。米津さん本当にすごいなと。今でも何回もリピートして聴いています。

――続編への期待も高まっています。
石原 あの空間が本当に好きだったし、なにより野木さんの書く会話劇がとても好きでした。いつかまたあの空間に戻れたら良いなと思っています。

(文:竹村謙二郎/撮影:草刈雅之)

提供元: コンフィデンス

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