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脚本家・野木亜紀子、執筆は「原作ものよりもオリジナルのほうがラク」

 野木亜紀子氏が手がけたオリジナル脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)が、18年1月期放送のドラマを主な対象とした「第11回 コンフィデンスアワード・ドラマ賞」で作品賞を受賞。野木氏自身も脚本賞に輝いた。社会現象を巻き起こした『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ、『重版出来!』(ともに16年放送/TBS系)、『掟上今日子の備忘録』(15年/日本テレビ系)など、近年漫画・小説の実写化作品で実力を発揮してきた野木氏にとって、今作は久々のオリジナル作品。ゼロから作り上げるオリジナル作品のほうが骨が折れる作業に感じるが、野木氏にとっては「原作ものの脚本よりもオリジナルのほうがラク」だという。ドラマファンを唸らせた『アンナチュラル』の執筆について、改めて振り返ってもらった。

石原さとみの新境地となるドラマを描きたかった

――今回、『アンナチュラル』は、脚本賞のほか、作品賞、主演女優賞(石原さとみ)、助演男優賞(井浦新)の4部門を制しました。
野木 ありがとうございます。『Nのために』(TBS系)などを手掛けられた演出の塚原あゆ子さんとは、前からずっと一緒にドラマを作りたいと思っていました。好きな演出家の好きな映像で、好きな俳優さんたちがとても魅力的にに演じてくれて、このような評価をいただけたことは、本当に嬉しいです。とくに今回は石原さとみさんの新境地を見せるドラマにしたいと考えていたので、さとみさんが主演女優賞を獲ったことを、何より嬉しく思っています。

――石原さんについては、審査員から「抑えた演技が素晴らしかった」という声が多数あがりました。
野木 ヒロイン像については、はずせないこだわりがありました。お仕事ドラマの女性主人公というと、わが道を行く唯我独尊タイプか、未熟だけど一生懸命タイプのどちらが多く、現実に存在するような有能で柔軟性のある働く女性では成立しないのだろうかと気になっていたんです。そこで、これまで際立ったキャラクターを演じることが多かったさとみさんに、あえて抑えたテンションの普通の女性に挑戦してもらおうと考えました。打ち合わせの段階では「主人公に際立った特徴を持たせたほうがいい」という意見も出ましたが、奇抜なキャラクターにすると“普通の人”とはかけ離れてしまう。奇抜なことをさせなくても、ふりかかった出来事や言われたことに対して、どう受け答えをするか、どう行動するかでも、キャラクターは描けるとも思いました。さとみさんには花があるので、受けの芝居中心の役回りを演じても、地味になることなくいけるとも考えました。普通な分、演じるのは難しかったと思いますが、さとみさんは想像以上に、ミコトを完璧に演じてくださいました。

――「不自然死究明研究所」という架空の研究所の舞台設定も視聴者の興味を惹きました。
野木 法医学はさまざまな作品でやりつくされているジャンルでもあるので、どうしたら面白いものができるか悩み、一人でリサーチを始めたところ、2012年に内閣府が死因究明等推進会議を設置し、その時に「死因究明センター」という案が出て立ち消えていたことを知ったんです。本来、監察医は殺人事件の遺体を扱わず、法医学教室では事件性のある遺体しか扱わないというように分かれているのですが、このドラマでは両方の遺体を扱いたかったため、どちらも扱う架空の研究所なら都合がいいと思い、設定しました。取材に応じてくださった法医学の先生方もこちらが提示したアイデアを喜んでくださり、放送が終わったあと「同業者から好評だった」という声もいただきました。職業もののドラマの場合、その業界の人からお叱りを受けては困るので(笑)、その点も良かったなと思いました。

――『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』など、これまで原作もので高い評価を受けてきた野木さんですが、本作でオリジナルの手腕も証明されました
野木 よく「オリジナルって大変じゃない?」と言われますが、原作ものの脚本よりも、正直言ってラクです。原作ものの場合、映像媒体としてはこっちのほうが面白いというアイデアが浮かんでも、原作読者が納得しないかもという悩みが多々生じるのですが、オリジナルは自分たちの考えだけで突き進めて、自由に描けますからね。ただ、今回は、法医学ものということもあり、リアリティラインをどこに設定するかには苦労しました。あまりにも現実的に描き過ぎると面白いエンタメにはならないので、どこかしら飛躍をもたせつつ、その中でどうリアリティをもたせていくか。そこは難しかったですね。

会話劇と伏線の両方あるほうが好き

――「1話完結の連続ドラマ」とおっしゃっていましたが、10話までのストーリー展開も、審査員からは大絶賛でした。
野木 最終話でミコトが中堂の殺人を止めましたが、そこに至るための10話でした。世の中の殺人のほとんどは納得できないけれど、唯一理解できるのは復讐殺人です。でもやはり人を殺すことは肯定できないので、どうやったら復讐殺人を止められるか。復讐殺人に限らず、殺人を犯す人はサイコパスでもない限り、孤独な人が多いように思います。

 5話で復讐殺人を起こしてしまう男性の話を描きましたが、これは最終話への伏線でした。彼には死んだ彼女しかいなかったので、人を殺したところで悲しむ人はいない。つまり孤独でした。一方で、同じように彼女を失い、復讐殺人を考えていた中堂は、10話に行きつくまでに、ミコトやUDIラボという切り捨てられないものができてしまった。この構成は最初から決めていました。「絶望する暇があったら美味いものを食べて寝る」と「私を絶望させないでください」も企画段階から温めていた対の台詞で、中堂の殺人を止めるのは、正義や倫理ではなく、ミコトという個人の感情です。ミコトの重い過去があるからこそ、言えるセリフだと思っています。
――魅力的なキャラクターたちも人気を得ましたが、中でも、中堂役の井浦新さんは、早々からネット上でも話題となり、今回、助演男優賞を受賞されました。
野木 私としては、中堂ブームは5話でくるつもりでいたので、3話で盛り上がったことにちょっと驚きました(笑)。中堂のキャラクターは、ミコトの対極として考えました。ミコトと中堂は、形は違えど不条理な事件によって人生を大きく変えられた2人で、片や希望へ向かおうとして、片や絶望へ向かおうとする、コインの表裏のような存在です。セリフに関しては、実際世の中クソなことばっかりなので(笑)。キレイごとを言っても仕方ないし、あまり書きたくないというのもあって。それは中堂のセリフに限らず、全体を通しての思いでした。

――そんな野木さんだからこそ、本作でこだわられたことは、ほかに何かありますか。
野木 難しい用語のテロップはいいけれど、名前のテロップは出したくないとか、いろいろありましたが、こだわりという意味で言えば、加害者の気持ちを描くということは、基本的にはしませんでした。被害者は何も語れないのに、加害者の言い分だけ聴かされても困るなと。ドラマの影響力ってバカにできない気がしますし、世の中の殺人事件を見渡した時に、加害者の動機を聞いて納得できたためしがありません。そうは言っても殺しちゃダメでしょって。命を奪ったら取り返しがつかないので。
――最終話での、ミコトの「ご遺体を前にしてあるのはただ命を奪った事実だけ。犯人の気持ちなんてわかりはしないし、あなたのことを理解する必要なんてない、不幸な生い立ちなんて興味はないし、動機なんてどうだっていい」というセリフは胸に響きました。セリフでは、一方で、『逃げるは恥だが役に立つ』同様、コミカルな会話劇も絶賛されました
野木 人の死を扱うドラマで、ちょっとビターな終わり方が多いので、役者陣のノリまでビターで暗いと困るなという思いで、会話劇は楽しく描きました。私たちの日常って、悲しいことも苦しいこともあるけれど、笑えることも楽しいこともあるじゃないですか。悩み事があっても、24時間365日悩んでいるかといったら、そんなことはないですし。とくに、今回は、タフに生きている主人公を描きたかったので。あと、ミコトと東海林が楽しく過ごしている感じも大切にしました。同じ職場の女性2人は、ギスギス描かれがちですが、女同士、仲よくて、楽しくていいじゃんという思いがあったので。東海林は一番書きやすいキャラクターでしたが、市川実日子さんは、可愛いし、やっぱりうまいなって思いましたね。うまいといえば窪田くんも本当にうまい。松重さんもさすがの安定感で、作品が締まりました。

――続編を期待する声も多数寄せられています。
野木 やるからには今回を越えないといけない。つまらなくなったら、続編をやる意味がないので、そこがなかなか難しい。でも、スタッフに恵まれて、素敵な作品になったので、新井順子さん、塚原あゆ子さんたちとまた一緒にやりたい気持ちはありますね。みんなが私を嫌でなければ(笑)。

文/河上いつ子

提供元: コンフィデンス

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