「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し、10期連続最高益。ついに国内店舗数ではユニクロを抜いたワークマン。
急成長の仕掛け人・ワークマンの土屋哲雄専務の経営理論とノウハウがすべて詰め込まれた白熱の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』が大きな話題となっている。
このたび、朝2時半起きの土屋専務と、競争戦略の第一人者である一橋大学ビジネススクールの楠木建教授が初対談。数々の企業を見続けてきた第一人者はワークマンをどう分析しているのか。しびれる戦略とは何だろうか(対談第1回はこちら)。(構成・橋本淳司)
クリティカル・コアは
長期的な競争優位へとつながる要素
土屋哲雄(以下、土屋) 先生の書かれた『ストーリーしての競争戦略』に出てくる「一見して非合理な点」というのが気になっています。
楠木建(以下、楠木) 競争優位の階層の最上位に位置するもので「クリティカル・コア」と言っています。クリティカル・コアは、一見して非合理であるがゆえに、競合他社がマネしたいとは思わない要素です。「マネしたくてもできない」のではなく、そもそも「マネしようとは思わない」というのがポイントです。
土屋 目立った必殺技とは対極に位置するものですか。
楠木 必殺技はすぐにマネされますが、クリティカル・コアは目立たなかったり、マネしようと思われなかったりするので、長期的な競争優位の源泉となります。
土屋 楠木先生は先ほどの本の中で、クリティカル・コアの例として、スターバックスを挙げておられた。
スターバックスのクリティカル・コアは、短期間のうちに数百店規模で展開しようとするなかで、フランチャイズを採用しないで、すべて直営店展開したことですね。
また、アマゾンは、ネット企業ならではの身軽さを捨て、倉庫や物流などのインフラ、在庫を抱える判断をした点です。
たしかに一見して非合理ですが、あとから戦略の全容がわかってくると、「なるほど!」と感心します。
楠木 「理解の事後性が高い」、そこにクリティカル・コアの特徴があります。
土屋 では、ワークマンには「一見して非合理な点」がありますか。
楠木 全部じゃないですか。
土屋:えっ、全部!
楠木 土屋さんが意外に感じるのは当たり前です。クリティカル・コアは「外から見て非合理」なのであって、戦略をつくっている当事者にとってはことごとく合理的なんです。
土屋 非合理なところは1つもないと思っていました。
ムダに見える
週6回配送に隠された意味
楠木 端からワークマンの戦略を見ると、不思議なことだらけだと思いますよ。
たとえば、なぜ加盟店への商品の配送を1日1便、週6回も行っているのか。これなんか一見するとヘンですね。
土屋 ワークマンのSKU(ストック・キーピング・ユニット/在庫管理を行うときの最小の単位)数は相当あります。
展開する商品は1700アイテム、9000SKU(ストック・キーピング・ユニット)です。
そのうちの7割はたまにしか売れない。それでも常時1つは棚に陳列している。
欠品させないため、店舗への夜間配送を1日1便、週6回行い、売れた商品は翌々日の閉店までに補充されます。
楠木 どう考えても、週6の発送ってやりすぎに思えます。一見して非合理なんです。
だから他の小売店はそんなことは絶対にやらないでしょう。
土屋 はい。
楠木 でも、土屋さんはこれを非合理だと思っていない。ここが重要なんです。
プロ客の心理を考えれば、そこまでして欠品を防ぐことが大切になる。ターゲット顧客がプロのお客さまであるということ、彼らがどういう状況でどのような理由に基づいて来店するのか、そうしたワークマンの商売に固有の文脈の中に置いてみて、初めて高頻度配送の意味や意義が見えてくる。
土屋 プロ客にとって作業用品は絶対に必要で、それが常時あるっていうのはとても大切なことです。
楠木 これは一例ですが、ワークマンの戦略にはクリティカル・コアがたくさん入っているのです。競合他社からすると非合理的な判断ですから、それを模倣しようという動きは出てこない。やがて打ち手が実はビジネスモデル全体として合理的であることが見えてきたときには、すでに強固な地位を固めている。今さらやる気にならない。これがワークマンの競争優位の持続性の中身だと思います。
土屋 それは気づかなかった(笑)。...