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クレームから生まれた『料亭の味』40周年 “業界タブー”を打ち破り、みその地域嗜好性を飛び越えられた理由
前代未聞の“だし入りみそ”開発に社内の8割が反発するも…「反対が多いならやるべき!」
核家族化が進み、みそ汁のだしを取ることを知らない世代が出てきていた当時。働く女性が増え、だしを取るのが面倒という声も寄せられていたが、生産現場ではみそそのものにだしを入れるのはタブーとされていた。“良いみそを作れないから、だしを入れてごまかしたと思われてしまう”という懸念もあり、社内の8割以上が反対。しかし、当時の社長・青木佐太郎氏は、「反対が多いならやるべき! 賛成が多い商品ではむしろうまくいかない」と、発売を決断した。
「どの地域の方でも美味しく感じるだしや味わいを追求するために、多方面のお客様にご意見をいただきながら、検証を繰り返して『料亭の味』を商品化しました。当時は今以上に地域による嗜好の差は強かったのですが、最終的に信州の赤系みそをベースに、かつおだしと昆布だしをほどよくブレンドした“米みそ”になりました」(マルコメ広報・其田譲治さん/以下同)
その結果、業界に先駆けて完成しただし入りみそ『料亭の味』は、瞬く間に大ヒット。発売から半年で注文が殺到し、社員が休日返上で増産しないと追いつかないほどに。工場には大型トラックが列をなし、営業いらずの看板商品となった。それまで2位以下のメーカーと大きな差はなかったマルコメだが、『料亭の味』誕生によって、一歩抜きん出るきっかけになったのだ。
みそ出荷量は減少でも、マルコメの売上増加なぜ? “みそ離れ”時代の戦い方とは
「液みそシリーズは2020年に累計出荷数が5000万本を超え、順調に推移しています。同年の調査では、利用者の52.1%が男性という結果も。そのうち20〜30代の男性が3割弱を占め、若年男性のユーザーが多いという結果も出ました」
また、液みそシリーズはスリムなパッケージで冷蔵庫のドアポケットに収まるサイズ感なこともポイント。場所を取るため奥にしまいがちだったみそを、ペットボトルと同じように手前に入れられるようになったことで、使い勝手がアップした。また、定番の『料亭の味』だけでなく、『白みそ』『赤だし』『貝だし』など豊富な種類をストックし、その日の献立に合わせて使い分けられる点も支持されているという。
「長期化するコロナ禍で料理疲れを解決する時短・簡便商材が支持される一方、ヘルシーで本格的な美味しさを味わえる無添加の両者は、二項対立ではなく両軸で伸長を続けています」
また、糀商品ではアルコール0%で砂糖を使わない『糀甘酒』シリーズがヒット。離乳後期の赤ちゃんから妊娠中、授乳中の方も安心して飲むことができるほか、砂糖代わりの発酵甘味料として鶏の照り焼きや肉じゃがなど料理にも使える。“飲む点滴”と称されるほど豊富な栄養が健康志向にマッチすることもあり、昨年を上回る実績で推移しているという。
もはやみそ汁は“家庭の味”ではない? 「即席」需要が伸び続ける今、マルコメの想い
生みその出荷実績が50万トンから40万トンに減少するまで20年を要した市場は、主要購買層の高齢化を理由に、30万トンを切るまでに、あと15年前後といった見方もある。これに対し、業界トップのマルコメは悲観的な見方をするのではなく、建設的な課題として捉えていると言う。
2013年に、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風に。世界に日本食レストランが増えるにつれ、みそ汁の認知も広がってきている。みそを知らない海外の人にとっては、固形のみそよりも液状や顆粒タイプの方が手軽で使いやすいこともあり、マルコメでも今後さらに力を入れて開発を進めていくそうだ。
一方、日本におけるみその需要は手軽な即席みそ汁の伸長が顕著に。こうした変化に対しても柔軟に対応しつつも、今まで通り消費者の声を聞きながら開発を続けることに変わりはない。同時に、ネガティブな意味合いで使われがちな“プロダクトアウト”の姿勢も大切にしている。
「消費者調査でヒット商品がたくさん見つかるなら、各社苦労しないと思います。ニーズを模索しながらも、自分たちが欲しいと思う商品が、お客様に受け入れてもらえることが理想。 “イノベーション”という意味でのプロダクトアウトを大切にしていきたいですね」
「私の祖母は生前、大分県でみそを手づくりしていました。子どもの頃は盆と正月に帰省すると、翌朝のみそ汁が楽しみで寝床に入るとワクワクしていたことを覚えています。私自身、九州育ちではないのですが、今も麦みそは好きです。このような思い出話は今の時代、たしかに減ってきているのかもしれません。しかしながら人々の記憶に、それぞれの家庭の味やみそ汁のある原風景が残っているのではないでしょうか。これからも時代の流れとともにみそのあり方も変わっていくと思いますが、その時々のニーズにあわせて、“家庭の味”に寄り添っていけるブランドを目指したいと思います」
(取材・文=辻内史佳)