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「“陰キャ営業”が忌避されるようになってきている」ぼっちコンテンツが“メジャー”化する今 “陰キャ”の現在地とは?
「そもそも自分のファンと言ってる人に向けてこの本を出してない」YouTuberがぼっちに向けてあえて“啓発書”を書いたワケ
同書は、本気で人間と関わるのが苦手な彼が“孤独”について真摯に考察している。啓発書としての側面もあり、書店でもYouTuber本の棚ではなく、心理学の棚に置かれるなど、KADOKAWA編集部内でも「社内のYouTuber書籍はエッセイが多く、珍しい立ち位置の本ができた」と話題になっている。だが“陰キャ”でこっそりやっていたからこそ人気だった面があるはず。これにファンからは「インディーズバンドがメジャーで人気になって寂しい」的な声はなかったのか。
「ありましたけど、どちらかと言うと僕はその“裏切り”が結構好きなんですよ。例えば、コムドット・やまとさんとのコラボ動画も、やまとさんちょっと怖いみたいなイメージがある中で、彼のいい人の部分を敢えて見せた。そもそも僕は自分のファンと言ってる人に向けてこの本を出してないし、逆に僕を知らない人に届いてほしい。認知拡大のメリットを取って書いたんです。何事もメリット、デメリットについて考えちゃうクセもあります」
人生がうまく行ってない人ほど「勝ち負け」が価値基準に? 「普通の、毎日幸せな人は勝ち負けの段階を通り過ぎている」
同書には「陰キャは勝ち負けが基準になっている、どこかで勝たなきゃおかしいだろ」との記述がある。「多分、普通の、毎日幸せな人は勝ち負けの段階を通り過ぎて、幸せを追い求めるんでしょうけど、逆に普段うまくいってない人は、そこに到達する前に勝ち負けでマウントを取るんでしょうね」
では本の出版やYouTuberとしてチャンネル登録者数の増加が彼にとって“勝ち”かと言えば、そうでもないらしい。「褒める中にもロジックがちゃんとあればいいんですけど、ロジックなしに手放しに褒めてくる人は“何が分かってるんだ”って思ってしまう。例えばTwitterとかで『最近落ち込んでます』と投稿したら、『気にしなくていいですよ』とか、どうせそういうリプが来るんでしょうけど、そんなのまったく心に響かない。陰キャは、全部に意思決定の基準をつけたいみたいなところがありますから」
そんな彼は普段、豆電球を一個つけた薄暗がりの中で生活している。窓には防音のためにダンボール。当然、陽は入らず、電気もつけない。だが今回のリモート取材や、動画撮影のためには、やる気を出すためにスイッチをつける。
「やまとさんや料理研究家のリュウジさんは本当に素の感じで動画制作されている印象がありました。僕はどこかで動画用の陰キャを用意しているんです。0を1にするのではなく、80を100にしてるみたいな。カメラのスイッチ入れるまでは本当に無気力だったり声のテンションももう一段低かったり。彼らのようにありのままの姿を動画で見せているかといえばそうではないです」
YouTuberとしての人気はかつてのクラスメイトへの復讐? 「見てろよ、みたいな。でも見られたくない(笑)」
「とはいえ、直近では“陰キャ営業”みたいなものが忌避されるような逆張り傾向が出てきています。いかに自分は『本物かどうか』を実感させられるかが重要になっているようにかんじています。ただ自分のキャラクターを固定することは最終的に自分を行き詰らせるものだと思うので諸刃の剣だと思いますね」
昨今はAdoのように“陰キャ”属性が垣間見える人が“可愛い”と捉えられる時代に入ったとも分析する。またタレントがアニメファンを自認したり、eスポーツが盛んになるなど「元々、過去は学校内のクラスカーストで下だった存在が、上下ではなく、そういう人たちもいると認められる時代になった。僕からすればそれは当たり前の形」と多様化の社会も実感している。
「弱点はいずれキャラクターになる」と、かの天才物理学者・アインシュタインは言った。その通りに、また彼が指摘するように、今は“陰キャ”が“可愛い”というキャラに変わりつつある。大事なのは弱みを改善することでも向き合いすぎることでもない。自分の弱点を赦し、共に生きていくことこそ、かけがえのない“個性”を生む秘訣なのだと、彼の言葉から感じた。
(文/衣輪晋一)
『群れずに心穏やかに生きる 正しい孤独マインド入門』(KADOKAWA)
「私自身、学生時代から集団へ溶け込めない悩みを抱えてきた一方で、インターネットでの発信活動を通して膨大な数の孤独な方の心理と向き合ってきました」と語るコスメティック田中氏による「孤独マインドのつくりかた」を解説した一冊。