ORICON NEWS
放送27年、6300回突破『きょうのわんこ』の強度 似て非なるYouTubeとテレビの“動物コンテンツ”の異なる価値基準とは?
「珍しいもの」を観るコンテンツから、身近な“家族とのふれあい”に変化
その後90年代に入ると、ペットブームを背景に、『どうぶつ奇想天外!』や『めざましテレビ』内の『きょうのわんこ』など、身近な動物をテーマにした番組やコーナーがスタート。家庭用ビデオカメラの普及もあって、視聴者が家庭内で撮影した飼い犬や飼い猫のハプニング映像を紹介する番組やコーナーも増加。“遠い存在”としての動物より、身近な動物の新たな一面をテレビで目にする機会が増えていった。
この流れは2000年代以降、さらに加速。携帯電話のカメラが普及すると、ペットを撮影し、動画を共有することがより身近に。テレビでも、犬と一緒に旅をする『ペット大集合!ポチたま』をはじめ、『天才!志村どうぶつ園』『坂上どうぶつ王国』『どうぶつピース!!』など、身近な動物との継続的なふれあいを主とした番組が増え、現在につながっている。
演出を施さないありのままの姿を公開…“飼い主目線”で観るYouTube
現在、ペット動画の投稿は飽和状態となっており、ギネス認定された「もちまる」以外にも『プピプピ文太』(登録者数45.5万人)のハスキー犬「文太」や『ma ko』(登録者数63.6万人)のコツメカワウソ「さくら」など、スター級 “YouTuber動物”も存在するほどに。だがその内容は、テレビとは異なるものとなっている。
その大きな違いは、構成・編集だ。本来、動画制作には撮影・編集のためのさまざまな機材、技術が必要だが、YouTube動画はソフトを利用することで素人でも簡単に制作、配信が可能。そのため飼い主が、散歩や食事、遊びなど、ペットの日常での姿をありのままに撮影し、ただただかわいい、あるいは面白い様子を映している動画が多い。
先の「もちまる」の飼い主「下僕」さんも、以前のORICON NEWSの取材で人気を博した理由について、「シンプルに『もち様がかわいい』と言われるので、動画を撮影するときには、なるべく飼い主が前に出ないように、声を出したり、顔を出したりせずに、もち様の可愛らしさを邪魔しない動画のスタイルや編集を心がけています」と語っている。
観る側にとっても、この演出を施さないシンプルな映像がツボにはまる大きな要因となっている。スマホで観られるYouTube動画は、テレビより「個」のつながりが感じられる特徴がある。視聴者にとって、映っている動物を身近に感じ、まるで自分が飼っているような感覚に浸ることができ、「成長を見守りたい」という気持ちも生まれやすいのだ。そして、それがチャンネル登録、継続視聴(リピーター)につながっているといえるだろう。
YouTubeの原点? 約1分の中に凝縮される犬と人間のドラマ『きょうのわんこ』
そんなテレビの動物コンテンツの中で、94年の放送開始から27年経過した今も変わらぬ人気を博しているのが、『めざましテレビ』内の『きょうのわんこ』だ。
タイトル通り、主役はもちろん犬なのだが、飼い主と犬との日常的な風景に始まり、家族との出会いや関係性などをナレーションベースで紹介。家族とのほのぼのする様子や、“かわいさ”だけでなく、特技や変なくせやなど、犬の特徴的なポイントも“魅力的”に見せ、最後は犬の気持ちや様子を代弁した西山喜久恵アナウンサーの「△△な〇〇(名前)なのでした」で締める。YouTubeのように毎日同じ犬の様子を継続して見せられない分、その犬の魅力を起承転結がハッキリした約1分間の“ドラマ”として視聴者に伝える。通勤前のサラリーマンや通学前の学生が、このコーナーを観てから自宅を出発するという話をよく聞くが、四半世紀以上、時代が変わっても、このわんこたちとの“一期一会”が朝の忙しい時間の癒やしになっている証といえるだろう。また、『きょうのわんこ』というシンプルでわかりやすいタイトル付けや日常の様子を切り取るという点では、現在のYouTubeの動物コンテンツの原点ともいえる存在とも言えるのかもしれない。
現在、テレビの情報番組やバラエティ番組では、SNSで話題になっている動物動画をそのまま放送、紹介するケースも増えている。YouTube界には、今後ますます、さまざまな“インフルエンサー”的な動物が現れ、人気コンテンツとして不動の地位を築いていくことだろう。一方で、テレビマンがプロとして、カメラアングルや編集、ナレーションにこだわり、その犬がより魅力的に見える、1分ほどのドラマにまとめる『きょうのわんこ』は、YouTubeとは異なる魅力で、これからも多くの人々の朝の癒やしになっていくことだろう。群雄割拠の動物動画コンテンツのなかでも、普遍的な存在として、今後も愛されていきそうだ。
文/河上いつ子