ORICON NEWS
「中国人女性から託された猫」、がんを患った飼い主が願った“家族”の幸せ
「早急に治療を行わなければ…」、猫のために何度も帰国を引き延ばした中国人女性
両親と相談した結果、中国の家族のもとで治療を行うこととなった彼女。コロナ禍で飛行機の直行便もなく、イェンナイを連れて帰るのは難しい状態。もし連れて帰ることができても、治療に専念するため自分で世話をすることはできない。「早急に治療を行わなければならない状況下で、彼女はイェンナイのもらい手をかなり探したそうです。でも、友人、知人は留学生が多く、引き取ってもらうことはできなかった」と溝上氏は状況を明かす。
愛護センターにも連絡を取ったが、返ってきたのは「殺処分」という非情な言葉。『ねこけん』以外の団体にも相談したが、終生預かりのため高額な飼育費がかかるということだった。「何度も何度も帰国を引き延ばし、やっと『ねこけん』にたどり着いたそうです」。
こうして『ねこけん』のドアを叩いた彼女に、溝上氏は「イェンナイを幸せにします」と言い切った。この言葉がどれだけ彼女を元気づけたかはかりしれない。イェンナイをなでながら涙を流す彼女は、「すみません、なんかこれだけで…」と保護費として3万円を差し出した。病を患い、働くこともできなくなった彼女にとって、きっとなけなしのお金だったのだろう。当初、溝上氏はお金を受け取るつもりはなかったそうだが、このお金は彼女がイェンナイにできる唯一のこと。最後に愛猫にしてあげられることを探した結果の愛情のこもったお金だったからこそ、受け取った。
考えた末の結論、外国人への猫の譲渡を断る理由
『ねこけん』では、保護している猫を希望する人に託す譲渡会を行っているが、譲渡先の相手には、いくつものルールが決められている。その中で、NG項目にあるのが外国人だ。
「いろいろと考えた末、外国人の方はNGとしました。決して差別ではありません。猫を譲渡したものの、今回のように自分に何かあったとき、国元の家族に何かあったとき、どうしても母国へ帰らなければならないこともあります。ドイツのような動物愛護先進国だと、連れて帰るのも問題はないのかもしれない。ですが特定の国だけを優遇するとなると、それこそ差別になってしまいます。なので、国に関係なく、外国の方には譲渡しないという規定を作りました」。
『ねこけん』では、譲渡後も里親と連絡を取り合い、猫が幸せな一生を終えるまでサポートをしている。その活動のためには必要な判断といえるだろう。
『ねこけん』で暮らすこととなったイェンナイは、当初こそ緊張していたものの、徐々に落ち着きを取り戻しているという。猫とはいえ、話しかけられる言葉が中国語から日本語に変わることに問題はないのだろうか。そう聞くと、中国で暮らしたことのある溝上氏は「私も中国で猫を飼っていましたが、問題ありませんでした。猫ちゃんはすぐ言葉を覚えてくれますから」という。
病気を抱えながら、最後までイェンナイの幸せのために保護先を探した元飼い主。だからこそ溝上氏は、今後のイェンナイの幸せな生活を約束した。イェンナイの姿を見るためにも、彼女にはぜひ病気を完治させて、日本に戻ってきてほしいものである。
(文:今 泉)
■NPO法人『ねこけん』(外部サイト)
■『ねこけん』オフィシャルブログ(外部サイト)