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「♪素材の会社はAGC」B to B企業がこだわる“社名連呼CM”の真意
社名を連呼し商品に一切触れず…、シンプルすぎるCMの裏にあった危機感
「シリーズ1作目ということもあり、どういう反応があるか未知数でした。社名を連呼しているので、もしかするとネガティブな反応があるのではないか…そんな懸念はありましたね。でも実際は、SNSで話題になったり、メディアにも多く取り上げていただくことができました。CMを観るためにわざわざAGCを検索してくださった方もたくさんいて、繰り返して観られている、飽きないCMになっていることをうれしく思います」(山田さん/以下同)
過去には落ち着いたトーンのCMもあったが、路線変更したのには、ある理由があった。
「2018年に、社名を旭硝子株式会社からAGCに変更しました。ところが、以前の社名のわかりやすさに比べ、ずいぶん認知度が下がってしまったんです。まずは以前と同じレベルで社名を知っていただきたい。そのためには、CMのメッセージを絞り込む必要性がりあました」
しかし、せっかくのテレビCMである。もちろんタダではないし、同社の出稿量を思えば、莫大な金額がかかっているはずだ。そうなると、「もっと情報を入れたい」といった声が社内で起こらなかったのか。
「広告主側には、伝えたいことがたくさんあります。ですが、CMの中にそれを全部入れようとすると、逆に伝わらないCMになってしまう。視聴者の方が消化しきれない情報量のCMでは、流す意味がないんですよね。もちろん、関係者の意見を集め、役員を含めて社内で議論もしました。ただ、意見を聞きすぎて“丸いもの”“響かないもの”にはならないようにと気を付けました」
『なんだし、なんだし、AGC』シリーズでは、「スマホのガラスを作っている」など、多少なりとも商品について触れていた同社のCM。しかし、今作で伝えられているのは「素材の会社」「AGC」のみ。削ぎ落して、削ぎ落して、よりシンプルに。CMの裏側には、「AGCを知ってもらいたい」という強い思いがあったのだ。
CMにもポリコレや価値観の変化、「丸くなりすぎず、メッセージを伝えるバランスは難しい」
「もちろん、放送されるまでは『会社名を連呼しすぎかもしれない』という不安も少しありましたが、実際の反応を見て安心しました。30秒のCMではなく、15秒という短い尺だったのが良かったのかもしれません。無難で印象に残らないCMにはしたくないですが、一方で『炎上狙いでは?』と疑われることは良しとしません。また、昨今はポリティカル・コレクトネスの観点も重要ですし、今までとは価値観が変化してきた部分もあります。かつては許されてきたものでも、今は人を傷つけるものになってしまうかもしれない。そうした表現は避けたいと考えています」
広告業界も、時代に合わせて変わっている。古典的なものでは、“母親が洗濯や家事をする”という表現が多かったが、現在では“役割の押しつけ”と捉えられ、避けられる表現となっている。
「そうした意見、炎上を見ると、私たちでもハッとさせられることは多いです。人を不快にさせるかさせないか、しっかり感性を磨き続け、気付けるかどうかにかかっている時代になっていると思います。丸くなりすぎず、伝えたいメッセージを伝えるバランスはとても難しいですね」