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スカート姿で世の偏見に切り込む、"福祉業界のオシャレ番長"がパリコレ目指す思い
きっかけはオシャレを封印した車いすユーザー、「障害は人ではなく環境のほうに存在するもの」
「実はこのボトムス、座ったときが一番オシャレに見えるデザインになっているんですよ」と、車いすに座る。アシンメトリーなデザインは立位でもスタイリッシュだが、なるほど、座位になるとスカートの前方が少し上がって、絶妙な丈とシルエットになる。巻きスカート型になっており、座ったままでも簡単に着脱ができるのもこだわりだ。
bottom’all(ボトモール)と名付けたこのスカートを発想したきっかけは、ある車いすユーザーとの会話だった。
「本来はとてもオシャレが好きな方だったんです。だけど車いすになって、『もうオシャレしたい気持ちは封印した』とおっしゃる。『自分の"オシャレしたい欲求"を満たすために、試着室に入ったり着脱をしたり、誰かの手を煩わせるのが心苦しくなったから』と。そのときに気づいたんです。障害というのは人ではなくて、環境のほうに存在するものなんじゃないかと。だったらその環境をひっくり返してしまえばいいのでは? と考えたのが始まりです」
一般的に、ファッションは立位を前提としてデザインされる。これも1つの"環境"だ。その固定観念を取り払い、座位からデザインを組み立てたボトムスからブランド『bottom’all』は始まった。
その後、座位でもシワになりにくいショート丈のジャケットや、腕に麻痺がある人でも着脱しやすいシャツなど、アイテムは続々と増えている。とはいえ、『bottom’all』は「障害者のためのファッションブランド」ではない。
「障害があってもなくても、年齢も性別も関係なく『すべての人がアクセスできる機能的かつオシャレなファッション』を提案するのがコンセプトです。道だって、段差がないほうが歩きやすいですよね。車いすユーザーや高齢者だけでなく、誰にとっても。それと同じ発想です。めっちゃ足が短い僕でもスラッと見えるのは、細部までこだわったこのデザインのおかげなんですよ(笑)」
「スカートは世の中の偏見に切り込むための戦闘服」、制服問題にも寄与
2019年11月に一般社団法人『日本障がい者ファッション協会』を設立して以降、日常的にスカートを着用しているという平林さん。ごくたまにパンツを履くと、「今日はどうしたの?」と周囲に驚かれるほどだと笑う。
「僕が人生のテーマにしているのは、『福祉×オシャレで世の中を変える』こと。そんな人間が『男性がスカートを?』という身近にある偏見を乗り越えられなくてどうする!という思いから、日常的にスカートを履くようになりました。スカートは、世の中の偏見に切り込むための戦闘服なんです」
しかし、一般的には「スカート」という言葉に抵抗感がある男性もいる。そんな心のハードルを取り払うために付けたのが、bottom’all(ボトム+オール)という名称だ。もちろん「すべての人がアクセスできるファッション」であれば、スカート型でなくてもいい。今後はパンツ型のbottom’allの開発も予定しているという。
現在は、『日本障がい者ファッション協会』の拠点がある大阪府茨木市を中心に、高校や大学、服飾専門学校などと協力して「それぞれが考えるbottom’all」を開発するプロジェクトが進行している。
「制服が男子/女子と機械的に分けられてしまうことに悩む子はたくさんいますが、bottom’allの概念をもってすれば、その問題にも切り込んでいけるのではないかと思うんですよ」