アニメ&ゲーム カテゴリ
(更新: ORICON NEWS

発達障害の漫画家が描く夫婦のあり方「一般的な夫婦にはなれないが、自分たちなりの幸せを模索」

 夫婦で漫画家のナナトエリさんと亀山聡さんが描く漫画『僕の妻は発達障害』(新潮社)が、「当事者だけでなく発達障害を知りたい多くの人に読んで欲しい作品」とSNSで話題になっている。ナナトエリさん自身も発達障害であり、自身の経験も漫画に反映されていると言う。当事者でありあえて漫画を描こうと思った理由や夫婦のあり方について聞いた。

発達障害であることは辛いことでもあるが、恥ずかしいことではない

――ご夫婦で漫画家ですが、2人で作品を描いています。そのきっかけを教えてください。

ナナトエリ お互いに漫画家志望の友人同士でした。私は、広告漫画でネームは描いていましたが、根気のいる作画ができず…。
亀山聡 僕はアシスタント経験が長かったので、根気よく絵は描けてもフットワークが重い欠点がありました。お互いに苦手を補い合う形で一緒に描き始めました。

――夫婦で漫画を描く良さや難しさはありますか?

亀山聡 良い点は、お互いの仕事に理解があるところです。漫画好きな趣味も同じです。難しい点は、夫婦共々不安定な職業なので、生活は楽ではありません。漫画の展開等で意見が違うと気まずくなることもあります。

――ナナトエリさんも主人公と同じ発達障害ですが、ご夫婦での経験も漫画に反映されているのでしょうか?

ナナトエリ 経験を元にしているシーンもあれば、そうでないシーンもあります。例えば、1話で知花ちゃんが薬が合わなくて倒れているのは実際の経験です。逆に、3話のドリアンはフィクションです。アラート等の日常の工夫は、実際に夫婦で実践していることもあります。

――当事者であるが、あえて漫画を描こうと思った理由は?

ナナトエリ 私たちのありのままを漫画風に味付けして表現した結果、この漫画になりました。自分たちの経験や考え方を受け入れてもらえるのか不安でしたが、私たちのことを担当編集さんにお話したところ「面白い」と言われたので、描いてみようと思いました。当事者であることは辛いことでもありますが、恥ずかしいことではないと思っています。ただ、親族や友人の理解を得るのに大変なこともありました。

苦手な人間関係を最小限に、時間も自分なりの配分ができる漫画家に生きやすさ

――ナナトエリさんは、発達障害だということをいつ頃知ったのでしょうか?

ナナトエリ 30代半ばの結婚2年目です。きっかけは主人と同居するようになり、「話したはずなのに聞いていない」と言う指摘を受け、夫婦喧嘩になることが増えたことです。仕事と2人分の家事を両立できず、体調を崩しがちになりました。主人と共に生きたいと言う気持ちはあっても、結婚生活自体に大きなストレスを感じてしまう状態で、原因がわからず困惑しました。その時、たまたまインターネットで見た発達障害の記事が自分と似ていると感じて検査をしました。

――亀山聡さんは、ナナトエリさんが発達障害だということ知りいかがでしたか?

亀山聡 もともと個性的な人だと思っていたので納得しました。検査前から本で知識を多少得ていたせいか、悲観や不安はあまり起きませんでしたね。彼女が変わってしまうわけでもないですし。今まで途方もない苦労をしてきたのだろうなぁ…という同情のような気持ちが強く湧きました。

――発達障害ということが漫画家の仕事に影響したことはありますか?

ナナトエリ 漫画制作は根気のいる作業なので、集中力に問題がある私には大変なことも多いです。気が散らないように、1日中ノイズキャンセルイヤホンをつけて、狭い部屋にこもって作業しています。ほかにも、いろいろと工夫していることはあります。一方で、苦手な人間関係を最小限にすることができ、時間も自分なりの配分ができる仕事なので、会社員をしていた頃よりも生きやすさを感じています。

――漫画では、漫画家アシスタントの悟(夫)が自宅作業中は、知花(妻)が邪魔をしないためのルール「北山家邪魔しないアラート」を設けていることが描かれています。ご夫婦でも実行しているルールはありますか?

亀山聡 「北山家邪魔しないアラート」は、ほとんどそのままの状態で実行しています。ナナトは顔を合わせてしまうと無限に喋り出してしまうので、決められた時間以外は家のなかでもお互い会わないようにしています。「これくらい大丈夫だろう」「気をつければ大丈夫」という考え方をせず、ルールを作って守ることにしています。

――「生きづらさを感じる」と漫画でも描かれています。ナナトエリさんも同じようなことを感じることはありますか?

ナナトエリ たくさんありすぎて…しいて言うなら人間関係を築くことが一番難しいです。悪気は無くてもいつのまにか相手に不快感を与えているということがとても怖いです。また、障害があるので自分に自信が持てません。何かあると、全て自分が悪いと思って凹んでしまいます。

「変な人ね」で終わらない世の中になれば、誰もがもっと生きやすくなる

――ナナトエリさんは当事者だからこそ、漫画を描く際に気をつけていることはありますか?

ナナトエリ 困っている人を見世物にするような表現はしたくないと考えています。刺激的な表現が多い作品もありますが、当事者として読むのが辛いと感じるような表現にはしたくないと思いました。私自身、柔らかい表現であったとしても、発達障害の本を読むには勇気が必要なので、その辛さを超えて読んで下さる障害当事者の読者の方をとても尊敬します。勇気ある当事者を傷つけない表現を第一に考えたいです。また、当事者の一方的な悲哀を押し付けないことや、介助者の苦悩もできるだけ平等に表現していきたいです。

――漫画を通して発達障害について理解が広まっているようですが、どのように感じていますか?

ナナトエリ 発達障害の症状について説明的に描かれている漫画ではないので、理解を得ることができたことには驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。発達障害の人も、そうでない人もお互いに「何を感じているのか」を知ることができれば、摩擦が少なくなり生きやすくなるのではないかと期待しています。これからも何気ない日常を描いて行きたいです。

――漫画でもリアルな2人の生活が描かれています。お互いを理解し、どのように信頼を深めていきましたか?

亀山聡 まず特性を知るために本やインターネットで情報を集めました。わからないことはかかりつけの心療内科の先生に相談しました。悪気・悪意がないとハッキリすると、仕方ないか…と言う気持ちになれました。SNS上で他の当事者の方の日常を知ることも、理解に繋がっている気がします。あとはとにかくお互いの感覚を伝え合うことですかね。喧嘩もしますが、理屈がわかるまでとことん話し合うようにしています。

――その上で夫婦のあり方についてどのように考えていますか?

亀山聡 私たちは一般的な夫婦にはなれませんが、自分たちなりの幸せの形を探して暮らしています。独特な生き方をすることは、親族や友人等、少なからず周囲に迷惑をかけてしまうことであり、その点は悩みどころです。時間をかけて擦り合わせてより良い生き方を模索したいです。

――本作を通してどのようなことを伝えたいですか?

ナナトエリ 障害があってもそうでない方と同じで、笑ったり悩んだりして生きているという姿を、できるだけ多くの人に見てもらいたいと思いました。いつか垣根が無くなり、「変な人ね」で終わらない「そう考えていたんだね」とお互いに興味を持ち合う世の中になれば…誰もがもっと生きやすくなるのではないかと思います。
◆漫画『僕の妻は発達障害』(コミックバンチweb)を読む(外部サイト)
◆ナナトエリさんのTwitterはこちら(外部サイト)
◆亀山聡さんのTwitterはこちら(外部サイト)

あなたにおすすめの記事

 を検索