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“レジェンド”語る「メイドカフェ」の変遷 苦境乗り越え新たなカルチャーに
メディアの“オタクの取り上げ方”に嫌悪感「メイドがイジられればいい」
働き出してから1年ほどが過ぎ、偏見も払拭され、メイドの楽しさを見出しはじめたころ、『電車男』が注目を集め、そこに出てくる「メイドカフェ」にもスポットが当たった。
「このころ、メイドカフェという言葉がメディアで大きく取り上げられるようになり、いままでディープで閉ざされた世界だったメイドカフェが、広く知られるようになり、テレビ番組を見て興味を持たれた方たちなどもお屋敷(お店)にやってきてくれるようになりました。ちょうど2005〜2006年ぐらいは、さまざまなご主人様たちがいらっしゃいました」(hitomi/以下同)
閉ざされていた空間が開かれると、それまでいた住民は居心地が悪くなるのは世の常。そこに軋轢が生じることは多々ある。
「私たちが危惧したのは、昔から来てくださったご主人様、お嬢様が、居心地の悪い空間になってしまうことです。メディアで放送されるとき、面白おかしくオタクの方がイジられてしまう構成が多かったんです。それが嫌だったので、ご主人様、お嬢様をイジるのではなく、私たちメイド側が調理されようという意識は強くありました」。
こうしたhitomiの意識により、以前からいた客層と、新たにやって来た客が共存できる場になった。メイドカフェは、アニメやコスプレ好きな客もいれば、アイドル好き、日常会話を楽しむだけの人、女性、子供なども来店する“誰でも楽しめる”場になっていった。
「客足がパタッと止まってしまった…」通り魔事件が与えた、秋葉原への影響
「あの事件のあと、変化した大きな出来事の一つが、日曜日、祝日にあった歩行者天国の中止です」と語り始めると「さまざまな表現で自分たちの“好き”をアピールできる場。毎週めちゃくちゃ大きなフリーマーケットみたいで秋葉原の良さのトップ3に入るぐらい大きな魅力でしたが、あの事件があってから中止になりました。数年前に復活したのですが、昔みたいに路上パフォーマンスは禁止ですし、警備という意味では大切なことですが、警察官の方もいて、昔のホコ天の良さがなくなってしまっています」と悲しい表情を見せる。
盛り上がってきたメイドカフェの風向きも一気に変わった。「昔からのファンで足を運んでくれる人はいましたが、従業員はもちろん、お客様自体の客足はパタッと止まってしまいました」。事件の瞬間は「さすがにくじけました」と胸の内を明かしたhitomi。当時のメディアに対しても「例えば、犯人がアニメ好きで秋葉原に入り浸っていたとか、メイドカフェの常連だったという部分を強調するように取り上げたりする報道が多かった。悔しいというより苛立ちに近いものもありました」。
彼女自身も、最初は秋葉原に対して偏見があったというが、お店に来るお客さんや共に働く従業員によって、考え方も気持ちも変わった。だからこそ「絶対にまた復活できる」と強い思いが抱けたという。
あれから10年が経ち、いまやメイドカフェには、日本国内だけではなく、海外から訪れる人が増えた。“萌え”は万国共通の言葉になったという。「来年は東京オリンピックも開催されます。日本のポップカルチャーが、以前にも増して海外で注目されているのを肌で感じます」ともう一つ新しいフェーズへとばく進している。
メイドを始めて今年で15年。訪れる“ご主人様”(お嬢様)と呼ばれる客も多種多様になってきたというが、hitomiには一貫してブレない“メイド像”がある。それは「ご主人様、お嬢様とその瞬間を楽しむこと」。だからこそ、多様なお客さんの話題に対して深く知識を入れることをしない。あくまで「ご主人様(お嬢様)とメイド」という立ち位置を崩さない。
「例えば私はアニメなどには詳しくないんです。しっかり勉強することもやり方としてはあると思います。詳しい方が話は盛り上がるかもしれませんが、もしご主人様よりも私の方が詳しかったりすると世界観が逆転してしまう危険性があります」。
結婚・出産を隠すことへの葛藤も… 後進たちへの想いから公表を決意
「私はいつかメイドというものを“文化”として認識されるまでにしたいと思っているんです」。その意味で「永遠にメイドの世界観を貫くことが果たして“文化”につながるのか」という思いに駆られた。「公表することで、メイドという職業の固定概念をフラットにして、改めてメイドというものを考えるきっかけになるのでは」と考えたという。
「メイドを“文化”に」。壮大な目標のように感じられるがhitomi自身も「そんな簡単なことだとは思っていません。やっぱり時間や歴史が必要」と一歩ずつを強調する。一方で「15年という時間を経験したいま、メイドは単なる流行ではないという自負はあります」とプライドものぞかせる。実際hitomiは「@ほぉ〜むカフェ」を運営するインフィニア株式会社の執行役員を務め、メイド文化普及に尽力している。
「自分たちが表現したいことをブレずにしっかり届ければ、思いはきっと実を結ぶと思います」。レジェンドメイドhitomiの挑戦は、今後も続いていくだろう。
(写真:片山拓 取材・文:磯部正和)