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「漫画にとって今が一番幸せな時代」ライバル誌『ジャンプ』『マガジン』コラボへの編集者の想い

危機感からの仕事ではなく「面白そうだからやってみただけ」。ライバル同士で意気投合

 このプロジェクトが動き始めたのは、実は去年の10月頃。両社でデジタル施策についての意見交換は定期的に行われており、そんな中で「こんなことがやれたら面白いよね」というアイデアが登場。当時について『マガジンポケット』編集長・橋本氏は「『週刊少年マガジン』の編集長の第一声は『マジで?』。編集長が『それ、ジャンプさんはいいの?』と聞くので『うちはどうですか?』と尋ね返すと『うちは全然いいよ』って(笑)」と振り返る。

 そうなると気になるのは、実はいがみ合っていたのではないのかという疑惑だ。だが「仲が悪かった記憶はない。『若い人に漫画を読んでほしい』というビジョンや価値観は同じだった」(橋本氏)。「心理的に社内のハードルはなかった。それより中途半端な意外性ではつまらない。それに両誌ともタイトルに“少年”がついている漫画雑誌。その“少年”たちに面白い漫画を届けたいという気持ちは同じなんです」(細野氏)と双方、和やか。同Webサイトが22歳以下限定であるのも、この“少年”への思いが込められている。
 全話ではないが、かなりの話数が無料で公開されていることについて細野氏は「今まで漫画を読んでなかった少年たちに漫画にハマるきっかけを与えたかった。そのハードルを下げる場の提供。」と解説。一方、ユーザーがチームを作って漫画をオススメしていく「リレー企画」について橋本氏は「そもそも漫画というのは、学校などで『あれ読んだ?』など盛り上がれるコミュニケーションツールだった。今はスマホで1タップ、2タップでアクセスして読んだりすすめたりできる。昔より簡単なんです。『ジャンマガ学園』もそんな“今”だからこそやれる最大級の施策」と世相を分析しながら話す。発表がこの春なのも、新たな友達ができる新学期のタイミングに合わせたかったからだ。

 「漫画不況といわれますが、そうした危機感からの発信ではなく、面白そうだからやってみただけ。面白いものを届ける、これは我々の使命です」と橋本氏。先述の超分厚いコラボ冊子を作ったのも「作ったら面白いのでは?」という思いから制作。両者とも「危機感ばかりの仕事はつまらない」と声を揃える。

 ちなみに、タイトルは『ジャンマガ』…つまり『ジャンプ』が先だが番手的に問題は起こらなかったのか? 「当時のタイトル候補は『ジャンマガ』と『マガンプ』の二択。音の響きから揉めることなくすんなりと『ジャンマガ』に決定しました」(橋本氏)そうだ。

アクティブユーザー数で言えば、今の方がジャンプ黄金期よりも読まれている

 「危機感からの発信ではない」と語るが、「全国出版協会・出版科学研究所」の調査によれば、17年には紙のコミックスが前年比0.9%減となり、1.666億円に減少。電子コミックスが前年比17.2%増加の1,711億円となり漫画の歴史史上初めて電子が紙を抜いたことが発表された。さらに今年1月の発表では、18年はそこからさらに紙媒体の市場規模は減少、電子市場では増加傾向。そしてこの辺りに両氏の言葉の土台がある。
 「漫画は今が一番多くの人に読まれている、面白い時代。現在は多くの漫画アプリが存在しており、主要な漫画アプリのダウンロード総数は1億以上。アクティブユーザーを全部足せば、ジャンプ黄金期の最も雑誌が読まれていた時代よりも読まれているのではないか。紙VSデジタルの構図はナンセンスだと思います。今ある技術を使ってあらゆるニーズに応えたいだけなんです。さらに弊社では海外限定の「MANGA Plus」というサービスで、英語とスペイン語の翻訳版配信もありますので読者は世界に。海外も視野に含めた動きができていると思います」(細野氏)

 「漫画家さんにとっても可能性が広がり、チャレンジしやすい環境にあると感じます。現在はツールも進んでおり、SNSなど発表の場も多く、さらに誰もが投稿できる出版社の投稿サービスも増えています。漫画を描きたいという人のスタートのハードルが低く、新たな才能が世に出て来やすい。漫画は教育に悪いという時代がありましたが、現在はその社会的抑圧も強くない。漫画にとって今はとても幸せな時代なのではないでしょうか」(橋本氏)
 漫画にとって幸せな時代だからこそ実現したこの企画。その記念としての『少年ジャンマガ』特別記念号を手にできる幸せ者は、わずか3人のみ。その入手手段の一つ「読書感想文」に両氏は、「是非、素直な感想をお聞かせください」と、文字通り“少年のように”瞳を輝かせていた。

(文/衣輪晋一)

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