(更新:)
ORICON NEWS
まるでRPG? 振り切りまくりの公務員図鑑、編集者に聞く「就活世代の仕事観」
有名企業に入れたら勝ち?自分のやりたいこと優先? 就活世代に見られる二面性
加藤さん最初のきっかけは「海上保安官海図編集官ってカッコいいなぁ。同じ”編集”でも響きのカッコよさが段違いだな〜」と思ったことです(笑)。海上保安官編集官以外にもカッコいい職種はいっぱいあり、また高校生、大学生のなりたい職種では相変わらず公務員がトップなので需要があるのではと思って企画しました。
――今の就活世代に感じることは?
加藤さん就活世代の子と話していると、いまだに「有名企業に就職したら勝ち」という空気がある一方で、「大切なのは職業ではなく“どう生きるか”」という考え方があるのも感じています。「自分のやりたいことがあり、そのための収入を得るために働く」という考え方がありますが、それに代表されるのが公務員。休みもしっかりとれて、残業がないというイメージが、今の子たちの考え方とマッチしているとも思いました。だけど「それで本当に公務員って成り立つの?」という疑問も浮かぶはずです。実際問題、政治家や官僚、特に霞が関の住人たちなんて、一般企業じゃ考えられないくらい過酷に働いています。世間的なイメージと現実のギャップを表現できないかと思い、作ったのがこの本なんです。
カッコよさに振り切る理由は「なりたいと思える“きっかけ”を与えたい」から
加藤さん中途半端にしたくなかったのです。実際に受験を志す人はその後自分で調べるはずなので、高校生や大学生が職業を目指すきっかけにさえなればいいと割り切りました。
――ここまで振り切っていると、監修者の選定に難航したのでは? どのように選ばれたんですか?
加藤さん公務員を語れる人で、なおかつ“カッコいい”部分を前面に押すことを面白がってくれる人って、なかなか適任者がいなくて。監修の秋山謙一郎さんはビジネス誌で硬派な記事を書かれている方。最初のアプローチでは秋山さんにも「こんなの誰の役に立つの?」と一度断られたという経緯があります。
――どのように説明されたんですか?
加藤さん「“ファンタジーの世界として見せる”と考えてください。高校生・大学生に、なりたいと思える“きっかけ”を作る本なんです」とプレゼンしたら承諾してもらえて。「中途半端に役立つとか、なりたい人はこれを読めというのなら責任はとれませんが、公務員ってこんなにカッコいいんだと伝えられる、そういう振り切り方ならやりましょう」と。一からネームを擦り合わせしながら作っていきました。
「俺でも恋の炎だけはさすがに消せないぜ!」(消防士)、痛キャッチに反響
加藤さんイラストは“RPG風”にしています。高校生、大学生にとっての「カッコいいビジュアル」を考えたときに、このテイストが一番だと思いました。わかりやすいペルソナを設定し、それを実写ドラマ化する場合に、真っ先に浮かぶ映像を最大限にカッコよく昇華させたらどうなるか? とイメージしてビジュアルを制作しました。
――消防士の「俺でも恋の炎だけはさすがに消せないぜ!」など、小粋なキャッチコピーはSNSでも話題になっていますね。文言はどのように考えたのですか?
加藤さん“かっこいい”を最大限意識し、職業を表現しているキャラクターが言いそうな言葉を選びました。本書を発売する以前に、同様の形式で『カッコいい資格図鑑』(同社)を出していたのですが、ボイラー技士の「あなたを温められるのなら、私は主役じゃなくていい」というキャッチが好評だったこともあり、ライトノベル的な痛めなラブキャッチの方向性で考えました。
――「生涯安定よりカッコよさで選べ!」という言葉が本の帯にありますが、若い世代の職業選びについてあらためて感じられたことは?
加藤さん「仕事のために生きるのではなく、趣味など好きなことをするために働く。休みたいときに休める仕事を」といった価値観のもと、公務員を目指す若者はいまだに多いと感じます。よく30年後には今ある職種はほぼAIにとって替わられるとも言われていますが、そういうことに対する漠然とした不安感もあるかと。単純に「やる気がない」「ゆとり」とは言えないのかな。ただ「残業や休日出勤なし、有給たっぷり」という理由で公務員を目指すのでなく、「この仕事、この肩書き、カッコいい!」と思うきっかけに、この本がなれば、編集者としてとてもうれしいです。また、すでにその職業に就かれている公務員の方には「こんなカッコいいヤツ、うちの署にいねーよ!」とSNSなどでいじっていただき、それがバズってくれたらうれしいです(笑)。
これから職業を決める若者に対して「その職種、名前を知り、興味を持つきっかけになってもらえれば」と話す加藤さん。この本が若者たちの職業選びに一石を投じる一冊になれるか期待したい。
(文:水野幸則)