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【コミケ95】PTAと戦った『ハレンチ学園』の存在も 商業誌における性描写の変遷

  • 伝説のマンガ『ハレンチ学園』も掲載されていた『週刊少年ジャンプ』(集英社)創刊号

    伝説のマンガ『ハレンチ学園』も掲載されていた『週刊少年ジャンプ』(集英社)創刊号

 先日、『ジャンプフェスタ2019』アニプレックスブースにて、女性キャラ・湯ノ花幽奈の1/7スケールフィギュアの展示や、封入特典となった“おしりマグネット”などについて、「子どもが読むマンガなのに」「ジャンプにお色気作品なんて」などとSNSを中心に議論噴出となった。中でも、SNSでの「いつからこんなので読者を引きつけようとするようになったんでしょう」というコメントについては、古参のジャンプ読者を中心に多数の異論も。そこで、東京ビッグサイトで開催された『コミックマーケット95』(C95)に、「エロマンガ統計」と題した検証本を出展した牧田翠氏(@MiDrill)に、商業誌における性描写の変遷を聞いた。

昔のエロマンガは「性行為が描ける娯楽メディア」

 そもそも「エロマンガ統計」とは何なのか? そこには3つのポイントがあると牧田氏は説明する。「まず、エロの世界をデータで見える化しました。そして、美少女系エロマンガの特徴をグラフでわかりやすく解説すると共に、それぞれの雑誌の特徴を、数字の根拠と共に比較しています」とのこと。今回のコミケ95に出展した新刊では エロマンガ302作品を実際に手作業で数えて統計分析したのだそう。

 これほどの熱量を持って臨むエロマンガ統計についてそのきっかけを聞くと、「元々はジェンダー研究からスタートしています」と回答。そして「曖昧に語られがちな『エロ』というものを、数字でデータ化してみたら面白そう、という動機で始めました」と述懐した。

 では、本統計によって感じた、日本の商業誌におけるお色気ムーブメントの変遷とは?

「1990年代前半では、性行為が描かれない作品はエロマンガ誌内の25%。一方、現代は性行為が描かれない作品は2〜7%とかなり減少しています」

 つまり、昨今は“エロ描写”のためのエロマンガが90年代に比べて増えている点が見えてくるという。事実、かつてはエロマンガ誌からエッジの効いた漫画家がたくさん輩出されていた。吾妻ひでお、西原理恵子、いしかわじゅんなどがその系譜であろう。性描写だけを目的としない、外連味を聞かせた作品が減っている点が統計から見えてくる。

 その理由として牧田氏は、エロマンガに求めるものが『エロ』だけになってきたからだと説明する。昔のエロマンガは「性行為が描ける娯楽メディア」であり、性行為とそこに関わる周辺の物語を楽しむメディアだったという。しかし、2000年以降はインターネットの普及などによって、徐々に選択できる娯楽の種類が増加。「エロ」も検索すれば簡単に手に入る時代となった。そういった影響を受けて、現代のエロマンガは、「単に性行為表現を楽しむメディア」へと変化したと分析する。

PTAの抗議に屈しなかった永井豪氏『ハレンチ学園』の矜持

 では、今回SNSで話題となった『週刊少年ジャンプ』における『エロマンガ』の役割と変遷。そして、ターニングポイントとなった作品については以下のように説明する。

 上記のように、いわゆる「お色気枠」と呼ばれるマンガの中で、ターニングポイントと言えるのは、まず永井豪氏の『ハレンチ学園』(1968-1972)。この作品のヒットがなければ、現在のジャンプはなかったとも言われる。

 「単純なパンチラや全裸を描いていたと思う方も多いのですが、特筆したいのは、PTAの抗議に対して永井氏は屈せず、少年たちにとっての“娯楽”を提供し続けようとした点にあります。さらに、大人たちが『ハレンチ学園』を潰そうとする展開になるという、現実をマンガの世界に落とし込んだパロディ「ハレンチ大戦争編」を描いた点も重要です」

 ここでは登場人物たちの悲惨な死が描かれる。「自分たちは主人公だし戦死なんかするはずがない」と、メタフィクションな視点でタカをくくっていたキャラクターたちを壮絶に殺していき、ギャグマンガの域を超えたストーリーを描いている。永井氏がその後に描く『デビルマン』などに繋がるその表現方法は、マンガ史にとってもエポックメイキングとなっている。

 次にあげるのは桂正和氏の『電影少女』(1989-1992)。ここでは、心情描写がそれまでの、いわゆる少年誌的ラブコメに比べてかなりリアルなものになったと言及。主人公が優しいからこそ相手の女の子が傷つく展開なども描き、少年誌で「ラブコメでないラブストーリー」を描いている。恋愛の行きつく先として、性行為ギリギリまで描いており、裸体描写も写実的なものになっており、他の作家における。魅了された人も多いのではないでしょうか。

 また、河下水希氏の『いちご100%』(2002-2005)、長谷見沙貴氏・矢吹健太朗氏の『To LOVEる-とらぶる-』(2006-2009)の与えた影響も大きいと説明。「『とらぶる』では各話ごとにパンツ・全裸が描かれており、また単行本での乳首修正も話題になるなど、エロ表現を語るうえで重要な作品」と強調する。連載誌を変えての続編『ToLOVEる-とらぶる-ダークネス』では、吹き出しで局部を隠すなど、性行為を描くエロマンガでも見られない新たな表現技法を開発したのでは」と牧田氏は言う。

子どもに安全な場所で「冒険」させることが必要

 それでは、SNSで少年誌の健全化を叫ぶ人たちのように、仮に少年マンガ誌にお色気がなかった場合、どんなことが起こるのだろうか? 牧田氏は、「漫画で満足していた子どもたちの性欲がどこに向かうか考えると、それはインターネットか、現実の性行為なのでは」と意見を表明する。

 「いま、ネットで検索をすれば、いくらでもポルノを見ることができます。親が子どもの携帯に設定するフィルタリングも、頑張れば突破できるそうです。また、コンドームを持っている中学生にも会ったことがあります。このように、少年誌のような“性に目覚める”階段のようなものが無ければ、簡単に危険な世界に足を踏み入れてしまう可能性があります」

 こういった事態を防ぐには、ある程度は安全な場所で“冒険”させてあげることが必要だと牧田氏は力説する。「少年誌などのお色気は、親から見て“悪いもの”でしょうが、それが“悪”だからこそ、子どもたちは“冒険した”と感じられる部分も大きいでしょう。善悪の区別などを学んでいる段階では、大人に隠れて自分だけの世界を構築する必要があると思います。それが少年誌のお色気なら、決定的に子どもを傷つける恐れが少なく、そういった意味で“必要悪”だと思っています」。

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