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平岩紙インタビュー『“転生型”女優としてのきっかけを作った松本人志との邂逅』
松本さんとの共演は嬉しいを通り越して怖かった
平岩紙もちろんです。気合が入り過ぎていて、でも普通にやらなくちゃ!っていう気持ちもあってフワフワしてました。私はまさにダウンタウン直撃世代なので、松本さんのコントに出演させてもらえるなんて、嬉しいを通り越して怖かったです(笑)。
――私も平岩さんと同世代なので、その気持ち凄くわかります(笑)。
平岩初めて、現場でお会いした時も、冷静さを保つことで精いっぱいで(しみじみ)。実は本番前、テストもしなかったんです。一度、なんとなく合わせたら、すぐ本番いきましょうという話になりまして(笑)。松本さんに恐る恐る「今ので宜しいのでしょうか?」と尋ねたら、「あぁ、そういう温度低い感じで大丈夫ですよ〜」って。
――そんな簡単に撮影が進んでたんですか!?
平岩やっぱり凄い方ってあまり余分なことは言わないんだなぁって。初めから完成図が見えているんでしょうね。
――あぁ〜自信がないとテイクを重ねるけど、最初からビジョンが明確なら余分なテイクはいらないと。
平岩はい。そういうことだと思います。ただ、初めて松本さんとお仕事する私にとっては、不安で仕方がなかったです。
――これまで、舞台、映画、ドラマと様々なフィールドで活躍している平岩さんですが、純粋な“コント番組”は初めてですよね?
平岩はい。宮藤(官九郎)さんの舞台でコント寄りのオムニバス作品というのはありましたけど、『MHK』のような、昔から観てきたような“ザ・コント”な作品は初めてです。しかも、あの松本さんが手掛けるコントですから……
――私も平岩さんとほぼ同世代なので分かるんですけど、思春期をダウンタウンさんに捧げてきたと言っても過言ではないですからね。
平岩ホントそうですよね! 物の考え方や面白いという感覚で、絶対的な影響下にいますよね。
松本さんはトイレに行くような雰囲気でカツラを着けて本番に向かう
平岩そうですね。やっぱり簡単に手を出してはいけないものだという意識はありました。ですから、「自分なんかが出ていいの!?」という気持ちは撮影中までありました
――シチュエーションや台詞が用意されているという部分ではドラマも映画も同じですが、明確に“笑わせる”という部分がコントには求められます。余計な力が入ってしまうのも無理のないことですよね。
平岩そうなんです……力を抜かなきゃいけないのになかなか抜けない。4年前の私も全力で頑張ったとは思うんですけど、今観直すと固いなぁ〜って(笑)。ですから、松本さんの力の抜け具合は本当に凄かったですね。お会いするまでもちろん怖かったんですけど、ご挨拶をしたら良い意味で凄く普通な方で、テンションも高くなくて。
――現場の空気もピリピリすることなく?
平岩まったく無かったですね。そこが凄いなって思いました。出演者やスタッフさんにも余計な気を使わせない配慮というか……余裕といいますか。まるでトイレに行くような雰囲気でカツラを着けて本番に向かうという(笑)。
――幾多の修羅場を潜ってきた方だけが出せる余裕。
平岩そうだと思います。
――コントって映画やドラマとは異なり、台詞や間に“余白”があり、そこが魅力ですけど、その余白を持たせるという部分では、平岩さんが主戦場としている舞台にも通じる部分はありますよね。
平岩確かに共通する部分は多いです。特に松本さんの書かれるコントは舞台の芝居と似ている印象が強いです。ドカドカ笑うというより、ジワジワくる笑い。
――確かにそうですね。考えさせる笑いというか。
平岩そうなんです。後から新たな笑いの発見があるんですよね。その“ジワジワ感”は舞台でやってきた芝居にも凄く共通するんです。
――じゃあ、緊張感はあったけど、違和感なく現場に入ることは出来たと。
平岩そうですね! お芝居に近い感覚で入ることは出来ました。普段、私がいる劇団(大人計画)と温度が似ている感じがして。
――きっと、温度感が近かったからこそ、松本さんも平岩さんを起用されたんでしょうね。
平岩そうだったら凄く嬉しいです。ずっとなんで私なんだろう!?って思ってましたから(笑)。
松本さんを見て、人間として凄くなり過ぎると普通になるんだなぁって(笑)
平岩それはもう、心ここにあらずな感じで(笑)。リハーサルが始まるまで、アパートの一室のような役者部屋で待機していたんです。で、出番がある役者さんが先に出ていくような流れで。私を含めて、そこいる役者全員が、先に収録に行く役者さんに「頑張ってください!!」ってエールを送って。
――まるで戦地に赴くかのように(笑)。
平岩変な絆は生まれましたね。それで、終わって帰ってくると、皆スッキリしたような顔になっていて(笑)。
――次々と召集令状が届くわけですよね。待機している方が怖いだろうな〜。
平岩怖いですよ〜。だんだん人も少なくなっていくし。
――で、最後に平岩さんが呼ばれて…。
平岩はい。務めて冷静さを装いつつ(笑)。やっぱり、お会いして嬉しい気持ちはもちろんあるんですけど、好き過ぎて会いたくないという気持ちもあって……でも、松本さんは直接お会いしてもこちらの期待を裏切らない方でした。
――やっぱり、松本さんって笑いの求道者的なイメージがありますから何か変なことしてしまったら怒られるんじゃないか?って思っちゃいますよね。
平岩そうですね。でも、お会いすると非常に丁寧な言葉使いで優しく接して下さって。現場でも、スタッフさんの誰よりも一番落ち着いていらっしゃいましたね。
――現場統括が常に冷静だと、スタッフも安心でしょうね。
平岩皆の事を見てくれている感覚がありましたね。松本さんを筆頭に、全員で撮影し終わった映像をモニターチェックしていたんですけど、私は後ろの方で観ていたにもかかわらず「誰か〜イス持ってきたって〜」って仰って頂いて。
――テレビで観ることがない“素”の松本さんを体感したんですね。
平岩初めて(ビート)たけしさんとお会いした時と似た感覚がありました。やっぱり凄い人って共通する部分が多いんだなぁって。人間として凄くなり過ぎると普通になるんだなぁって(笑)。
――今回の役って、普通の夫婦に降りかかった異常現象を描いてますよね。それこそ、トイレに行ったり風呂に入ったり食事をするのが“普通”の家庭。そういう意味で言えば、トイレに行くような感覚で“普通に”本番に臨んだ松本さんは正しいんですよね。なかなか出来る事ではないのでしょうが(笑)。
平岩そうですね。本当に理想的な役作りだと思います。松本さんは感覚的にそれを理解されているんだと思います。本番前にカツラを手に取る瞬間を目にしたんですけど、まるで自分の茶碗を手に取るような感じでカツラを付けてたんですよ。「いつもやってることだから」みたいな感じで(笑)。
――メイクさんにやってもらうでもなく、鏡でチェックすることもなく。
平岩はい。自然にスっと装着して。あれは職人というか匠の世界を感じましたね。