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映画『プール』大森美香監督 「夏の疲れが取れる優しい映画」



 タイの古都・チェンマイの郊外にある小さなプールの周りに集まる5人の6日間を描いた映画『プール』(公開中)。キャストが小林聡美に、もたいまさこと聞けば『かもめ食堂』(2006年3月)や『めがね』(2007年9月)をほうふつさせるが、今回脚本と監督の両方を手がけたのは今夏の連続ドラマ『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』(山下智久主演、フジテレビ系)や10月10日公開の『カイジ』(藤原竜也主演、佐藤東弥監督)など、話題作の脚本を数多く手がける大森美香。前の2作品の評判にも気負いはなく「映画でやりたいと思ったことをやらせてもらった感じはあります」と満足げに話す。


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◆空想で補えるところは空想に任せて


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 同作は大森監督にとって、長編映画の脚本と監督両方を担当した初めての作品。原作は漫画家・桜沢エリカが映像化を前提に書き下ろした新作だが、「決まっていたのは登場人物5人の設定と場所だけ。自由に脚本を書かせていただいた」という。大森監督がチェンマイを訪れたのも初めてで「舞台となったゲストハウスとプールを初めて見たとき、このヴィジュアルはすごい! と感動しました。その場所があったからこそ、この物語が生まれたといってもいい。この土地の人たちは何を考えるだろう、どういう気持ちで毎日を過ごしているだろう、そういうところから物語を考え始めました」。


 小林聡美演じる主人公の京子は4年前からチェンマイのゲストハウスで働きながら、母親を探している少年・ビー(シッティチャイ・コンピラ)とともに暮らしている。近所には余命を告げられたのに何年も生き延びているという菊子(もたいまさこ)や京子の仕事を手伝う、親切すぎる青年・市尾(加瀬亮)も住んでいる。そこへ、京子の娘・さよ(伽奈)が日本からやって来て、久しぶりに母と過ごした6日間が淡々と描かれる。


 市尾がなぜチェンマイで暮らしているのか、菊子は何者なのか、具体的に語られることはない。「いろいろなことを想像しやすい映画にしたくて、なるべくシンプルに、空想で補えるところは空想に任せたいと思いました。テレビドラマの脚本の仕事をやっていると、経緯や背景をきちんと説明することが求められることが多い。しかし、映画は、映画館の中で観客と一対一で向き合えるものだと思うので、その可能性を見たいという思いがあったので、出来る限り“情報”を削いでみました」とその意図を明かす。


◆食卓を囲むだけで、“家族”になれると思う


映画『プール』の場面写真(C)プール商会
 明らかに日本ではないと分かる空の色。風が吹き抜ける木々の緑。プールの揺れる水面に浮かぶ青。気持ちの良いキラキラと光輝く空気を感じる映像を切り取りながら、大森監督がとくに忘れられないのが、プールサイドにみんなが集まって、京子が弾くギターの伴奏で歌うシーン。「そのシーンを撮っている時に、この映画をやれてよかったなぁと、しみじみ思いました」と語る。


 この小林がギターを弾き歌いするシーンはワンカットで撮影されたという。「一連の流れで見たかった」と大森監督。歌い始めから歌い終わるまでの2分強の間で、何か心にひっかかっていたものがゆっくりと押し流されていくような、おだやかなクライマックス効果を発揮している。


 映画では、さよが京子と鍋を囲みながら「どうして私を残してタイにいってしまのか」と自分の気持ちを素直に母にぶつける場面がある。大森監督は「一緒に何かを食べるというのは、一緒にいて無理矢理何かを話すよりもつながっている気がします。食卓を囲むだけで、“家族”になれると思う」。その一方で、「一緒にいることだけがつながりでもない。離れていてもつながっていることも描きました」と作品への想いを語る。


 その場所に行かなければ出会えなかった人がいて、その場所にいなくてもつながっている人もいる。人と場所の関係性についても一考させられる作品だ。「映画を見ながら自分のことでも、家族のことでも、どんなことを考えていただいても嬉しいです」と大森監督。


 「目の前にあることをきちんとやる」のが性分という大森監督。脚本、演出、映画監督などさまざまなアプローチで「これからも新しい作品を生んでいきたいですね。作品を見た人からいろいろな感想を聞くのが嬉しくて、ただそれだけのためにこういう仕事をやっているんだと、この映画を作って思いました」。最後に「夏の疲れがとれる優しい映画。一緒にチェンマイに遊びに行ったような、そんな気持ちになってほしいので、タイ料理の店を予約してから映画館へお出かけください」とアピールしていた。


大森美香おおもり・みか

1972年、福岡県生まれ。1998年、TVドラマ『美少女H』で脚本家・演出家デビュー。『カバチタレ!』(01年/フジテレビ)、『風のハルカ』(05年/NHK)、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(06年/日本テレビ)、『エジソンの母』(08年/TBS)などの人気ドラマの脚本を担当。05年には、『不機嫌なジーン』で第23回向田邦子賞を史上最年少で受賞。映画は『インストール』(04年)、『デトロイト・メタル・シティ』(08年)、『ヘブンズ・ドア』(08年)、『カイジ』(09年)などの数々の話題作の脚本を手がける。04年オムニバス映画『恋文日和』の一遍『あたしをしらないキミへ』で初監督。『2番目の彼女』(04年)、『ネコナデ』(08年)に続き、本作が長編として脚本と監督両方を担当したはじめての作品となる。
『プール』

(C)プール商会

【ストーリー】
 4年前、祖母と娘・さよのもとを離れ、チェンマイの郊外にあるゲストハウスで働き始めた母・京子。大学の卒業を目前に控えた今、さよはそんな母を訪ねて、一人、チェンマイ国際空港に降り立つ。

 迎えに現れたのは母ではなく、母の仕事を手伝う市尾だった。小さなプールがあるゲストハウスにはビーという名前のタイ人の子供と不思議な空気感を持つオーナーの菊子がいた。さよは久々に会った母が、初めて会う人たちと楽しそうに暮らしている姿をどうしても素直に受け入れることができず、戸惑いを感じていた。

 4日目の夜、市尾が作った鍋を囲んでいた、京子とさよ。どうして私を残して、タイにいってしまったのか、さよはずっと聞きたかった自分の気持ちを素直に母にぶつけた。

脚本/監督:大森美香
原作:桜沢エリカ 『プール』(幻冬舎刊)

出演:小林聡美 伽奈 加瀬亮 もたいまさこ 

配給:スールキートス

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