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ヒットとトレンドで振り返る07洋楽シーン

ヒットとトレンドで振り返る洋楽シーン新たな潮流




 邦・洋楽ともに年々シュリンクしているパッケージ市場だが、洋楽においては金額ベースで前年比20%減ということさら厳しい数字となった。それでも、アヴリル・ラヴィーンが洋楽作品としては3年ぶりにアルバム総合ランキングのトップ10入りを果たすなど、アーティスト・パワーに的確なマーケティングが掛け合わされば、邦楽級のメガヒットを生み出せるポテンシャルがあることも証明された。これらのヒット作品やレディオヘッド、プリンスといった大物アーティストが海外で仕掛けたCDの売上に依存しない手法などを振り返り、洋楽の新たな潮流を探る。

 06年は、肌感覚としての洋楽の盛り上がりこそ大物の来日の連続やヒット作品の登場で感じられたものの、実際は大幅減――という状況だった。そして07年、そこからさらにマーケットとしての冷え込みを感じさせる事実が、データとランキングから浮かび上がってくる。ここをどう乗り切るのか、それともオルタナティヴな方法を模索していくべき時なのか。洋楽ビジネスがある種の岐路に立たされたのが、07年の最大の特徴だったと言えるのではないだろうか。

 まず、市場状況から07年を振り返ってみよう。洋楽全体の売上合計は06年と比べて、約84億円の減少(金額ベースで約20%ダウン)。シェアそのものも、全体の売上金額のうち洋楽の占める割合は15.3%となり、05年が17.8%、06年が16.0%だったことを考えると、年々確実に落ち込みを見せている。邦洋全体の売上も約15%も下がっているが、中でも洋楽は金額、枚数ともに下げ幅が大きい。ことに元々ニーズの少なかったシングルのリリースがトップ・プライオリティものに限られ、売上が前年比の金額ベースで42%もの下げ幅を見せたことは、特筆に価するだろう。

 年間総合アルバムチャートに目を向けてみよう。今年もミリオンを超える大ヒット作品は登場せず、これでミリオンを記録しなかった年が3年連続となった。1位のアヴリル・ラヴィーン『ベスト・ダム・シング』の一人勝ち状態(約85万枚)が顕著に現れており、50万枚を超えたのはこの1枚のみ。2位のNe-Yo(ニーヨ)と3位のリンキン・パークが30万枚台で、10万枚を超えた作品も18作品だけとなった。ちなみに10万枚を超えたタイトル数を振り返ってみると、04年が40作、05年が35作、06年が28作で、これも下げ止まりの様子は見えそうにない。そう考えると、今後は10万枚を超えるかどうかが「大ヒット」の一つの判断基準になりそうだ。枚数の面から見ると、06年は年間100位を超えるとようやく3万枚台という数字が見えていたが、07年は80位台で3万枚台に。厳しい状況だ。



アヴリルが年間総合4位。ランキングに顕著に表れたプロモーション来日効果

 もっとも、明るい話題がないわけではない。今作が3rdアルバムにあたるアヴリル・ラヴィーンは3作連続で大ヒットを記録しており、06年の洋楽年間セールス1位だったコンピレーション・アルバム『Beautiful Songs〜ココロ デ キク ウタ〜』の約71万枚を超える売上を記録、年間総合アルバムランキングでも4位に入った。05、06年と年間総合ベスト10に洋楽作品を送り込めなかったシーンにとって、3年ぶりのTOP10入り。これは確実に、BMG社のプロモーション来日タイミングの設定や稼動の効果もあるはずで、発売翌週に来日したアヴリルは2週目で1位を獲得し、4週連続でTOP3、10週連続TOP10に入った。同社は他にも、同様に発売タイミングを逃さずプロモーション来日を成功させたバックストリート・ボーイズが『アンブレイカブル』で自身初の2週連続1位、4週連続TOP3に入り、10月24日発売にもかかわらず年間洋楽4位に入った。また、日本の市場において新人バンドを展開するのが実は難しいUKアイテムにおいても、THE VIEWがノン・タイアップにもかかわらず年間62位(累積約5.1万枚)に登場。こちらも、タイミングと方法を逃さぬ同社のプロモーション展開が功を奏した証になるだろう。

 プロモーション来日や来日公演での稼動の重要性は、これまで以上に顕著にランキングに反映されている。たとえばNe-Yoは今回初めてアーティスト稼動した形になるが、その効果がてきめんで、前作の累計34万枚を超えて2ndアルバム『ビコーズ・オブ・ユー』は約38万枚を記録した。上表の年間ランキング30作品のうち、07年に来日しなかったのはショーン・キングストンのみ(ザ・ビートルズ、コンピ盤は除く)。それを考えると、実際にアーティストが来日し稼動することで可能になるテレビやラジオ、紙媒体への情報露出やレコード店での販促イベントなど、基本的なプロモーションをきちんと展開する重要性が、音楽ファン層や趨勢や要求に実はちゃんと沿っていることを改めて浮き彫りにするかのようだ。

 また、リンキン・パークが3rdアルバム『ミニッツ・トゥ・ミッドナイト』でここ日本において自身初の1位を獲得したほか、相変わらず強いボン・ジョヴィも『ロスト・ハイウェイ』で1位をきちんと掌中にしている。ちなみボン・ジョヴィはアルバム1位獲得数がこれで4作目となり、洋楽バンドとしては、ベイシティ・ローラーズ、ザ・ビートルズとともに持っていた3作の記録を抜いて単独1位に立った。洋楽アーティスト全体でも、1位タイであるサイモン&ガールファンクルとマライア・キャリーの5作という記録に次ぐ、第3位ということになる。

 06年のダニエル・パウターとジェイムス・ブラントという二大新人シンガー・ソングライターの活躍には及ばないもの、07年も新人がきちんとランキングに足跡を残しているあたりも希望が見えそうだ。新人バンドでは英グラスゴー出身の3人組、ザ・フラテリスがiPod+iTunesのCMによる世界的なヒットを記録し、ここ日本でも新人としては唯一10万枚を突破して年間15位に。また、MIKA(ミーカ)は06年のしっとり系シンガー・ソングライターとは一線を画したカラフルなバブルガム・ポップ作品で年間24位に入り、男性シンガー・ソングライターの日本マーケットにおけるバトンを08年に繋いだ形となる。

大物が次々に仕掛けた新たな販売手法

 さて、ここから先は07年の洋楽シーンにおける特筆すべき出来事を振り返っておこう。まずは、秋から年末にかけて世界中で話題となった、レディオヘッドの最新作リリースが07年を象徴するトピックだろう。整理しておくと、ちょうどレコード契約の切れていた中で最新作を制作中だったレディオヘッドが、10月1日にオフィシャル・サイトで最新作の二種類のリリース方法を発表。一つは10月10日からのダウンロードによるリリースで価格は購入者が自由に決められるという形、もう一つは40ポンド(約9100円)の豪華ボックス・セットの予約ができるというやり方だった。一説には初日だけで120万ダウンロードされ、平均購入価格は約1000円だったという。このリリースは“無料購入可能”という方法が特に話題となり、その後ナイン・インチ・ネイルズとソウル・ウィリアムスの共同作品が、無料か一定価格の設定金額かの二者択一方法でのダウンロード・リリースを試みたことも話題となった。

 もっとも、先ごろトム・ヨークに取材したところ、彼らは音楽業界に騒動を起こすことを狙ったわけではなく、同時に豪華ボックス・セットの予約を開始したこと(これまでも『アムニージアック』の特別盤がグラミー賞のアートワーク賞を受賞したほど、彼らはアートワークやフィジカルなものに力を入れてきている)、さほど間をおかずしてMP3よりも音質の優れたCD盤のリリースを決定したことを挙げ、「ただ、作ったものをそのまま届けてみる方法があったからやってみただけ」と説明していた。実際のところ、レディオヘッドだからこそ可能なリリースだったため、音楽ビジネスにドラスティックな変動を与えることはないかもしれないという見方もある。特に日本では言葉の壁もあり、彼らのオフィシャル・ホームページを随時見ている熱心なファン以外には、ダウンロードなどのリリース情報そのものが伝わりにくかった。このあたりは、プロモーションやレコード店での展開が今もって日本における洋楽では重要かつ有効であることを、示唆してもいる。

 ちなみに日本でも、約2ヶ月後の12月3日に日本語サイトがオープンしNTTドコモユーザーが自由価格でダウンロードできるシステムでのリリースを開始。初日にはサーバーがダウンするほどの盛況となった。また、HSE社からのフィジカル盤リリースは、同社のプロモーションによって、様々な媒体でこの新作が話題として取り上げられるきっかけを作った。

 海外では他にも、レコード会社にとっては頭の痛い販売方法を含めて、様々な形でのリリースが試みられたのも07年の特徴だ。たとえばプリンスは最新作『プラネット・アース〜地球の神秘〜』を、イギリスでは購読者数200万のデイリーメール紙の日曜版の付録として無料配布している。「お金を出すほどではないけれど、ちょっと聴いてみたい」という層はおそらく、実際にリリースした際の売上枚数よりも多かったことは想像に難くない。海外では契約などの関係もあり、レコード売上からの収入よりもライヴにおける収入のほうが格段に多く、無料配布でCDを手にした層が新たにプリンスに興味を持ってライヴに足を運べば、アーティストにとっては収入面でのデメリットはない。ただ、この方法を日本でも採用する洋楽ミュージシャンが出てくるかどうかは、疑問が残る。

 他にも、マドンナがアメリカ本国では巨額の移籍金とともにコンサートプロモーター、ライブ・ネーションへ移籍し、今後はライヴと作品リリースが同じ目線から発信されることも話題になった。また、ポール・マッカートニーやジョニ・ミッチェルもスターバックスの新レーベル、ヒア・ミュージックに移籍し、店舗でCD販売が可能になるなど幅広くフレキシブルな販売網を選択するミュージシャンが増えたのも特徴だ。イーグルスは新作を大規模チェーン店スーパーのウォルマートでの限定販売にしたにもかかわらず、ビルボードで1位を獲得。待望の新作という側面をのぞいて考えたとしても、これは、アメリカでのCD販売方法の変化を如実に物語るエピソードだろう。

 そして07年は、再結成ブームに沸いた年でもあった。中でも12月10日に一夜限りの再結成ライヴを行ったレッド・ツェッペリンの場合、ベスト盤『マザーシップ〜レッド・ツェッペリン・ベスト』(11月14日発売)とライヴ盤『永遠の詩(狂熱のライヴ)〜最強盤』(11月21日発売)が、12月3日付のウィークリー・ランキングで2作同時にトップ10入り。洋楽アーティストによる2作同時トップ10入りは、t.A.T.u.以来4年5ヶ月ぶり。また、洋楽男性アーティストとしては93年10月25日付のビートルズ赤盤、青盤以来、14年1ヶ月ぶりの快挙となる。

 また、デジタル面での展開が様々な形で試みられたことも特筆しておきたい。たとえば、シングルの代わりに着うたをアルバム発売の2ヶ月前から先行配信するといった、モバイルをより効果的に使う方法が功を奏したアイテムもあり、新人のシャネルやショーン・キングストンは着うたから人気に火がついて、この夏の話題をさらった。

 他にもオアシスらがデジタル限定リリースでシングルを発表。ことシングルにおいては、今後はこの方法がより一層定着することと思われる。また、TO社がYouTube日本版に公式チャンネルを作るなど、戦略的プロモーション・ツールとして活用中だ。

海外の再結成ブームがいよいよ日本にも到着

 最後に、08年の動向を簡単に推測しておこう。まず年明けから、ザ・ポリス、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなど、昨年の海外での再結成ブームがついに日本に到着する形で、来日公演を行う。ダウンロードや旧譜の充実などで過去の音源が簡単に手に入るようになった現在は、若い購買層にもアレルギーなくビッグネームたちの過去の音源や再発が受け容れられるご時勢。それゆえ、これまで以上にコンピレーションやベスト盤を含む、「既にビッグネーム」のミュージシャンのアイテムが市場を賑わせそうだ。また、英米で良質の女性シンガー・ソングライターが多数登場しはじめていることが、男性に比べて女性シンガー・ソングライターは難しいと言われる日本市場に何らかの変化を起こす可能性も。冷え込みの厳しい状況だからこそ、考え方を変えれば、今が知恵の使いどころでもある。
(文/姉沢奈美) 

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