| 初監督映画『タイヨウのうた』が大ヒット、新感覚の映画術 ここ数年来の好調さを維持している日本映画。洋画との興収比較やDVDの売上げを見ても明らかだが、それ以上に、ひところの「邦画=野暮」というイメージが、完全に払拭されたことが重要に思える。こうした邦画復活に大きな役割を果たしたのが、『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、数々の人気映画を手掛けてきた制作会社ROBOT。今回登場する小泉徳宏監督は、ROBOT入社4年目、25歳のフレッシュな才能である。『タイヨウのうた』を中心に、映画作りに掛ける熱い思いを訊いた。 ただ悲しいだけの映画にはしたくなかった ── まず、25歳の若さでメジャー作品を監督するに至った経緯についてうかがいたいのですが。 ―― 作品は香港映画がベースにあったそうですね。 小泉:『つきせぬ想い』という題名の93年に制作された映画をリメイクするのが、当初の主旨でした。ただ10年以上前の映画ということで、内容的に、そのまま焼き直しても観客に響かないだろうと、脚色を重ねて今の日本に合う物語に作り変えていきました。その一環だったのかもしれませんが、僕が監督をするという話になりました。内容を変えていくうち、全くの別物になりましたね。リメイクというより、『つきせぬ想い』は原案に近い存在です。 ―― 映画では、XPという不治の病がテーマになっています。難病もの作品がブームになっている昨今に、あえて挑むことについては、どのようなアプローチを取られたのでしょうか。 小泉:僕自身は純愛映画を見ると恥ずかしくなるタイプなので(笑)、その辺は変えていかなきゃと思いました。だから、ただ悲しいだけの映画じゃなくて、病気は抱えているけれども常に前向きに生きましたという作品をめざしました。 |
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| ―― 「歌」を取り入れたのは、普通の難病ものにしたくないとの思いからなのでしょうか。 小泉:主人公が病気に屈していない姿を、分かりやすく表現する意味で歌は重要でした。彼女にとっては歌っているときが、生きていることをいちばん実感できている瞬間ですからね。 ―― そこでヒロインにシンガー・ソングライターのYUIさんを起用したと。 小泉:俳優が歌うか、歌手に演じてもらうのか、悩んでいた時期がありました。そこでYUIさんに行き当たり、プロデューサーと一緒に見にいって、すぐに「この人だね」と決まりました。歌っているときにいちばん輝いて見えることが、ヒロインとしての重要条件でした。 ―― その相手役は、若手ながら多くの作品に出演してきた塚本高史さんでした。 小泉:YUIさんが演技未経験だけに、経験豊富な塚本さんが彼女をうまくフォローしてくれたことが大きかったですね。男子高校生特有の幼稚っぽさと寂しげなところを合わせもった性格にと、一言キャラクター説明をしただけで、すべて理解してくれましたから。 ―― 20代前半の若さで、年配のスタッフを統率していくコツのようなものはありましたか。 小泉:いろいろと考えてはみましたが、結局何も通用しませんでした(笑)。最終的には、率先して自分が泥だらけになって一生懸命やることで、周囲に分かってもらうしかありませんでした。 ―― 全編を通しての抑制された演出が、従来の難病ものとは一味違う新鮮な印象を受けました。 小泉:僕自身は、あのシンプルさが今回の映画に相応しいと素直に思えたんです。そこが結果的には評価してもらえたようですが、もっと泣かせるシーンを盛り込むものだと思っていた方も、周囲には多かったようですね。 ―― 音楽が重要な位置を占める映画なので劇中での音楽の扱い方が難しかったのではないですか。 小泉:ヒロインが歌う曲は、実際にすべてYUIさんの作詞作曲です。主題歌の場合は、コンセプトだけを伝えて、具体的な詞やメロディについてはお任せしました。作中で歌う曲については、すでにできあがっている曲や「前向きで明るいアップテンポの曲を」とのリクエストで作ってもらえた曲を使用したりしました。ただ、劇伴とのバランスをどう取るかは難しかったですね。普通に入れると終始、音楽ばかりの映画になってしまいますから。前後にはなるべく劇伴を載せないことで、逆に歌のシーンが引き立ちました。 ―― ヒロインがレコーディングを果たす場面でも、スタジオ内の光景をその場では見せず、ラストに主題歌が流れるなかで、ようやくその場面を見せるという演出に唸らされました。 小泉:歌を聴かせることが大きなポイントだったので、ストーリーのなかでいちばん油の乗ったいい場面に主題歌を持ってくるために、徹底して気を配りました。エンドロールだけにしか主題歌が流れないというのはやりたくないなって(笑)。中盤でも、ストーリー的に盛り上がっている所へライヴシーンを持ってくるようにしました。 ―― 従来の難病ものにはない、コミカルなシーンもかなり盛り込まれていましたが。 小泉:楽しい時間があってこそ、最後の悲しみが際立ってくるという信念があるんです。だからむしろ、どんどん笑わせたいくらいです。そのほうがラストで亡くなる場面が、より悲しくなるじゃないですか。反対の意見もありましたけど、自分が見たくなる映画を撮ったつもりです。 ―― 終盤の葬儀のシーンなども、最小限に抑えた演出だったのではないですか。 小泉:号泣シーンにはしたくないなとは思いました。だいたい同じようなものになってしまうし、見なくてもみなさん、想像つくと思いますから。 ―― 従来の映画と比べて、ヒロインの台詞がかなり少なめだったようですが、これも音楽を際立たせるための演出でしょうか。 小泉:それもありますが、YUIさん自身のパーソナリティも、そんな感じであるというのもひとつの理由です。もともと主人公・薫は明るい性格で病気に屈しないという設定で、脚本を書いていたんですが、YUIさんが演じることになって、演技初経験ということもあるので、多少本を書き直して、当て書きのような形になりました。台詞を減らして、動作も抑えめにする代わりに、歌のときに全て発散する。今生きていることを実感していることを、感覚的にもビジュアル的にもはっきり伝わるようにしました。 ―― 観客席の反応はどのようなものでしたか。 小泉:意外なところでは、見終わった直後よりも1日経ったほうが胸に来ると言われたりしました。その場で号泣してすぐに忘れられるよりは有り難いですね。絵空事の感動を与える映画ではないので、こういったことが日本のどこかで起きているんだと思ってもらえたら嬉しいです。 ―― 映画のヒットはアーティスト・YUIのブレイクについても大きな役割を果たされましたが。 小泉:僕にとってそのことは、結果的に後から付いてきたことであり、特にその点を意図してきたわけではないですね。だから今後、アーティストをブレイクさせるための映画を撮れと言われても困りますし(笑)。アーティスト自身に本物の素質がなければ難しいと思うので。YUIさんのように、作詞作曲の才能も兼ね備えた人だったからこそできたことで。ただ、全く別ジャンルの人でも、役者として魅力のある人であれば、ぜひ出ていただきたいと思ってはいます。 ―― 自主映画の経験があるとはいえ、メジャー第一作とは思えないほど、エンターテインメントのツボを押さえた作品だったと思います。 小泉:おそらく監督しているときも、僕自身がお客さんとして映画を見ていたからだと思います。優先順位的には、お客さんを楽しませることが一番でしょうが、それでも判断に迷ってしまうことが結構あったように思います。そのときは、周囲の意見も重視はしてきましたけど、最終的には、まず自分が見たいものを撮ろうと考え、僕の意見を優先してきました。 ―― 11月にはいよいよ、DVDとしてリリースされます。その間に、テレビドラマ『タイヨウのうた』のオンエアがあり、注目を集めました。『タイヨウのうた』の知名度が高まっていますね。 小泉:テレビ版しか見てない方には、比較ではなく、アナザーストーリーとして見てもらって構わないと思います。ドラマから入ってくる人の方が、当然多いのでしょうが、それはもちろん大歓迎ですね。テレビ版との連動で、多くの人に見てもらえる形になったことは、結果的にすごく良かったと思います。 (取材・文/広川たかあき) | |||||
2006/11/01