マンガやライトノベル、音楽プロジェクトなど幅広くエンターテイメント事業を展開するアース・スターエンターテイメントから、新たな書籍レーベルが誕生。それが「すべての人に、ページをめくる喜びを──」をキャッチコピーとする「アース・スター文庫」だ。キャラクターや物語、何かひとつでも光るものがある作品を発信。ジャンル無制限の新レーベルを謳っている。オリコンニュースでは、その案内人を務める声優の福山潤にインタビュー。「レーベル案内人」としての心境やビジュアル撮影の裏側、自身が好きな本のジャンル、読書体験などを聞いた。
■「現実と非現実」が交差するビジュアル撮影
昨年から同社の各レーベルのナレーションを務めてきた福山だが、自らのビジュアルが看板となり、案内人という象徴的な役割を任されたことについて「びっくりした」と率直な心境を語った。
ムービーやメインビジュアルの世界観の印象を、「衣装や小道具の本が、爽やかでありながらも現実と非現実が両立している。そんな幻想的な世界と現実の中間地にいるような形で、皆さまを素敵な世界へ案内できたら」と話し、「こだわりよりは要望に対してどこまでアジャストできるか」を意識して撮影に臨んだと振り返る。
「作品のイメージに対して自分の中でカメラの画角内で表現できる表情だったり、柔らかさだったり、要望にお応えできることには十二分にお応えしようと。(ディレクションや世界観に)身を委ねつつ、例えばポーズひとつとっても、角度によってどういうイメージになるか自分なりの回答を提示して、互いにディスカッションするような形で進めました」
■読者と作品をつなぐ仲介役としての自負
福山が務めるのは、イメージキャラクターではなく“案内人”というポジションだ。「ストーリーテラーと言いますか。普段もアニメーションや朗読をするときは、観ている方々を作品の中へ誘う仲介役のような気持ちで関わらせていただいています」と語り、今回の役割にも強い共感を示す。
案内人として読者にどのように作品の魅力を届けたいかを尋ねると、「声優としての活動や演じてきたキャラクターを知ってくださっている方が作品を手に取ったとき、僕のイメージを入り口に、さまざまな作品との出会いにつながっていけばうれしいです」と思いを明かした。
さらに、「朗読一つ、アニメーションで声を当てる一つひとつの作品でも、『福山潤といえば、こういう声』というイメージにプラスアルファ、その作品ならではの魅力を見つけていただけたらという思いは、デビューした頃から変わりません。新レーベルではさまざまなジャンルやテイストの作品と出会えることは間違いないので、僕が案内人を務めることで、その出会いの一助になれたらうれしいです」と笑顔を見せた。
■10冊まとめ買いも当たり前?驚きの多読・併読スタイル
アース・スター文庫が掲げる「ジャンル無制限」というコンセプトに、福山は「すごくいいですよね」と大きくうなずく。
「ライトノベルも読んでいたし、文学小説を読んだりノンフィクションを読んだり、ルポものを読んだり、いろんなジャンルをザッピングしているタイプです。ルポ本やノンフィクションも好きですが、物語を読み進めていく楽しさもあり、出合って楽しいものが自分の好きなジャンルという感覚。自分の好みを規定する楽しさもあるけど、自分の好みを外してみる楽しさも間違いなくある。ジャンル無制限は素晴らしい!」
普段の読書頻度を質問すると「読む時にめちゃめちゃ集中して読む」と返ってきた。
「一つのことをやり続けるのが苦通じゃないので、仕事に傾いているときもあれば、怠けることに傾くこともあるし、スポーツに傾くこともある。読書に傾いたときは1冊読み終えてから次にいけばいいのに、一度に5、6冊とか多いと10冊ぐらいまとめ買いしちゃいます。積読はまったく気にならないし、並行してちょっとずつ読みます」
複数の本を並行して読んでも「混同することはない」といい、声優活動においても「1日に複数の役を演じる場合でも切り替えたことがない」と福山。「頭の中だけで処理しているのではなく、本を手に取って文字を見て、いろんなものを想像して やっていくので記憶の置き所、チェックポイントがいくつもあるので気にならない」と持論を語る。
そんな福山だが意外にも読むのは「めっちゃ遅いです(苦笑)」と頭をかく。
「おそらく昔よりも遅くなっているのでは。読む仕事をしているからなのか、僕の単なる個人的なものかわかりませんが、音読のスピードで読んでしまうので、やたら時間がかかります(笑)。特に集中してくると目で追って、頭で情報処理をするスピードが速くなってしまうので、一旦スピードを落とす意味でも、音読のスピードに切り替えることも多々あります」
■ファンタジーへの不変の愛と未踏のラブロマンスへの渇望
ジャンル無制限なラインナップを提示するアース・スター文庫。福山が特に惹かれる世界観は、「和風ファンタジーとか中華風ファンタジーとか洋風ファンタジーとかに学生時代ハマりまくっていました。現代からファンタジーの世界に行く、もしくは普段生きている世界に実は光と闇があったという世界に没頭した時期もありました」とファンタジーものへの愛を語る。
好きなジャンルについて聞くと、「ロボット、剣、魔法は外せませんよね」と笑顔。「僕は剣と魔法とロボットから脱することができない状態が続いています」と、変わらぬ“原点”への愛を語る。
その理由については、「魔法は便利に思えますが、物語の中では万能じゃない。便利なものでも万能ではないというところや、なぜ人は剣と魔法に惹かれるのかという根源的な営みの延長線上にあるような気がするんです」と分析。「もちろん、あるジャンルが隆盛を極めれば別のジャンルが注目されるという揺れ動きはありますが、エンターテインメント文化の中では、剣と魔法、異世界、ファンタジー、幻想といった憧れを体現できるジャンル。これからもずっと愛され続けてほしいです」と熱を込めた。
一方で、まだ挑戦したことのないジャンルについては、「小説の朗読という形では、ラブロマンスをやったことがないんです」と明かし、「やりたい」と意欲をのぞかせる。
「地の文からセリフまで、一貫して最初から最後まで読む作品は、歴史ものやハードボイルドなど、なぜかラブロマンスとはほど遠いジャンルが多くて(笑)。もちろん楽しいのですが、『ラブロマンスが来ないのは向いていないのかな』なんて思ったりもします」と苦笑した。
その一方で、「寝かせておいて、時が来たら読む楽しみが出てくる作品もある」と話し、「自分なりの上達法として、あえて文体が難しく堅めの文章を読み続けています。そうすることで、自分の読むリズムや目と脳の処理など、未熟な部分がくっきり見えてくるんです。そういうことも理由なのかもしれません」と自己分析する。
さらに、「ロマンスグレーのナイスミドルになったら、落ち着いたナレーションにも挑戦したいという思いがあります。年齢的にはいい感じなんですけど、まだ全然そこに重なっていなくて(笑)。10年、20年後には、そういう作品も良いクオリティで皆さんに届けたい。その途中のどこかで、ぜひラブロマンスにも挑戦したいですね」と未来への展望を語った。
■忙しい大人にこそ必要な物語への没入 日常を忘れさせる癒やしの力
レーベルのキャッチコピーは「すべての人に、ページをめくる喜びを──」。福山が最近感じた、思わずページをめくる手が止まらなくなった瞬間はどんなときだろうか。「台本や脚本をチェックしながら読んでいても、セリフがとんでもなく刺さると、つい手を止めて先々を読んじゃいます」と微笑みながら答える。
「脚本はいっぱいあります。小説でも読み始めて、この作品が好きだとか、この書き方が好きとか感じる箇所が数ページの間に何度かあると没頭して読んじゃいます。僕の価値観ですけど、認識の賜物が言葉だと思っています。人間は認識で物事を区分けでき、言葉がないと区分けすらできない。本の中にも、ページの中にも、構成の中にも、すべて一つひとつ好みがあるので、合致したときは止まらないです」
「夢中になったエンタメ体験は?」と話題を振ると、「享受する側よりも、実演している方が最近だと近い」と福山。「朗読劇とか生の場合、本番になると、時間の感覚を忘れてしまうくらい、それに没頭してしまいます」と語る。
「去年90分の1人朗読劇に挑戦しました。体力的には大変ですが、本番はひたすら楽しくて、いわゆる脳汁が出ているというか。開演の瞬間はまだまだ時間がたっぷりあるけど、読み進めていくうちにあと10ページぐらいで終わってしまう……という楽しい時間があっという間にという感覚に陥ってしまいます。パフォーマンスすると同時に享受する側にもなっていて、特に生のステージ上での実演はとても楽しいです」
新レーベルは30〜40代の大人な読者層をメインターゲットにしているが、同世代に向けて福山は「年齢を重ねて仕事とか人間関係とかを知れば知るほど、物語の世界に対する没入度は上がっていくというのが実体験としてもある」と前置きし、「いろんなものを楽しみたいと思っていた人も年齢を重ねると、一つの世界をじっくりと楽しんで、いろんなことを忘れて作品世界に入れたことが癒しに転化するのでは」と自身の体験を元に語る。
「そういった味わいを、本のページをめくって文字を見るという行為で思いを馳せていただけるのであれば何よりです。年齢関係なく、良いものはいい。自分の体験など関係なく、素直に面白いものを享受できるようになるのも一つ、年齢が醸すものもあると思う。没入していただけるとうれしいです」
(取材・文:遠藤政樹)
2026/07/17