歌手デビュー44年目を迎えた伍代夏子が12月18日、自身初のデジタルシングル「一枚の写真」をリリースした。NHKラジオの長寿番組『ラジオ深夜便』で毎晩流れる「深夜便のうた」(2025年12月〜2026年1月)に起用された本作は、中森明菜、今井美樹、倉木麻衣、ASKA、YOSHIKIなど数多くのトップアーティストたちの作品を手がけてきた藤原いくろう氏と初タッグを組んだ、昭和の香りがほんのり漂うポップス。自らの発案によって生まれたという本作の制作秘話と、演歌・歌謡曲界への貫き通している思い、こだわりを聞いた。
■藤原いくろうとのコラボで生まれたエモーショナルな一曲
心の奥にそっと眠っていた懐かしくも切ない優しい思い出が、一枚の写真でよみがえる――。そんな密かな思いを大らかに優しく包み込むように歌い上げた「一枚の写真」。本作が誕生したのは、「ラジオ深夜便」からの楽曲提供依頼が発端だった。
「深夜に毎晩流れるということもあり、フォークっぽい歌がいいと思うとディレクターに話したところ、私のイメージしている楽曲を作るには藤原いくろうさんがピッタリだということでお願いすることになりました」(伍代夏子/以下同)
藤原氏には「演歌一辺倒の私でもわかる歌謡曲っぽくて、エモい感じのサウンドをリクエストした」という伍代。そうしてできあがったメロディーは「フォークと演歌の2つの円が重なる共通部分に位置するような、まさにイメージ通りの作品」と胸を張る。
朝倉翔氏による歌詞は、「ただ思い出に浸るだけでなく、過去を肯定できること」を根底に依頼。
「添えなかった相手には、甘酸っぱい思い出も、後悔も、いろいろな思いが去来すると思います。けれど、今が幸せだからこそ、昔のことを穏やかに思い出すことができる。そういう世界観にしたいと考えました」
レコーディングでは、40年以上にわたり培ってきた伍代夏子節は封印。主人公になり切り、感情を前面に押し出して歌うのではなく、「聞いている人に寄り添えるような温かい世界観」を意識して、「いつもより淡々と歌った」と振り返る。
まさに新境地開拓といえる作品になったが、本作を皮切りに、今後、演歌以外のジャンルのオリジナル楽曲にも積極的に挑んでいくのかと思いきや、「フォークもニューミュージックも好きなので、カバーアルバムを出すことはあるかもしれませんが、新曲ではないと思う」とキッパリ。その背景には、やはり演歌への並々ならぬ強いこだわりがある。
■“演歌は不滅” 伍代夏子の演歌哲学
1982年のデビュー以降、3度の改名を経て、87年から伍代夏子として演歌界の第一線で活躍し続けている伍代。物心ついた頃から演歌歌手になる夢を抱いていたそうで、姉やまわりの友人たちがグループサウンドやアイドルに熱狂し始めるようになってからも、「私の琴線に触れたのは、五月みどりさんや美空ひばりさん、八代亜紀さん。自分から演歌を選んでいたのだから、根っから演歌が好きなんです」と微笑む。
そうして昭和、平成、令和と演歌を歌い続けてきた今、伍代は演歌を歌う喜びをこう語る。
「どんな歌でも表現力は必要ですが、演歌はとくにそれが大きいと思うんです。若い頃にどれだけ節回しがうまく、流暢に歌えたとしても、やはり人生経験を積んでこそ生まれてくる説得力というものがある。それがもっとも出せるのが演歌であり、その意味でも演歌は一番面白いジャンルだと思います」
1990年代以降、J-POPをはじめ多様な音楽の台頭により、演歌衰退論が言われることもあったが、伍代は「私はまったく心配していなかった」と笑い飛ばす。
「20代の頃、同年代の人たちに『なんで演歌なの?』って言われたこともありました。でもその時、常に私は『みんな、まだ青いな。今にきっとわかるときがくるわよ』って思っていたんです。たとえば会社で管理職になって、人間ドックに引っかかっちゃって、家では子どもたちがもうパパと呼んでくれなくなってきて、奥さんは習い事に夢中で、少し寂しくなった時に、赤ちょうちんでひとり一杯やっていたら、私の歌が流れてきて、『なんだか伍代夏子の歌って、心に沁みてくるなぁ』って思うときがきっとくるわよって思ってたんです。その時が人間が成長したときなんだからって、私はずっと思ってきたんです。だから演歌は不滅。心配をしたことは一度もありませんでした」
そして、伍代は、演歌を歌い続けるなかで、「演歌は進化してはいけない。古き良きものを守ることが必要」と強く訴える。その思いから、オリジナルだけでなく、過去の名曲を歌い継いでいくことにも力を注ぎ、後輩たちを見守る目も温かい。
■歌手はステージに立ったら主役 仲間を作ることで成長できる
今、演歌・歌謡曲界のジャンルには若い歌手が増え、若い世代のファンも増え、勢いを増している。伍代も「非常に頼もしい」と喜びつつ、若手演歌歌手たちにこんなアドバイスをしているという。
「ライバルは絶対いたほうがいいから同世代の演歌歌手たちと仲良くしなさいって言っています。歌手は売れていようがいなかろうが、誰もがステージに立ったら主役です。聴いてくださっている方をいかに惹きつけられるか、応援していただけるようになるかは、全部自分の肩にかかってきます。そこで揉まれることで、いつしか緊張したり、気負ったりせずに、お客様を楽しませるステージングができるようになっていく。そのためには仲間って絶対必要なんです。自分ひとりでは力が弱くても、仲間を作ることで出演できるステージは多くなり、チャンスは多くなる。仲間と切磋琢磨することで自分自身もより成長できるはずですから」
それは自身の体験からも実感していることだという。
「私も坂本冬美さん、香西かおりさん、長山洋子さん、藤あや子さんと5人娘と言われ、当初は『ライバル視してるでしょ』ってよく言われました。でも、競争しているのは会社だけで、私たちは一緒にいてとても安心感があって、『みんなで上がっていこうね』といつも話し合っていました。実はみんなで上がっていくための努力って大変なことなんです。たとえば、ひとりがヒットして飛び抜けたらそこに追いつかなければいけないんですから。でもそんな環境にいたからこそ、成長できたし、みんなとは違う自分の個性も見つけられるようになった。ですから今は同期の仲間がいたことに本当に感謝しています」
2021年、声が出にくくなるという喉の病気のジストニア(けいれん性発障声害)を患っていることを公表した伍代。「今でも、治ったわけではなく、騙し騙しやっているので、どこまでいけるだろうって心配になることがある」と語りながらも、「とりあえず、行けるところまで行こうっていう開き直ったような心境で歌を楽しめてもいる」と微笑む。その一方で、今後に関してはこんな展望も抱いているという。
「ちょっともう伍代さんの歌を聴くのはしんどいよねっていうふうになっては歌えないので、そのときは表舞台には出なくなると思いますけど、それでも演歌の世界からは離れずに、後進の育成をするなど、一生演歌に携わっていくと思います。いっぱいある着物だって誰かに着てもらわなくちゃいけませんからね(笑)」
伍代といえば自らが主宰する女性演歌歌手による「艶歌卓球部」の活動も有名だが、その演歌に対する熱い思いを聞いていると、一見、楽しんでいるだけに見える卓球でさえも、演歌界を盛り上げる仲間たちとの結束の場に見えてくる。デビュー前から憧れていたという美空ひばりや八代亜紀など、演歌の灯をともし続けてきた数々の先輩たちの志は、今や、確実に伍代夏子に受け継がれている。
取材・文:河上いつ子
<作品情報>
伍代夏子 デジタル・シングル「一枚の写真」
2025年12月18日リリース
■藤原いくろうとのコラボで生まれたエモーショナルな一曲
心の奥にそっと眠っていた懐かしくも切ない優しい思い出が、一枚の写真でよみがえる――。そんな密かな思いを大らかに優しく包み込むように歌い上げた「一枚の写真」。本作が誕生したのは、「ラジオ深夜便」からの楽曲提供依頼が発端だった。
「深夜に毎晩流れるということもあり、フォークっぽい歌がいいと思うとディレクターに話したところ、私のイメージしている楽曲を作るには藤原いくろうさんがピッタリだということでお願いすることになりました」(伍代夏子/以下同)
藤原氏には「演歌一辺倒の私でもわかる歌謡曲っぽくて、エモい感じのサウンドをリクエストした」という伍代。そうしてできあがったメロディーは「フォークと演歌の2つの円が重なる共通部分に位置するような、まさにイメージ通りの作品」と胸を張る。
朝倉翔氏による歌詞は、「ただ思い出に浸るだけでなく、過去を肯定できること」を根底に依頼。
「添えなかった相手には、甘酸っぱい思い出も、後悔も、いろいろな思いが去来すると思います。けれど、今が幸せだからこそ、昔のことを穏やかに思い出すことができる。そういう世界観にしたいと考えました」
レコーディングでは、40年以上にわたり培ってきた伍代夏子節は封印。主人公になり切り、感情を前面に押し出して歌うのではなく、「聞いている人に寄り添えるような温かい世界観」を意識して、「いつもより淡々と歌った」と振り返る。
まさに新境地開拓といえる作品になったが、本作を皮切りに、今後、演歌以外のジャンルのオリジナル楽曲にも積極的に挑んでいくのかと思いきや、「フォークもニューミュージックも好きなので、カバーアルバムを出すことはあるかもしれませんが、新曲ではないと思う」とキッパリ。その背景には、やはり演歌への並々ならぬ強いこだわりがある。
■“演歌は不滅” 伍代夏子の演歌哲学
そうして昭和、平成、令和と演歌を歌い続けてきた今、伍代は演歌を歌う喜びをこう語る。
「どんな歌でも表現力は必要ですが、演歌はとくにそれが大きいと思うんです。若い頃にどれだけ節回しがうまく、流暢に歌えたとしても、やはり人生経験を積んでこそ生まれてくる説得力というものがある。それがもっとも出せるのが演歌であり、その意味でも演歌は一番面白いジャンルだと思います」
1990年代以降、J-POPをはじめ多様な音楽の台頭により、演歌衰退論が言われることもあったが、伍代は「私はまったく心配していなかった」と笑い飛ばす。
「20代の頃、同年代の人たちに『なんで演歌なの?』って言われたこともありました。でもその時、常に私は『みんな、まだ青いな。今にきっとわかるときがくるわよ』って思っていたんです。たとえば会社で管理職になって、人間ドックに引っかかっちゃって、家では子どもたちがもうパパと呼んでくれなくなってきて、奥さんは習い事に夢中で、少し寂しくなった時に、赤ちょうちんでひとり一杯やっていたら、私の歌が流れてきて、『なんだか伍代夏子の歌って、心に沁みてくるなぁ』って思うときがきっとくるわよって思ってたんです。その時が人間が成長したときなんだからって、私はずっと思ってきたんです。だから演歌は不滅。心配をしたことは一度もありませんでした」
そして、伍代は、演歌を歌い続けるなかで、「演歌は進化してはいけない。古き良きものを守ることが必要」と強く訴える。その思いから、オリジナルだけでなく、過去の名曲を歌い継いでいくことにも力を注ぎ、後輩たちを見守る目も温かい。
■歌手はステージに立ったら主役 仲間を作ることで成長できる
今、演歌・歌謡曲界のジャンルには若い歌手が増え、若い世代のファンも増え、勢いを増している。伍代も「非常に頼もしい」と喜びつつ、若手演歌歌手たちにこんなアドバイスをしているという。
「ライバルは絶対いたほうがいいから同世代の演歌歌手たちと仲良くしなさいって言っています。歌手は売れていようがいなかろうが、誰もがステージに立ったら主役です。聴いてくださっている方をいかに惹きつけられるか、応援していただけるようになるかは、全部自分の肩にかかってきます。そこで揉まれることで、いつしか緊張したり、気負ったりせずに、お客様を楽しませるステージングができるようになっていく。そのためには仲間って絶対必要なんです。自分ひとりでは力が弱くても、仲間を作ることで出演できるステージは多くなり、チャンスは多くなる。仲間と切磋琢磨することで自分自身もより成長できるはずですから」
それは自身の体験からも実感していることだという。
「私も坂本冬美さん、香西かおりさん、長山洋子さん、藤あや子さんと5人娘と言われ、当初は『ライバル視してるでしょ』ってよく言われました。でも、競争しているのは会社だけで、私たちは一緒にいてとても安心感があって、『みんなで上がっていこうね』といつも話し合っていました。実はみんなで上がっていくための努力って大変なことなんです。たとえば、ひとりがヒットして飛び抜けたらそこに追いつかなければいけないんですから。でもそんな環境にいたからこそ、成長できたし、みんなとは違う自分の個性も見つけられるようになった。ですから今は同期の仲間がいたことに本当に感謝しています」
2021年、声が出にくくなるという喉の病気のジストニア(けいれん性発障声害)を患っていることを公表した伍代。「今でも、治ったわけではなく、騙し騙しやっているので、どこまでいけるだろうって心配になることがある」と語りながらも、「とりあえず、行けるところまで行こうっていう開き直ったような心境で歌を楽しめてもいる」と微笑む。その一方で、今後に関してはこんな展望も抱いているという。
「ちょっともう伍代さんの歌を聴くのはしんどいよねっていうふうになっては歌えないので、そのときは表舞台には出なくなると思いますけど、それでも演歌の世界からは離れずに、後進の育成をするなど、一生演歌に携わっていくと思います。いっぱいある着物だって誰かに着てもらわなくちゃいけませんからね(笑)」
伍代といえば自らが主宰する女性演歌歌手による「艶歌卓球部」の活動も有名だが、その演歌に対する熱い思いを聞いていると、一見、楽しんでいるだけに見える卓球でさえも、演歌界を盛り上げる仲間たちとの結束の場に見えてくる。デビュー前から憧れていたという美空ひばりや八代亜紀など、演歌の灯をともし続けてきた数々の先輩たちの志は、今や、確実に伍代夏子に受け継がれている。
取材・文:河上いつ子
<作品情報>
伍代夏子 デジタル・シングル「一枚の写真」
2025年12月18日リリース
2025/12/18



