『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)の「サビだけカラオケ」や『バナナサンド』(TBS系)の「ハモリ罰ゲーム」など、バラエティ番組のメイン企画をはじめ、今春、ゴールデンタイムには『with MUSIC』(日本テレビ系)や『ミュージックジェネレーション』(フジテレビ系)もスタートし、盛り上がりを見せるテレビの音楽コンテンツ。なかでも、『うたコン』(NHK)は、前身の『NHK歌謡コンサート』の時代から31年間変わらず、「生放送」「生歌唱」「生演奏」のコンセプトを貫き、演歌・歌謡曲からポップス、洋楽、ミュージカル音楽まで多彩なジャンルの音楽を届けてきた。今年はとくに特集のテーマにこだわり、コラボやカバーなど趣向を凝らした内容で、老若男女、全方位に向けて幅広い音楽を届けることに注力している。その背景と『うたコン』ならではの番組制作に対するこだわりについて、チーフ・プロデューサーの篠原伸介氏と井上繭子氏に聞いた。
■“生”ならではのライブ感で特別な出会いの場を創出
1993年から23年間放送された『NHK歌謡コンサート』の時代から「生放送」「生歌唱」「生演奏」にこだわってきたNHKの歌番組『うたコン』。昨年10月より同番組のプロデューサーを務めている井上繭子氏は、就任直後に感じたその力について、こう分析する。
「生放送・生演奏・生歌唱は、アーティストの方の意気込みも違い、最大の熱量でパフォーマンスを体感することができます。それに加え、この番組は、いろいろなジャンルの音楽が一堂に会していることも大きな魅力になっていると感じました。SNSが発達している今、皆さん、好きなアーティストの音楽を自分から取りに行っていますよね。一方で、それだけでは新たな音楽に出会う可能性が狭められてしまう気もします。この番組では、自分が観たいアーティストをきっかけに、番組を観なければ知り得なかったアーティストや音楽に出会うことができる。アーティストにとっても、視聴者にとっても出会いの場となっていることは大きな魅力だと思います」(井上氏)
それが顕著に現れたのが、5月14日、母の日にちなんで「母に贈る歌」をテーマにした放送回だった。井上氏は続ける。
「その日はMAZZELが初出演ということで、SNSでは、放送直前から『テレビの前で待ちます』など、ファンの方々が盛り上がっていました。『いつ出てくるのかな?』など期待のコメントが続々上がるなか、オープニングに御年92歳(出演当時)の二葉百合子さんが登場し、『岸壁の母』を歌われました。すると、歌い出してすぐに『二葉百合子さんて、すごすぎる!』とか『力強い歌声に感動した』というコメントがSNS上に溢れたんです。もちろん、二葉さんの歌唱のパワフルさに会場も非常に盛り上がったのですが、デジタル時代の今だからこそ、歌番組が特別な出会いの場になれることも実感しました」(井上氏)
推しのアーティストだけでなく、そこに新たな出会いが加わり、その感動も、多くの人と同じ時間、同じ空間で分かち合うことができるのは、音楽ライブだからこそ作れる世界。チーフ・プロデューサーの篠原伸介氏も言う。
「かつてあるアーティストの方が『サブスクの時代においては、その曲を知った時が新譜だ』ということをおっしゃっていて、なるほどと思いました。5月21日の放送回では、中村雅俊さんがJO1とのコラボで『恋人も濡れる街角』を披露されたのですが、JO1が一緒に歌うことによって、彼らのファンがこの曲や雅俊さんを知るきっかけになり、また、雅俊さんのファンの方にとってはJO1を知る扉となったのではと思います。年の差やジャンルの壁をこえた意外な組み合わせでコラボレーションをお届けできるのは、『うたコン』ならではの魅力だと思っています」(篠原氏)
■若いアーティストたちに数多ある名曲を歌い繋いでほしい
年の差をこえて、幅広い音楽を全方位の人々へ届けるという意味では、カバーも大きな要素となっている。「結婚ソング」をテーマにした6月11日の放送回では、西野カナの「トリセツ」を超ときめき□宣伝部がカバーした(※)。
「西野さんの『トリセツ』を今のアイドルの子たちが歌ったらちょっと違う響き方をするのではないかと思い、お願いしました。若いアーティストの中には、先輩方の名曲をカバーすることに対して『恐れ多い』とおっしゃる方も多いのですが、我々もそのアーティストが歌う姿をイメージし、きっと良いものになりますと言葉を尽くしてオファーします。番組での歌唱をきっかけに、自分のライブで歌ったり、カバーアルバムに収録される方もいらして、おこがましい言い方になりますが、『うたコン』が、アーティストにとっても新たな音楽との出会いの場になっているのなら、こんなに嬉しいことはありません。」(篠原氏)
そこにはもちろん、若いアーティストたちの力によって、数多ある名曲を未来へ繋げていきたいという制作陣としての思いがある。
「私は『NHKのど自慢』のチーフ・プロデューサーも務めているのですが、予選で200組が出場するなか、歌われる曲のバリエーションが年々少なくなって、固定化しているような気がするんです。名曲は数多くあるのに、です。最近、昭和歌謡がブームになっていますが、自分の推しのアーティストが歌うとやはり盛り上がります。若い人気のアーティストが名曲を歌うことで歌に新たな魅力が加わりますので、ぜひ歌い継いでいただいて、一緒に多くの名曲を次世代に残していきたいと考えています」(井上氏)
■過去のアーカイブやSNS等情報を収集し最高の1曲を届けられるよう熟考
カバーは演出陣の大きな腕の見せどころにもなっている。
「先の『結婚ソング』のテーマ回では、石井竜也さんに加山雄三さんの『君といつまでも』を、藤あや子さんに山口百恵さんの『秋桜』を歌っていただきました。石井さんは加山さんを、藤さんは百恵さんをリスペクトされていることもあり、オファーさせていただきました。そういったアーティストの方の思いは、日頃のディレクター陣の取材や、リハーサルの合間でのアーティストとの会話などから蓄積、共有されていきます。それをフルに活かせるのも『うたコン』ならではだと思います」(篠原氏)
さらに井上氏は、若いスタッフらのこんな裏話も披露してくれた。
「NHKには膨大なアーカイブスがありますから、若手の制作陣はまずそれを端からすべて見て、さらにアーティストのSNSなども常日頃からチェックして、幅広く多くの情報を得る努力を重ねています。ただ、情報が多くなると、いろいろな可能性が考えられる分、どう絞っていくのかが非常に難しくなってきます。番組演出上、最も効果的で、視聴者に響くものは何なのか。歌とアーティストの相乗効果を生み出す形で皆さんにお届けするにはどうしたらいいのか。企画会議では、ディレクターが提案した最初の案で落ち着くことはあまりなく、常にもっと探そう、もっと練ろうと熟考を繰り返して最高の1曲をお届けするべく切磋琢磨しています」(井上氏)
NHKの歌番組といえば、誰もが思い浮かべるのが『紅白歌合戦』だが、最新のヒット曲も往年の名曲も同列で紹介し、若手アーティストとベテランの歌手がひとつになってステージを作り上げる『うたコン』は、確かに『紅白』のDNAを受け継いでいる。
「もちろん、若いアーティストの旬な楽曲をいち早く紹介するのも番組の大切な使命だと考えています。一方でより幅広い世代の方々に楽しんでいただくために、往年の名曲をきっちりとお届けすることにもこだわっています。その意味では、4時間半の生放送である『紅白』を成功させるためのノウハウを、スタッフみんなが毎週、体感しながらやり続けている気がします」(篠原氏)
二葉百合子とMAZZELのエピソードにも表れている通り、近年は、SNS等デジタル戦略にも注力している。たとえば、出演直前の様子を発信した、刀剣男士formation of 江 おん すていじの動画はインプレッション数が176万回を突破するなど、SNSと音楽番組の親和性を活かした盛り上がりも創出している。会場のNHKホールの盛り上がりもコロナ禍前に戻り、パワーアップしている今、「歌の力」を見せつけるこだわりの演出にますます磨きがかかりそうだ。
※「超ときめき□宣伝部」の「□」はハートマークが正式表記
文・河上いつ子
■NHK『うたコン』HP:https://nhk.jp/utacon
■NHK『うたコン』X:https://twitter.com/nhk_utacon
■“生”ならではのライブ感で特別な出会いの場を創出
1993年から23年間放送された『NHK歌謡コンサート』の時代から「生放送」「生歌唱」「生演奏」にこだわってきたNHKの歌番組『うたコン』。昨年10月より同番組のプロデューサーを務めている井上繭子氏は、就任直後に感じたその力について、こう分析する。
「生放送・生演奏・生歌唱は、アーティストの方の意気込みも違い、最大の熱量でパフォーマンスを体感することができます。それに加え、この番組は、いろいろなジャンルの音楽が一堂に会していることも大きな魅力になっていると感じました。SNSが発達している今、皆さん、好きなアーティストの音楽を自分から取りに行っていますよね。一方で、それだけでは新たな音楽に出会う可能性が狭められてしまう気もします。この番組では、自分が観たいアーティストをきっかけに、番組を観なければ知り得なかったアーティストや音楽に出会うことができる。アーティストにとっても、視聴者にとっても出会いの場となっていることは大きな魅力だと思います」(井上氏)
それが顕著に現れたのが、5月14日、母の日にちなんで「母に贈る歌」をテーマにした放送回だった。井上氏は続ける。
「その日はMAZZELが初出演ということで、SNSでは、放送直前から『テレビの前で待ちます』など、ファンの方々が盛り上がっていました。『いつ出てくるのかな?』など期待のコメントが続々上がるなか、オープニングに御年92歳(出演当時)の二葉百合子さんが登場し、『岸壁の母』を歌われました。すると、歌い出してすぐに『二葉百合子さんて、すごすぎる!』とか『力強い歌声に感動した』というコメントがSNS上に溢れたんです。もちろん、二葉さんの歌唱のパワフルさに会場も非常に盛り上がったのですが、デジタル時代の今だからこそ、歌番組が特別な出会いの場になれることも実感しました」(井上氏)
「かつてあるアーティストの方が『サブスクの時代においては、その曲を知った時が新譜だ』ということをおっしゃっていて、なるほどと思いました。5月21日の放送回では、中村雅俊さんがJO1とのコラボで『恋人も濡れる街角』を披露されたのですが、JO1が一緒に歌うことによって、彼らのファンがこの曲や雅俊さんを知るきっかけになり、また、雅俊さんのファンの方にとってはJO1を知る扉となったのではと思います。年の差やジャンルの壁をこえた意外な組み合わせでコラボレーションをお届けできるのは、『うたコン』ならではの魅力だと思っています」(篠原氏)
■若いアーティストたちに数多ある名曲を歌い繋いでほしい
年の差をこえて、幅広い音楽を全方位の人々へ届けるという意味では、カバーも大きな要素となっている。「結婚ソング」をテーマにした6月11日の放送回では、西野カナの「トリセツ」を超ときめき□宣伝部がカバーした(※)。
「西野さんの『トリセツ』を今のアイドルの子たちが歌ったらちょっと違う響き方をするのではないかと思い、お願いしました。若いアーティストの中には、先輩方の名曲をカバーすることに対して『恐れ多い』とおっしゃる方も多いのですが、我々もそのアーティストが歌う姿をイメージし、きっと良いものになりますと言葉を尽くしてオファーします。番組での歌唱をきっかけに、自分のライブで歌ったり、カバーアルバムに収録される方もいらして、おこがましい言い方になりますが、『うたコン』が、アーティストにとっても新たな音楽との出会いの場になっているのなら、こんなに嬉しいことはありません。」(篠原氏)
そこにはもちろん、若いアーティストたちの力によって、数多ある名曲を未来へ繋げていきたいという制作陣としての思いがある。
「私は『NHKのど自慢』のチーフ・プロデューサーも務めているのですが、予選で200組が出場するなか、歌われる曲のバリエーションが年々少なくなって、固定化しているような気がするんです。名曲は数多くあるのに、です。最近、昭和歌謡がブームになっていますが、自分の推しのアーティストが歌うとやはり盛り上がります。若い人気のアーティストが名曲を歌うことで歌に新たな魅力が加わりますので、ぜひ歌い継いでいただいて、一緒に多くの名曲を次世代に残していきたいと考えています」(井上氏)
■過去のアーカイブやSNS等情報を収集し最高の1曲を届けられるよう熟考
カバーは演出陣の大きな腕の見せどころにもなっている。
「先の『結婚ソング』のテーマ回では、石井竜也さんに加山雄三さんの『君といつまでも』を、藤あや子さんに山口百恵さんの『秋桜』を歌っていただきました。石井さんは加山さんを、藤さんは百恵さんをリスペクトされていることもあり、オファーさせていただきました。そういったアーティストの方の思いは、日頃のディレクター陣の取材や、リハーサルの合間でのアーティストとの会話などから蓄積、共有されていきます。それをフルに活かせるのも『うたコン』ならではだと思います」(篠原氏)
さらに井上氏は、若いスタッフらのこんな裏話も披露してくれた。
「NHKには膨大なアーカイブスがありますから、若手の制作陣はまずそれを端からすべて見て、さらにアーティストのSNSなども常日頃からチェックして、幅広く多くの情報を得る努力を重ねています。ただ、情報が多くなると、いろいろな可能性が考えられる分、どう絞っていくのかが非常に難しくなってきます。番組演出上、最も効果的で、視聴者に響くものは何なのか。歌とアーティストの相乗効果を生み出す形で皆さんにお届けするにはどうしたらいいのか。企画会議では、ディレクターが提案した最初の案で落ち着くことはあまりなく、常にもっと探そう、もっと練ろうと熟考を繰り返して最高の1曲をお届けするべく切磋琢磨しています」(井上氏)
NHKの歌番組といえば、誰もが思い浮かべるのが『紅白歌合戦』だが、最新のヒット曲も往年の名曲も同列で紹介し、若手アーティストとベテランの歌手がひとつになってステージを作り上げる『うたコン』は、確かに『紅白』のDNAを受け継いでいる。
「もちろん、若いアーティストの旬な楽曲をいち早く紹介するのも番組の大切な使命だと考えています。一方でより幅広い世代の方々に楽しんでいただくために、往年の名曲をきっちりとお届けすることにもこだわっています。その意味では、4時間半の生放送である『紅白』を成功させるためのノウハウを、スタッフみんなが毎週、体感しながらやり続けている気がします」(篠原氏)
二葉百合子とMAZZELのエピソードにも表れている通り、近年は、SNS等デジタル戦略にも注力している。たとえば、出演直前の様子を発信した、刀剣男士formation of 江 おん すていじの動画はインプレッション数が176万回を突破するなど、SNSと音楽番組の親和性を活かした盛り上がりも創出している。会場のNHKホールの盛り上がりもコロナ禍前に戻り、パワーアップしている今、「歌の力」を見せつけるこだわりの演出にますます磨きがかかりそうだ。
※「超ときめき□宣伝部」の「□」はハートマークが正式表記
文・河上いつ子
■NHK『うたコン』HP:https://nhk.jp/utacon
■NHK『うたコン』X:https://twitter.com/nhk_utacon
2024/06/26




