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藤井道人、アニメと実写の境界線を作らずにトライ 『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』

 今月23日より劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が3週間限定・30館にて公開。動画配信サービス「Netflix」で配信されているアニメシリーズの総集編ともいえる作品だ。監督は日本アカデミー賞6部門受賞の『新聞記者』や『余命10年』等、実写映画で活躍する藤井道人が務めている(シリーズを手掛けた神山健治&荒牧伸志は総監督としてクレジットされている)。「境界線を作らずにトライして、良かった」と語る藤井監督に真意を語ってもらった。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』監督を務めた藤井道人(C)後藤武浩

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』監督を務めた藤井道人(C)後藤武浩

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■ヴィジョンを明確に提示する姿勢に感銘

――2020年4月より配信されたシーズン1の総集編『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』に続いて、22年5月より配信されたシーズン2の総集編『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』を手掛けられたわけですが、そもそも『持続可能戦争』をやるきっかけはなんだったのですか?

【藤井】とある映画祭でProduction I.Gのプロデューサーと面識があって、ある日、「攻殻機動隊」の劇場版のディレクションをしてくれませんか?と連絡をもらったんです。最初、別の“藤井さん”と間違えたのかな?と思いました(笑)。じつは、『攻殻機動隊』のタイトルは知っていましたが作品を観たことがなくて。それで初めて作品を観たらすごく面白くて。自分自身、もっと突き抜けたいし、もっといろんなことに挑戦したいと思っていた時でもあったので、神山さん・荒牧さんと面談した時に「失敗するかもしれないけどやってみたい」とお伝えして、『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』の監督をやらせていただきました。やってみたらすごく面白くて、シーズン2の劇場版も自分にやらせてください、とお願いしていました。

ep24=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

ep24=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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――『攻殻機動隊』を観たことがなかった藤井さんに総集編のディレクションを任せようという発想自体、斬新ですね。

【藤井】そうですよね。僕も最初は神山さんと荒牧さんがやった方がいいのでは?と思いました。ただ、おふたりがおっしゃっていたのは、「攻殻機動隊」シリーズに長く関わりすぎて客観視できなくなってきている、と。これまで触れてこなかった人たちにも楽しんでもらえるような「攻殻機動隊」の世界を作ってもらえませんか?というシンプルなオーダーでした。それなら大丈夫かな、と思いました。

――「攻殻機動隊」シリーズは、1989年に「ヤングマガジン増刊 海賊版」(講談社)に士郎正宗氏が原作漫画を発表して以来、押井守監督による『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)をはじめ、アニメーション、ハリウッド実写映画などさまざまな作品群を展開してきました。初めて「攻殻機動隊」の世界に触れて、「面白い」と思ったのはどんなところでしたか?

【藤井】シリーズの全作品を深掘りしたわけではないのですが、原作漫画は日本のサイバーパンクの代表作で、その未来を想像する力が強烈でした。『攻殻機動隊 SAC_2045』も、時代設定をシンギュラリティが起こる(急速な科学技術の進化・変化により人間の生活が決定的に変化する)とされる2045年にして、その時、日本は、世界はこうなっているんじゃないか、というヴィジョンを明確に提示する姿勢に感銘を受けました。その中で、普遍的な人間たちのドラマも描いている。そして、草薙素子というある種のヒロインを使って、のびのびと自由に“遊んでいる”。僕が最初に見た「攻殻機動隊」は『攻殻機動隊 SAC_2045』だったので、この作品のような世界観を作り上げた皆さんに尊敬の念を込めて、面白い、と思いました。

■『攻殻機動隊 SAC_2045』とは?

ep23=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

ep23=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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 「攻殻機動隊」は、人々の意思が“電脳”につながれた近未来において、電脳犯罪に立ち向かう全身義体のサイボーグ・草薙素子率いる攻性の組織、公安9課の活躍を描いている。『攻殻機動隊 SAC_2045』の舞台は、2045年。全ての国家を震撼させる経済災害とAIの爆発的な進化により、世界は計画的かつ持続可能な戦争へと突入した。電脳社会に突如出現した新人類“ポスト・ヒューマン”による電脳犯罪を阻止すべく、草薙素子率いる公安9課は、先の大戦で廃墟と化した東京へと向かう。シマムラタカシ率いる難民集団「N」により奪取された原子力潜水艦による核大戦の危機が迫る中、公安9課、アメリカ、ポスト・ヒューマンによる三つ巴の戦闘が激化していく。

■劇場版では誰が観ても理解できるようなラストに

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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――オリジナル作品を作る時と、ほかの人たちの手ですでに出来上がっている作品を再構築する時と、どこがどう違いましたか?

【藤井】自分のオリジナル作品の時は、明確に伝えたいことがあって、それがないと企画が通らないということもあるのですが、その伝えたいことを観客に届けるために、現場で生じる想定外の出来事にも柔軟に対応しながら、まるで恋文を送るような気持ちで作っているんです。

一方、『攻殻機動隊 SAC_2045』での僕の役目は、シーズン1の12話とシーズン2の12話、あわせて24話を前編120分、後編120分にするということ。すでにある作品の半分以上を捨てなければならないけれど、神山・荒牧両監督がこの作品に込めた思いが損なわれないように、かなりロジカルに構成を考えていかなければなりませんでした。

 シーズン1はシーズン2につながるように起承転結にまとめやすかったのですが、シーズン2は全12話をかけて、シーズン1の伏線を全部回収しながら、物語はどんどん先に進んで、最後にバーンと観客にある問いかけを突きつけて終わる。「シーズン2もやりたい」と自分で言っておきながら、その時はまだシーズン2を作っている最中で、まさかあんな終わり方をするなんて思わなかったから(笑)。これをたった120分で伝えるの?マジで?と思いましたね。

ep23=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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――正直、ラストについてはよくわかりませんでした。

【藤井】僕もです(笑)。演出・編集を一緒にやった古川達馬くんと、「どういうこと?」「こういうことなんじゃないか?」といろいろ考察したけど、神山・荒牧両監督とディスカッションする中で、「そうだったんですか?」と、見当違いに気づくこともたくさんありました。

 『攻殻機動隊 SAC_2045』は、突如として現れた驚異的な知能と身体能力を持つ「ポスト・ヒューマン」の脅威を素子たちがなんとかしてくれて終わるのかな、と思っていたら、そんな単純な話ではなかった。サブタイトルの「最後の人間」にもつながってくるんですけれども、神山・荒牧両監督は2045年になる頃、シンギュラリティが起こったり、AI(人工知能)の存在感が増したりしている世界で人間はどうなっているのか?自分がいる世界を選択できるようになっていたら、あなたはどういう選択をするのか?といった大きな問いかけをしているんですよね。

 神山・荒牧両監督はラストをあえて挑発的なものにしたのかもしれないけれど、劇場版では誰が観ても理解できるようなラストにしたいと思いました。映画が終わって、明かりが付く瞬間にザワザワッとなるのは、監督としては本意ではないと言うか…。「つまりこういうことだよね?」と観客の心に何かしら届くものにしたい。賛否を決められる杭は打っておきたいと思っていました。新たに作り直してもらったシーンもあり、観客に持ち帰ってもらえるものがある映画になっているのではないかと思っています。

■僕の映画人生の第2章が始まった

ep23=『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』11月23日より3週間限定、全国30館にて劇場公開(C)士郎正宗・Production I.G/ 講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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――アニメシリーズの総集編の監督を経験してよかったと思うことは?

【藤井】アニメと実写を切り離して考える必要はなくて、結局は、クリエイターが作りたいもの、生み出したいというものがあって、その手段としてアニメーションがあり、実写があるということだと思いました。一方で、アニメだからできることもたくさんあると思いました。『攻殻機動隊 SAC_2045』にある無国籍感を実写でやるのは難しいものがあるけれど、アニメーションにはさまざまな世界観を表現する自由さがありますね。カメラワークだったり、背景美術のディテールだったり、実写映画づくりに持ち帰れるものもたくさんありました。境界線を作らずにトライして、良かったと思います。

――今後の抱負を聞かせてください。

【藤井】僕にとってターニングポイントになった作品は、ちょうど30歳の誕生日にクランクインして、その10日後に撮影中止を余儀なくされて、でも1年後に再撮影することができて、公開にこぎつけた『青の帰り道』(2018年)です。映画づくりって簡単にできるものじゃないんだな、企画から完成まで何事もなく、観客に届けられるのは奇跡みたいなものなんだな、と身に染みました。それから映画をつくるからには妥協しないようにしよう、これが遺作になってもいい、という覚悟で取り組むようになったんです。

 劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045』も同じ気持ちで向き合いました。来年5月に公開予定の映画『青春18×2 君へと続く道』では、夢だった海外との合作に初めて挑戦し、言語や文化を超えて映画に向き合うことができました。新しい挑戦が続いて、僕の映画人生の第2章が始まっているような気がしています。

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  1. 1. 藤井道人、アニメと実写の境界線を作らずにトライ 『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』
  2. 2. 『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』本編冒頭12分映像をWEBで公開

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