“燃える闘魂・アントニオ猪木”。「馬鹿になれ。とことん馬鹿になれ」という名言を残したように、とにかく熱く、破天荒な人生を送り、2022年10月1日、惜しまれつつもこの世を去った。そんな猪木さんが創立した新日本プロレス50周年を記念して製作されたドキュメンタリー映画『アントニオ猪木をさがして』が全国公開を迎える。現在の新日本プロレスを引っ張り、本作にも出演しているプロレスラーのオカダ・カズチカが、猪木さんへの思いや、プロレス界の未来について語った。
■新日本の道場にある“猪木パネル”に挨拶する理由
――オカダさんにとって、アントニオ猪木さんはどんな存在ですか?
オカダ・カズチカ:いろいろな思いがありますが、新日本プロレス(以下、新日本)を旗揚げされた方で、大先輩でもあり、超えたい相手でもあり…。新日本のOBの方々に会って話を聞くと、やっぱり猪木さんがいたからこそ、プロレスラーになった方もたくさんいますし、“神様”なのかなと思います。
――道場に飾ってある猪木さんのパネルに挨拶していたのも、そんな思いからだったからなのですか?
オカダ・カズチカ:それはどうなんでしょうね(笑)。僕は新日本でデビューしたのではなく、ほかの団体から移籍してきて、当時すでに猪木さんは新日本から離れていましたし、崇めるというよりは、「お願いします」、「ありがとうございます」みたいな感じですかね。
――劇中では、道場のパネルが外され、またパネルが戻るいきさつが描かれていますね。
オカダ・カズチカ:先日道場に行って、外されていたパネルがまた飾られているのを見て、ビシッとしないとダメだなと感じました。猪木さんに見られていると思うと、なんかヘラヘラできないなというのはあります。
――映画のなかで、「もしオカダさんと猪木さんが戦ったら」というお話がありましたが。
オカダ・カズチカ:最初にその話をされたときは、全然想像できなかったんです。でもちょっと想像してみたら、どんどんいろいろなことがイメージできて、めちゃめちゃ自分のなかで盛り上がったんです(笑)。出来上がった映画を観ても、あのインタビューのときの僕の顔、すごく楽しそうでしたよね。あのシーンが一番好きです。
■アントニオ猪木の魅力は“表情”
――現役のプロレスラーとして、猪木さんのすごいところってどんなところですか?
オカダ・カズチカ:表情ですかね。正直、受け身や細かいテクニックなどは、今の方がすごいと思うんです。でも、ロープに振られるときの猪木さんの顔とか、本当に惹きつけられる。あとは攻めているときだけでなく、やられているときの顔もいい。晩年に対戦したビッグバン・ベイダーとの試合でも、すごくつらそうな顔をしているのですが、それがたまらないんですよね。お客さんを虜にするという意味で、誰も真似できない気がします。
――どうやったらあんな表情が出るのですかね?
オカダ・カズチカ:やっぱりブラジルに行った経験や、ジャイアント馬場さんと比べられて悔しい思いをした…など、ハングリー精神が、猪木さんを作り上げているのかなと思います。
――猪木さんは“燃える闘魂”と言われていましたが、令和の時代にも“闘魂”は必要な要素でしょうか?
オカダ・カズチカ:そうですね。そのソウルは猪木さんから代々、新日本のプロレスラーは受け継いできたと思います。ただ、“燃える闘魂”は猪木さんの専売特許、みんな自分の色に変えて、自分なりの“闘魂”にしていますよね。僕だったら、レインメーカーというものに変えて出していると思います。みんながみんな猪木さんの真似をしてもおもしろくないし、みんながアントニオ猪木になってもしょうがない。自分を持ったプロレスラーがたくさんいるので、また新しい新日本プロレスの楽しさがあると思います。
■東京ドームを超満員に「それができたらプロレス人気が復興したといえると思う」
――オカダさんは子どものころ、どんなプロレスラーに憧れていたのですか?
オカダ・カズチカ:具体的な存在はいないんですよね。もともとはプロレスゲームをきっかけに好きになったので。そこから夜中にやっているプロレス中継を観るようになったのですが、ジュニアヘビー級の空中殺法のようなスピード感のある試合に憧れていました。こんなこと言っていいのかわからないのですが、猪木さんや藤波(辰爾)さんの全盛期のスタイルのプロレスを最初に観ていたら、おもしろいと思わなかったかもしれません(笑)。
――メキシコに渡るなど、数々の経験を積んできていますが、プロレスラーとしてターニングポイントになった出来事は何ですか?
オカダ・カズチカ:やっぱり新日本に入ったことじゃないですかね。僕はメキシコにいたので、ルチャリブレ(メキシカンスタイルのプロレス)になじみがあったのですが、メキシコで学んだことをリセットして、ゼロから吸収したことが良かった。天山(広吉)さんや永田(裕志)さんなど、猪木さんに近かった世代の方たちのプロレスを観て戦って、リング上で戦うときの“気持ち”を学んだような気がします。
――オカダさんはとても格好いいですが、若い人たちにプロレスの魅力を知ってもらうためには、そういう部分も大切ですよね。
オカダ・カズチカ:そうですね。僕が新日本に入ったとき、スタイリッシュなプロレスラーが少なかったんですよね。これじゃあ子どもたちは憧れないだろうなと。映画に登場する猪木さんは、スクリーンに映っただけでも格好いいですよね。それはとても重要だと思います。今は格好いいプロレスラーが増えていますが、そこは意識してやってきたし、これからも大事にしていきたいです。
――オカダさんは現在35歳ですが、もっともっとプロレス界を盛り上げていこうという思いは強いですか?
オカダ・カズチカ:10年ぐらい前に初めてチャンピオンになってから、だんだんそういう自覚は出てきました。特に、30代って一番レスラーとして脂が乗っている時期だと思うので、僕ら世代で東京ドームを超満員にしたいです。
――やはり東京ドームを超満員したという思いは大きいですか?
オカダ・カズチカ:やっぱりそこまでいかないと、プロレスが盛り上がってきたと思ってもらえない。どの世代も自分たちが一番すごいという思いでプロレスをやっているだろうし、僕らもそういう思いです。でも、猪木さんの時代は、東京ドームを超満員にできた。その意味では明確に負けている。今の時代でもそれができて初めてプロレス人気が復興したといえるんじゃないかと思うので、常に目指してリングに立ちたいです。
――超満員の東京ドームのメインイベントでオカダさんが戦うなら誰と?
オカダ・カズチカ:どうなんでしょうね。その頃には棚橋さんは引退していると思うし(笑)。でも誰でもいいです。別に僕がメインイベントじゃなくてもいいですし。まあ、僕がメインイベントじゃなければ、東京ドーム超満員は不可能だと思いますけど(笑)。
――非常に厳しい世界ですが、常に戦いに挑むモチベーションは?
オカダ・カズチカ:お客さんが楽しんで帰っていく姿を見るのが一番のモチベーションです。でも実際、プロレスって勝っても負けてもすぐ翌日試合があったりするんですよ。だからどんどん切り替えないとやっていけないんですよね。
――リフレッシュするためにしていることは?
オカダ・カズチカ:ゲームと釣りですね。
――お酒は飲まれないのですか?
オカダ・カズチカ:誘われれば行きますが、飲みに行くなら、家でゲームしている方が気分転換になりますね。今っぽいですね(笑)。
■いろいろな物語があるのがプロレス
――プロレスにはさまざまな団体がありますが、オカダさんにとって理想の団体は?
オカダ・カズチカ:うーん。すごくたくさん給料をくれるところでしょうか(笑)。
――プロレスラーって実際、何歳ぐらいまで現役でいられるものなのでしょうか?
オカダ・カズチカ:シングルマッチでバリバリやるなら、やっぱり40前後ぐらいまでがベストなのかなと。リングに立つだけなら長くできると思います。たとえばタッグマッチで、若い選手と組んでポイントで戦うこともできますし。僕は長州力さんとタッグを組んでいましたが、ほとんど僕が出ていましたし(笑)。ただそこもプロレスのおもしろさなんですよね。必殺技が決まらなくても、急所攻撃して丸め込んでも、スリーカウントで勝ちですからね。試合結果よりもそこに至るまでの流れが大事な場面もある。いろいろな物語があるのがプロレス。新日本も51年間続いているわけですからね。
――そんな新日本の歴史が今回の映画になっているんですもんね。
オカダ・カズチカ:はい。僕はこの作品を観て元気をもらえました。猪木さんの発するメッセージって、本当にパワーになるんです。プロレスを好きな人は同じ気持ちになると思うし、知らない人には、この映画を通して、プロレスに興味を持っていただけたらうれしいですね。
取材・文/磯部正和
写真/MitsuruYamazaki
■新日本の道場にある“猪木パネル”に挨拶する理由
――オカダさんにとって、アントニオ猪木さんはどんな存在ですか?
オカダ・カズチカ:いろいろな思いがありますが、新日本プロレス(以下、新日本)を旗揚げされた方で、大先輩でもあり、超えたい相手でもあり…。新日本のOBの方々に会って話を聞くと、やっぱり猪木さんがいたからこそ、プロレスラーになった方もたくさんいますし、“神様”なのかなと思います。
――道場に飾ってある猪木さんのパネルに挨拶していたのも、そんな思いからだったからなのですか?
オカダ・カズチカ:それはどうなんでしょうね(笑)。僕は新日本でデビューしたのではなく、ほかの団体から移籍してきて、当時すでに猪木さんは新日本から離れていましたし、崇めるというよりは、「お願いします」、「ありがとうございます」みたいな感じですかね。
――劇中では、道場のパネルが外され、またパネルが戻るいきさつが描かれていますね。
オカダ・カズチカ:先日道場に行って、外されていたパネルがまた飾られているのを見て、ビシッとしないとダメだなと感じました。猪木さんに見られていると思うと、なんかヘラヘラできないなというのはあります。
――映画のなかで、「もしオカダさんと猪木さんが戦ったら」というお話がありましたが。
オカダ・カズチカ:最初にその話をされたときは、全然想像できなかったんです。でもちょっと想像してみたら、どんどんいろいろなことがイメージできて、めちゃめちゃ自分のなかで盛り上がったんです(笑)。出来上がった映画を観ても、あのインタビューのときの僕の顔、すごく楽しそうでしたよね。あのシーンが一番好きです。
■アントニオ猪木の魅力は“表情”
――現役のプロレスラーとして、猪木さんのすごいところってどんなところですか?
オカダ・カズチカ:表情ですかね。正直、受け身や細かいテクニックなどは、今の方がすごいと思うんです。でも、ロープに振られるときの猪木さんの顔とか、本当に惹きつけられる。あとは攻めているときだけでなく、やられているときの顔もいい。晩年に対戦したビッグバン・ベイダーとの試合でも、すごくつらそうな顔をしているのですが、それがたまらないんですよね。お客さんを虜にするという意味で、誰も真似できない気がします。
――どうやったらあんな表情が出るのですかね?
オカダ・カズチカ:やっぱりブラジルに行った経験や、ジャイアント馬場さんと比べられて悔しい思いをした…など、ハングリー精神が、猪木さんを作り上げているのかなと思います。
――猪木さんは“燃える闘魂”と言われていましたが、令和の時代にも“闘魂”は必要な要素でしょうか?
オカダ・カズチカ:そうですね。そのソウルは猪木さんから代々、新日本のプロレスラーは受け継いできたと思います。ただ、“燃える闘魂”は猪木さんの専売特許、みんな自分の色に変えて、自分なりの“闘魂”にしていますよね。僕だったら、レインメーカーというものに変えて出していると思います。みんながみんな猪木さんの真似をしてもおもしろくないし、みんながアントニオ猪木になってもしょうがない。自分を持ったプロレスラーがたくさんいるので、また新しい新日本プロレスの楽しさがあると思います。
■東京ドームを超満員に「それができたらプロレス人気が復興したといえると思う」
――オカダさんは子どものころ、どんなプロレスラーに憧れていたのですか?
オカダ・カズチカ:具体的な存在はいないんですよね。もともとはプロレスゲームをきっかけに好きになったので。そこから夜中にやっているプロレス中継を観るようになったのですが、ジュニアヘビー級の空中殺法のようなスピード感のある試合に憧れていました。こんなこと言っていいのかわからないのですが、猪木さんや藤波(辰爾)さんの全盛期のスタイルのプロレスを最初に観ていたら、おもしろいと思わなかったかもしれません(笑)。
――メキシコに渡るなど、数々の経験を積んできていますが、プロレスラーとしてターニングポイントになった出来事は何ですか?
オカダ・カズチカ:やっぱり新日本に入ったことじゃないですかね。僕はメキシコにいたので、ルチャリブレ(メキシカンスタイルのプロレス)になじみがあったのですが、メキシコで学んだことをリセットして、ゼロから吸収したことが良かった。天山(広吉)さんや永田(裕志)さんなど、猪木さんに近かった世代の方たちのプロレスを観て戦って、リング上で戦うときの“気持ち”を学んだような気がします。
――オカダさんはとても格好いいですが、若い人たちにプロレスの魅力を知ってもらうためには、そういう部分も大切ですよね。
オカダ・カズチカ:そうですね。僕が新日本に入ったとき、スタイリッシュなプロレスラーが少なかったんですよね。これじゃあ子どもたちは憧れないだろうなと。映画に登場する猪木さんは、スクリーンに映っただけでも格好いいですよね。それはとても重要だと思います。今は格好いいプロレスラーが増えていますが、そこは意識してやってきたし、これからも大事にしていきたいです。
――オカダさんは現在35歳ですが、もっともっとプロレス界を盛り上げていこうという思いは強いですか?
オカダ・カズチカ:10年ぐらい前に初めてチャンピオンになってから、だんだんそういう自覚は出てきました。特に、30代って一番レスラーとして脂が乗っている時期だと思うので、僕ら世代で東京ドームを超満員にしたいです。
――やはり東京ドームを超満員したという思いは大きいですか?
オカダ・カズチカ:やっぱりそこまでいかないと、プロレスが盛り上がってきたと思ってもらえない。どの世代も自分たちが一番すごいという思いでプロレスをやっているだろうし、僕らもそういう思いです。でも、猪木さんの時代は、東京ドームを超満員にできた。その意味では明確に負けている。今の時代でもそれができて初めてプロレス人気が復興したといえるんじゃないかと思うので、常に目指してリングに立ちたいです。
――超満員の東京ドームのメインイベントでオカダさんが戦うなら誰と?
オカダ・カズチカ:どうなんでしょうね。その頃には棚橋さんは引退していると思うし(笑)。でも誰でもいいです。別に僕がメインイベントじゃなくてもいいですし。まあ、僕がメインイベントじゃなければ、東京ドーム超満員は不可能だと思いますけど(笑)。
――非常に厳しい世界ですが、常に戦いに挑むモチベーションは?
オカダ・カズチカ:お客さんが楽しんで帰っていく姿を見るのが一番のモチベーションです。でも実際、プロレスって勝っても負けてもすぐ翌日試合があったりするんですよ。だからどんどん切り替えないとやっていけないんですよね。
――リフレッシュするためにしていることは?
オカダ・カズチカ:ゲームと釣りですね。
――お酒は飲まれないのですか?
オカダ・カズチカ:誘われれば行きますが、飲みに行くなら、家でゲームしている方が気分転換になりますね。今っぽいですね(笑)。
■いろいろな物語があるのがプロレス
――プロレスにはさまざまな団体がありますが、オカダさんにとって理想の団体は?
オカダ・カズチカ:うーん。すごくたくさん給料をくれるところでしょうか(笑)。
――プロレスラーって実際、何歳ぐらいまで現役でいられるものなのでしょうか?
オカダ・カズチカ:シングルマッチでバリバリやるなら、やっぱり40前後ぐらいまでがベストなのかなと。リングに立つだけなら長くできると思います。たとえばタッグマッチで、若い選手と組んでポイントで戦うこともできますし。僕は長州力さんとタッグを組んでいましたが、ほとんど僕が出ていましたし(笑)。ただそこもプロレスのおもしろさなんですよね。必殺技が決まらなくても、急所攻撃して丸め込んでも、スリーカウントで勝ちですからね。試合結果よりもそこに至るまでの流れが大事な場面もある。いろいろな物語があるのがプロレス。新日本も51年間続いているわけですからね。
――そんな新日本の歴史が今回の映画になっているんですもんね。
オカダ・カズチカ:はい。僕はこの作品を観て元気をもらえました。猪木さんの発するメッセージって、本当にパワーになるんです。プロレスを好きな人は同じ気持ちになると思うし、知らない人には、この映画を通して、プロレスに興味を持っていただけたらうれしいですね。
取材・文/磯部正和
写真/MitsuruYamazaki
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2023/10/05