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森田剛「夢は持たない」池松壮亮も共感 “エンタメ”への向き合い方を語る

 ミュージシャン・南博の回想録『白鍵と黒鍵の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編』を原作とし、『素敵なダイナマイトスキャンダル』や『南瓜とマヨネーズ』などの冨永昌敬監督が大胆にアレンジした映画『白鍵と黒鍵の間に』が10月6日に公開を迎える。本作で1人2役のピアニストを演じた池松壮亮(33)と、彼に付きまとう謎の男“あいつ”を演じた森田剛(44)が、この作品を通じて感じたことや、エンターテインメントとの向き合い方などを語った。

(左から)池松壮亮、森田剛 (C)ORICON NewS inc.

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■劇中歌の演奏を半年でマスター「ピアノに触れることが役への近道でもあった」

――初共演となりましたが、お互い俳優としてどんな印象をお持ちでしたか?

池松壮亮:とても魅力的で力強く、様々な要素を持った素晴らしい俳優さんだなという印象を持っていました。この作品、この役の間柄でご一緒できることがとても楽しみでした。最近では長久允監督の『DEATH DAYS』を劇場で拝見していました。

森田剛:僕も大好きな俳優さんです。身を削っているような、ハラハラするような感じもする方だなと。

――池松さんはピアニストを1人2役で、森田さんは池松さんに付きまとう謎の男を演じましたが、どんなアプローチ方法を?

池松壮亮:昭和末期を舞台に、ジャズピアニストを志しながらもそれぞれに人生の間で抜け出そうとする一人の男を2役で演じました。彼らが抱える葛藤は夢と現実、理想と現実の狭間、人生の営みの中で誰しもが感じたことのある要素でした。それは時代を超越するもので、普遍的なものだったので、特別困るようなことはありませんでした。ただ今回はひとりの人生を時系列で描くのではなく、一晩に人生の過去、現在、未来を共存させています。そのなかでどんな人物像を浮かび上がらせるのかというよりも…人生というそれそのものが浮かび上がってくるようなことを目指してみたいと思っていました。

森田剛:僕は冨永監督と池松くんがいたら間違いないなと思っていたので、自分のセリフをどれだけ身体にしみこませるか……ということに集中しました。

――池松さんは劇中の「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をご自身で演奏したと聞きました。

池松壮亮:この作品でこの役を引き受けるうえで当然のことでした。でもどこまで上達できるのか、はたして一曲弾けるようになるものなのか、それは未知でした。正直言うと不安でしたが、「トライさせてください」と言いました。言ったはいいもののあまりにも難しくて苦戦しました。その伸び悩んだ日々も含めて、ピアノに向かうすべての時間がこの役へ近づくまでのプロセスとなってくれました。

森田剛:池松くんがピアノを弾いている姿を近くで見て、尊敬でしたね。普通はなかなかできないですよ。本当に美しいものを観ているなと感じました。

■森田さんとの掛け合いはおもしろくてソワソワした(池松)

池松壮亮(C)ORICON NewS inc.

池松壮亮(C)ORICON NewS inc.

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――おふたりとも共演を楽しみにしていたようですが、実際ご一緒していかがでしたか?

森田剛:とても安心感がありました。自分が演じた役が、すごく寂しくて悲しい男だったので、その隙間を埋めてくれるような安心感でした。とにかく楽しかったです。

池松壮亮:毎シーン本当におもしろくてワクワクしていました。限られたスタートからカットまでの時間、どこまでも繊細に大胆に呼吸を合わせていけます。物凄く高度な楽しいセッションができていました。このファンタジックな世界の中で、誰よりも音楽を求めているヤクザを、物悲しく、ピュアに、真剣に、ファニーに、チャーミングに演じられていて、その塩梅に、森田さんの俳優としての力を感じていました。

――冨永監督の世界観はいかがでしたか?

池松壮亮:改めて冨永さんはこの国、この時代において最も稀有で才能あふれる監督の一人だと思います。撮影中たくさんのインスピレーションをもらいました。独特な語り口と誰にも真似できない技法において、冨永さんは素晴らしい作家であり、映画監督であり、芸術家だと感じます。その飽くなき探究心と挑戦の中で、この世界を語るうえで真実を見つける方法は常にあることを証明してくれました。簡単に説明できないことが冨永さんの映画の最大の魅力で、宣伝するのが大変なことが冨永さんの映画の最も嫌になるところです(笑)。

森田剛:ラジカセで殴るシーンがあるんです。それだけ聞くと暴力的なのですが、そこで終わらないんですよ。人間の弱いところや滑稽な部分をチャーミングに描いているところが、監督ならではだと思いました。この作品のお話をいただいたとき、冨永監督はキャラクターの説明を愛情持ってしてくださいました。とても信頼できる方だなという印象を持ちましたね。

■時間は限られている。やりたくないことはやりたくない(森田)

森田剛 (C)ORICON NewS inc.

森田剛 (C)ORICON NewS inc.

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――おふたりとも長くエンターテインメントの世界で活躍されていますが、作品を重ねるごとに向き合い方は変わってきましたか?

池松壮亮:一貫しているとも言えるし、変わってきているとも思います。特にやはりコロナ禍を経て変わったなと思います。何を届けていくべきなのか、何に取り組んでいくべきなのか、どこに変化を促していくべきなのか、そして自分自身が変わっていけるのか、より明確に考えるようになったと思います。社会のこと、世界のこと、映画館のこと、ミニシアターのこと、映画界という場所の環境のこと、配信のこと、AIのこと、芸術の価値について、自分たちの存在について、この仕事を通して様々なことを考えます。

森田剛:僕自身は、あまり“エンタメ”という言葉はピンときていないんですよね。何を観るかというのは、観る側の自由ですし、演じる側も、何を作りたいか、何を表現したいかというのも自由。気持ちは年々シンプルになっている気がします。

――シンプルというのは自分のやりたいことに忠実にという意味ですか?

森田剛:そうですね。僕はいま44歳ですが、「時間は限られている」と感じることって多いんです。だから、会いたい人には会いたいですし、やりたくないことはやりたくないんですよね。非常に正直で、シンプルな考えになってきています。

――森田さんが今、欲しているものはありますか?

森田剛:特にないんですよね。

――物語は、“夢を持つこと”ということが重層的に描かれています。おふたりにとって夢を持つことの大切さは?

池松壮亮:先日、森田さんが「夢は持たない」と話していたんです。それがすごくおもしろくて。誰もがこの世界で「夢を持ちなさい」と言われて育ってきたと思うんです。そして戦後からバブル期、平成に至るまで、時代と夢とのマッチングがバッチリだったと思います。でも今、夢を持つことの良さを淀みなくみんなが信じられるかというとそうではないと思います。この時代に夢を持つことが絶対的に必要なことではないとすら思います。むしろ夢を持つことの方が難しいのではないかとも思います。南博は、あれだけ奈落の底に落とされても、ピアノを弾く…人生を狂わされても打ち込めることがあるというのは心底幸せなことだと思います。夢にたどりつくどころか永遠に間にいます。その間を音楽で埋めています。夢を持つことの大切さではなく、夢や理想を追い求める過程の中にこそ、この主人公の、もしかしたら夢よりも大切な人生そのものがあるのかもしれません。

――おふたりとも、人に夢を与えるお仕事だと思うのですが、森田さんは夢を持たなかったんですね。

森田剛:もちろん、夢を持つことは良いと思いますし、自分が間接的にそれをする仕事というのも理解しています。でも普段の自分が、そんなことまったく考えていないんですよね。自分や自分の周りのことだけで手いっぱいというか。だからこそ、いま自分がこの年になると、「本当に自分が好きなもの、やりたいことって何だろう」と、自問自答しています。そんなメッセージも映画から感じてもらえたらうれしいですね。

取材・文/磯部正和
写真/MitsuruYamazaki

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