今、「空き家問題」の新たな解決策として注目を集めるサービスがある。“負動産”となっている空き家を原則無料で「付加価値を生み出す物件」へと再生。所有者は「リノベした物件と家賃収入を得ることができる」という驚きの空き家活用ビジネスだ。これまでに全国から6300件以上の問い合わせが寄せられ、施工実績は約200件。個人だけでなく自治体からのオファーも相次いでいるという。新ビジネス「アキサポ」の実態に迫った。
■所有者にも貸借人にも地域にもメリット、「空き家ビジネス」に問い合わせ6300件
「売却もせず賃貸に出すのでもなく、誰も居住することなく放置しておくと、建物の傷みは早くなり、資産価値はどんどん下がります。しかも空き家でも固定資産税は毎年払う必要があるため、何もせずに放置しておくことは経済的に考えてもマイナスしかありません。まさに“負動産”です」
空き家の放置はデメリットしかない、そう話すのは、2016年から空き家活用サービス“アキサポ”事業を展開する株式会社ジェクトワンの大河幹男代表取締役だ。
そもそも空き家は「景観の悪化」「治安の悪化」「倒壊や火災の危険」などのリスクから、所有者には適切な管理が求められてきた。ところが、建物を解体してサラ地にすると軽減措置を受けることができず、結果として固定資産税の総額が空き家の時より増えてしまうことになるので放置している場合も多い。
総務省の「2018年住宅・土地統計調査」のデータによれば、全国の空き家は約849万戸もあり、空き家率は13.6%にも及んでいる。一説には2030年までにはさらに増加し、空き家率は30%超えると予想されているほど深刻だ。周辺住民の住環境を維持するためにも「空き家対策」は早急に取り組むべき社会課題となっている。
そんな「空き家の増加」を何とかしようと立ち上げられたのが、空き家活用サービス「アキサポ」だ。
「“アキサポ”は所有者さまの自己負担ゼロで「空き家リノベ」できるだけでなく、貸借人、地域それぞれ三方よしのサービスです。都合が良すぎますか? でも詐欺じゃないんですよ(笑)。ご心配な方には収支の内訳をきちんとご説明して、ご納得いただいています」
2年前、テレビの情報番組で取り上げられたことをきっかけに問い合わせが激増。これまでに6300件以上の相談が寄せられ、施工実績は200件を超えた。また、昨年4月からは新潟県三条市の要請を受け、アキサポ社員を「空き家対策人材」として派遣している。
■「空き家」に新たな選択肢、“活用する”という発想の転換がビジネスに
アキサポの事業は大手不動産会社でも前例がないビジネスだ。
「これまで空き家ビジネスとしては、売却するか解体する、あとは管理をするくらいしかありませんでした。そこでアキサポでは、新たに“活用”という道を模索しました」
所有者と『定期借家契約(※1)』を結び、空き家を借り上げてリノベーションする。新しくなった元・空き家を転貸し賃料を得る。空き家の活用だ。
「工事費用は原則、当社で負担します(※2)。所有者さまには借り上げ期間中、賃料をお支払いし、契約終了後は物件をそのまま返却。つまり、費用をかけずに資産価値が高くなった建物が戻ってくるんです。もし空き家を所有しているのでしたら、このサービスを活用しない手はないと考えています。また、借主さまは、当社を通じて市場に出回りにくい空き家を発掘でき、新たな物件との出会いがあります」
所有者にデメリットがあるとすれば、定期借家契約期間の解約は原則できないということだろう。これはアキサポ側が初期投資したリノベーション工事代金を回収する期間が必要なためでもある。アキサポ側は転貸で得た賃料収入からリノベ費用・所有者への賃料・利益をまかなう。
ここまでが所有者、貸借人のメリットだ。三方よしの最後、「地域」メリットはリノベーション内容にある。アキサポはその地域になかった新しい価値を創出する観点から空き家のリノベーションを展開している。
「もちろん、住宅としてニーズがあるエリアの場合は住宅から住宅用にリフォームします。ですが、そういった空き家は意外と少ない。そこで、アキサポではその地域のニーズに見合った物件にリノベーションします。こういうのがあればいいなという地元のニーズを見つけて、その形態を作り出していくのがアキサポです。住宅地の中の空き家はトランクルームにしたら即座に借り手がつきました。そうした潜在的ニーズを掘り起こすのが仕事です」
住宅なのか飲食店なのか、駐車場か宿泊施設か。リノベーションしたあとの利用ニーズに応える企画力が問われる。こうした企画力は、地域づくりやひいては街づくりの視点がなければ難しい。全国の自治体でも独自に空き家バンクなどで空き家活用の取り組みをしているが、思うような成果を上げられないのが実情だ。そんな中で着実に実績を上げているからこそ、アキサポに空き家の相談が増えている。
アキサポ第1号の案件は東京都文京区の空き家をバル&カフェに転換した。これは周辺住民のニーズから生まれた用途転換の好事例だ。このほか、横浜市の社員寮だった物件をシェアハウスにしたり、京都の京町家を1日1組限定のラグジュアリーな宿泊施設にするなど、リノベーションすることで保存と再生を図った実績もある。
東京都品川区では、外壁が一部剥がれ落ちた空き家を美容院としてオープンさせたケースもある。こちらは空き家になる以前、やはり地元の美容院として親しまれていた歴史があり、街の景観の再生という観点からも住民に歓迎されている。
■売買でも賃貸でもない不動産業界の新たなインフラに
アキサポに依頼すれば、空き家がすべて活用できるのかといえば、そうではない。
「リノベーションしても活用が難しい案件もあります」と大河氏は正直に話す。物件によっては何をどうリノベーションしても借り手がつかないケースがあるという。しかし、活用が難しいとわかると、所有者は売却や解体して駐車場にしようかなど、空き家について真剣に考え始める。
「アキサポでは空き家活用だけでなく、空き家の売買も扱いますし、管理だけしてほしいという声にも応えます。いずれにしてもまずは所有者さまがどうにかしようと思ってくれなければ空き家は減りませんから。そういう気づきのきっかけになればいいかなと思っています」
これまで空き家の相談先はほとんどないに等しかった。不動産屋に相談すれば、売買か賃貸の二択をすすめられるのが一般的だ。築年数が古い空き家の場合は、建物解体を条件に査定されるなど、所有者が積極的に空き家と向き合うモチベーションもなかったのである。
「空き家に“活用”という新しい選択肢を加えたことで、例えば空き家相談ならアキサポに行ってみようとなってもらえるのが理想ですね。これから全国にアキサポの窓口を開設する計画もすすめています」
大河氏が狙うのは、空き家活用による不動産業界の新たなインフラになることだ。NPO法人「空き家活用プロジェクト」を設立し、自治体とも連携して人材を派遣するほか、投資家たち向けの空き家活用プランも構想中という。想像以上に手間がかかる空き家活用だが、建物の用途だけでなく周辺環境や地域のニーズを汲み取るプロデュース力が問われる事業でもある。リノベーションした空き家から波及する影響は、地域創生にもつながっているといっても過言ではない。
ある試算では、空き家の潜在市場規模は9兆円を超えるといわれ、2030年には約18兆円規模になるとされている。すでに競合他社の参入の動きも活発化しつつある。空き家活用サービスによって、空き家問題解決でどこまで成果をあげられるのか、今後も空き家に注目してみたい。
※1定期借家契約:あらかじめ契約期間を決めた賃貸借契約。
※2店舗利用の場合、原則内装工事は貸借人側で行う。
(取材・文/福崎剛)
■所有者にも貸借人にも地域にもメリット、「空き家ビジネス」に問い合わせ6300件
「売却もせず賃貸に出すのでもなく、誰も居住することなく放置しておくと、建物の傷みは早くなり、資産価値はどんどん下がります。しかも空き家でも固定資産税は毎年払う必要があるため、何もせずに放置しておくことは経済的に考えてもマイナスしかありません。まさに“負動産”です」
空き家の放置はデメリットしかない、そう話すのは、2016年から空き家活用サービス“アキサポ”事業を展開する株式会社ジェクトワンの大河幹男代表取締役だ。
そもそも空き家は「景観の悪化」「治安の悪化」「倒壊や火災の危険」などのリスクから、所有者には適切な管理が求められてきた。ところが、建物を解体してサラ地にすると軽減措置を受けることができず、結果として固定資産税の総額が空き家の時より増えてしまうことになるので放置している場合も多い。
総務省の「2018年住宅・土地統計調査」のデータによれば、全国の空き家は約849万戸もあり、空き家率は13.6%にも及んでいる。一説には2030年までにはさらに増加し、空き家率は30%超えると予想されているほど深刻だ。周辺住民の住環境を維持するためにも「空き家対策」は早急に取り組むべき社会課題となっている。
そんな「空き家の増加」を何とかしようと立ち上げられたのが、空き家活用サービス「アキサポ」だ。
「“アキサポ”は所有者さまの自己負担ゼロで「空き家リノベ」できるだけでなく、貸借人、地域それぞれ三方よしのサービスです。都合が良すぎますか? でも詐欺じゃないんですよ(笑)。ご心配な方には収支の内訳をきちんとご説明して、ご納得いただいています」
2年前、テレビの情報番組で取り上げられたことをきっかけに問い合わせが激増。これまでに6300件以上の相談が寄せられ、施工実績は200件を超えた。また、昨年4月からは新潟県三条市の要請を受け、アキサポ社員を「空き家対策人材」として派遣している。
■「空き家」に新たな選択肢、“活用する”という発想の転換がビジネスに
「これまで空き家ビジネスとしては、売却するか解体する、あとは管理をするくらいしかありませんでした。そこでアキサポでは、新たに“活用”という道を模索しました」
所有者と『定期借家契約(※1)』を結び、空き家を借り上げてリノベーションする。新しくなった元・空き家を転貸し賃料を得る。空き家の活用だ。
「工事費用は原則、当社で負担します(※2)。所有者さまには借り上げ期間中、賃料をお支払いし、契約終了後は物件をそのまま返却。つまり、費用をかけずに資産価値が高くなった建物が戻ってくるんです。もし空き家を所有しているのでしたら、このサービスを活用しない手はないと考えています。また、借主さまは、当社を通じて市場に出回りにくい空き家を発掘でき、新たな物件との出会いがあります」
所有者にデメリットがあるとすれば、定期借家契約期間の解約は原則できないということだろう。これはアキサポ側が初期投資したリノベーション工事代金を回収する期間が必要なためでもある。アキサポ側は転貸で得た賃料収入からリノベ費用・所有者への賃料・利益をまかなう。
ここまでが所有者、貸借人のメリットだ。三方よしの最後、「地域」メリットはリノベーション内容にある。アキサポはその地域になかった新しい価値を創出する観点から空き家のリノベーションを展開している。
「もちろん、住宅としてニーズがあるエリアの場合は住宅から住宅用にリフォームします。ですが、そういった空き家は意外と少ない。そこで、アキサポではその地域のニーズに見合った物件にリノベーションします。こういうのがあればいいなという地元のニーズを見つけて、その形態を作り出していくのがアキサポです。住宅地の中の空き家はトランクルームにしたら即座に借り手がつきました。そうした潜在的ニーズを掘り起こすのが仕事です」
住宅なのか飲食店なのか、駐車場か宿泊施設か。リノベーションしたあとの利用ニーズに応える企画力が問われる。こうした企画力は、地域づくりやひいては街づくりの視点がなければ難しい。全国の自治体でも独自に空き家バンクなどで空き家活用の取り組みをしているが、思うような成果を上げられないのが実情だ。そんな中で着実に実績を上げているからこそ、アキサポに空き家の相談が増えている。
アキサポ第1号の案件は東京都文京区の空き家をバル&カフェに転換した。これは周辺住民のニーズから生まれた用途転換の好事例だ。このほか、横浜市の社員寮だった物件をシェアハウスにしたり、京都の京町家を1日1組限定のラグジュアリーな宿泊施設にするなど、リノベーションすることで保存と再生を図った実績もある。
東京都品川区では、外壁が一部剥がれ落ちた空き家を美容院としてオープンさせたケースもある。こちらは空き家になる以前、やはり地元の美容院として親しまれていた歴史があり、街の景観の再生という観点からも住民に歓迎されている。
■売買でも賃貸でもない不動産業界の新たなインフラに
アキサポに依頼すれば、空き家がすべて活用できるのかといえば、そうではない。
「リノベーションしても活用が難しい案件もあります」と大河氏は正直に話す。物件によっては何をどうリノベーションしても借り手がつかないケースがあるという。しかし、活用が難しいとわかると、所有者は売却や解体して駐車場にしようかなど、空き家について真剣に考え始める。
「アキサポでは空き家活用だけでなく、空き家の売買も扱いますし、管理だけしてほしいという声にも応えます。いずれにしてもまずは所有者さまがどうにかしようと思ってくれなければ空き家は減りませんから。そういう気づきのきっかけになればいいかなと思っています」
これまで空き家の相談先はほとんどないに等しかった。不動産屋に相談すれば、売買か賃貸の二択をすすめられるのが一般的だ。築年数が古い空き家の場合は、建物解体を条件に査定されるなど、所有者が積極的に空き家と向き合うモチベーションもなかったのである。
「空き家に“活用”という新しい選択肢を加えたことで、例えば空き家相談ならアキサポに行ってみようとなってもらえるのが理想ですね。これから全国にアキサポの窓口を開設する計画もすすめています」
大河氏が狙うのは、空き家活用による不動産業界の新たなインフラになることだ。NPO法人「空き家活用プロジェクト」を設立し、自治体とも連携して人材を派遣するほか、投資家たち向けの空き家活用プランも構想中という。想像以上に手間がかかる空き家活用だが、建物の用途だけでなく周辺環境や地域のニーズを汲み取るプロデュース力が問われる事業でもある。リノベーションした空き家から波及する影響は、地域創生にもつながっているといっても過言ではない。
ある試算では、空き家の潜在市場規模は9兆円を超えるといわれ、2030年には約18兆円規模になるとされている。すでに競合他社の参入の動きも活発化しつつある。空き家活用サービスによって、空き家問題解決でどこまで成果をあげられるのか、今後も空き家に注目してみたい。
※1定期借家契約:あらかじめ契約期間を決めた賃貸借契約。
※2店舗利用の場合、原則内装工事は貸借人側で行う。
(取材・文/福崎剛)
2023/06/16