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悩むトップ像で大河ドラマに風穴 制作統括が語る『どうする家康』の潜在力

 「リーガル・ハイ」や「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作で知られる古沢良太氏が、脚本を手がける今年のNHK大河ドラマ『どうする家康』。「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥」で知られる歴史上の超ビッグネーム徳川家康を、令和の今にどう描き、時代劇とエンタメをどうブレンドさせるのかに、大きな期待が集まっている。さらに、作品の骨格を為す布陣として、主演の松本潤をはじめ、音楽の稲本響、ロゴのGOO CHOKI PARらフレッシュな顔ぶれを抜擢。大河ドラマ開始から今年で60年、伝統を大切にしながらも大河ドラマに新たな息吹を注ぐ制作統括の磯智明氏に、本作に賭ける思いを聞いた。

大河ドラマ『どうする家康』(C)NHK

大河ドラマ『どうする家康』(C)NHK

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■家康はベンチャー企業のトップ “チーム徳川”作りに奮闘する姿が今の時代にフィット

――まずは、大河通算62作目となる本作の脚本を古沢良太氏に依頼された理由をお聞かせください。

磯 大河ドラマには、年表に沿って物語を作っていく歴史ドラマの側面がありますが、そこをあまり深堀りすると、歴史ファンにしか届かなくなってしまうのではないか、そんな危惧を近年抱いていました。そんな中で、今の日本のテレビ・映画業界で、優れたストーリーテリング力に定評のある古沢さんが思い浮かんだんです。例えば「リーガル・ハイ」は “法廷もの”という非常にかしこまったものであったジャンルを人間臭くユーモラスに描き、僕自身「こんな方法もあるんだ!」と、ものの見方を広げることができました。その古沢さんが大河ドラマを手がけたら、歴史をあまり知らない人たちも楽しめるものにアップデートしてくれるのではないか、そんな期待をもってお願いしました。

――大河ドラマという伝統あるジャンルに新風を送り込みたかったということでしょうか。

磯 新しいことに挑戦するというよりは、バリエーションを増やして、大河ドラマの可能性を広げたいと思ったんです。今の制作現場は世代交代が進み、30代が現場の中心になりつつあります。彼らがこれから先も大河ドラマの制作を担っていきたいと思えるようにするにはどうしたらいいか。そのためには、5年後10年後、彼らが制作の柱となるまでに、大河ドラマにはこれだけの可能性とバリエーションがあるということを僕らが築いておくべきなのではないかと考えました。

――本作の企画について、古沢さんと話を詰められたのはいつ頃でしょうか。野心を持たない頼りない主人公が、半べそかきながら困難に立ち向かう姿は、新型コロナやきな臭い世界情勢等、どうしたらいいかわからないことだらけの今の時代にマッチしていると感じました。

大河ドラマ『どうする家康』5話 松平元康(松本潤)と対面する正信(松山ケンイチ)と半蔵(山田孝之)(C)NHK

大河ドラマ『どうする家康』5話 松平元康(松本潤)と対面する正信(松山ケンイチ)と半蔵(山田孝之)(C)NHK

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磯 初めてお会いしたのは2020年の6月くらいで、そこから話を詰めていき、その年の9月には具体的な企画に落とし込みました。大河ドラマとしては一般的なスケジュールだと思います。家康を主人公に、毎回困難が降りかかって「どうする、どうする」と言いながらそれを乗り越えていくドラマにしたいというのは古沢さんからの提案でした。もともと古沢さんのドラマは主人公を視聴者と同じ目線に置いて、巻き込んでいくという特徴があって、それがこれまで時代にフィットして受け入れられ、ヒットへとつながったのだと僕は解釈しています。

――公式HPで磯さんは「令和版にアップデートした、新たな家康像」と発言されています。従来の神格化された家康ではなく、視聴者の目線に近い人間味のある家康が令和版ということですね。

磯 もう1つ、主人公が“戦いが嫌い”である点にも新しさを感じています。戦国時代であったとはいえ、誰しも戦いたかったわけではないと思うんです。だからといって戦いをやめなければならないという哲学があったわけでもなくて、単純に人間の実感として、「戦いは嫌だな」と思っていて、同じように考えている人たちが主人公の周囲にもいたという感じです。

――その目線も今の視聴者と近いですね。

磯 実際、近年の大河ドラマの視聴者の傾向を見ていて、戦国ものだからといって、皆が合戦シーンを観たいわけではないと感じていました。スペクタクルな合戦シーンを入れたら喜ばれるかというとそうでもなくて、むしろ、そこに生きている人たちのチャーミングさやリアルさ、面白さが求められている。そこが昔と今とでやや変わってきていると思います。

――自らの弱さに歯がゆさを感じつつも、家臣たちとの絆を深め、“チーム徳川”を作り上げていく姿は、スタートアップ企業のトップの姿にも重なります。

磯 徳川家そのものが今で言えばベンチャー企業ですからね。織田や武田という老舗の強力企業が幅を利かせる中、どう生き残っていくか。そんなに優秀な人材もいないから、結局は1人ひとりのモチベーションに頼りながら企業を成長させていくしかないわけです。そうなると、部下たちの意見に耳を傾けなければならないし、それぞれの能力の活かし方を考えなければならない。そうやって一段一段上っていった家康が、結果的に天下を取ったことが面白いと僕は思っています。

大河ドラマ『どうする家康』5話 駿府で捕われの身となっている瀬名(有村架純)(C)NHK

大河ドラマ『どうする家康』5話 駿府で捕われの身となっている瀬名(有村架純)(C)NHK

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■伝統と斬新さのバランスが生む“新しさ” 受け継いだバトンを次の世代にどう引き渡せるかが課題

――そんな新しい家康像を演じる松本潤さんは、大河ドラマ初主演です。撮影現場での姿をどうご覧になっていますか。

磯 すごくポジティブに取り組んでおられると感じています。古沢さんの台本って、シーンによって、芝居のテンションやコミカルな演技をどれくらいの振り幅で、どこまで盛り込むのか、非常にデリケートな部分があるので、演じるのが難しいと思うのですが、演出とコミュニケーションを取りながら、いろいろ探って、まさに今回の家康と同様によく悩みながら演じられていますね。

――制作スタッフでは、音楽の稲本響さんやロゴ担当のデザインユニットGOO CHOKI PARも大河初参加です。抜擢の理由を教えてください。

磯 演出統括の加藤拓の推薦だったのですが、両者とも、僕らよりも若い世代で、実績というより将来性というか、何か新しい風をもたらしてくれるのではないかという可能性に期待してお願いしたという部分が大きいです。

――確かにロゴはこれまでになかった斬新なデザインで反響を呼びました。

磯 いくつかプランを提案していただいた中で、決めたのは一番尖ったデザインでした。これまでの大河ドラマと比較して冒険しすぎて受け入れられない可能性もあるのではないかということで半年ぐらい議論を重ねましたが、一見、奇抜そうだけど、丸いロゴは徳川家の葵の御紋がイメージされているし、家康の和を尊ぶ精神も表現されている。必ずしも新しさだけを目指しているわけではなく、伝統と斬新さのバランスが良いと判断しました。大河のロゴはドラマを表すマークとして、一目で認識できることも重要と考えています。皆さんに親しんでもらえるロゴになればという思いです。

デザインユニットGOO CHOKI PARが手がけたロゴ (C)NHK

デザインユニットGOO CHOKI PARが手がけたロゴ (C)NHK

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――ピアニスト/作曲家の稲本さんについては、どう評価されていますか。

磯 家康は年齢を重ねるにつれて、たくさんのイベントがあり、それぞれのフェーズで音楽を変えますので、トータルで100曲くらい必要になります。大河ドラマでは1曲あたり3〜4回録音するので、録音はマックス400回にも及びます。そうしたことに対応できる発想力や体力も含めて、彼の才能にかけてみたいと思いました。実際、稲本さんは果敢に挑戦してくださり、どの曲も非常に音が厚く完成度が高いので、聴き応えがあります。古沢さんがイメージしている世界観は、男臭いだけでなく、女性にも楽しんで観てもらえる親しみやすさがありますので、戦国ものの荒々しさとはひと味違うメロディーラインが、ドラマの世界観にとてもマッチしていると思います。

――様々な情報がすぐに調べられるインターネット時代に加え、歴史研究が進み、従来の通説や定説が覆ることも多々起きている今、時代劇の描き方はいっそう難しくなっているのではないかと思いますが、最後に、制作統括というお立場での大河ドラマを制作する醍醐味を教えてください。

磯 確かに近年、時代劇においては、なかなか思い切った物語が作りにくいということは感じています。ただ、時代考証も物語のフレームを作る部分ではありますが、この先の大河ドラマの発展を考えたら、作り手のモチベーションを確保するためにも、ある程度、クリエイターの考えを活かす余地を残すことは必要だと思うんです。その意味で、今回は、作家性やオリジナリティのブレンド率をこれまでより高くしたところがあるのですが、古沢さんはじめ、若いスタッフたちに刺激を受けながら、僕自身、とても楽しくやらせてもらっています。僕の仕事としては諸先輩方から受け継いだバトンをどう次の世代に引き渡せるかということも重要ですので、次世代を担う人たちが楽しんで作っている現場を見ると、こちらもやりがいを感じるというか、面白いものを作れているなという気がしています。

文・河上いつ子

大河ドラマ『どうする家康』5話 本多正信に伴われ松平元康(松本潤)のもとを訪れる服部半蔵(山田孝之)(C)NHK

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