お笑い芸人のビートきよしが20日、東京・新宿武蔵野館で公開中の映画『戦場のメリークリスマス 4K修復版』のトークイベント付き上映に登壇。相方のビートたけしは出演しているが、きよしは丸刈りでロケに参加したものの、大島渚監督から「全然出ないで帰ったほうが、ネタになるでしょ。ギャラはあげるから」と出演せずに帰国したエピソードを披露した。

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　映画評論家で映画監督の樋口尚文氏とともに観客から盛大な拍手で迎えられたビートきよしは、同映画に出演していないにも関わらず、今回のイベントに登壇することになった経緯について、「なんで僕が呼ばれたのか不思議でしょうがない」としつつも、「僕も本当は出演する予定だったんですよ」と話し始めた。

　「出演していたはずのきよしさんが出てらっしゃらないことについては、いろんな都市伝説があるので、今日は真相をぜひ語っていただきたい」と、樋口氏が前のめりに尋ねた。

　きよしは、バラエティ番組『笑ってる場合ですよ！』にレギュラー出演していた当時、大島監督から映画出演のオファーがきたことを回想し、なんと生放送中に「戦争映画に出るんなら頭刈っちゃえって、坊主にさせられたんですよ」と当時のエピソードを明かした。

　そうして坊主となり、撮影地ラロトンガ島へと向かったきよしだったが、島での夕食中、「うちの娘と結婚してくれ」と現地の住人にお願いされる出来事が。当時のラロトンガ島では、男性は別の島に出稼ぎに出るため、女性ばかりだったという知られざる背景を明かすとともに、「（既婚者だったから）結婚したら、重婚で刑務所入れられちゃうからね」と話し、断ったようだ。

　飛行機の都合できよしのラロトンガ島滞在は1週間のみだったそうだが、連日の雨天により、撮影はなかなか進まず。ようやく晴れた最終日に大島監督から、「きよしさん、これね、ワンカットしか出番が撮れないんだよ。だからこれ…全然出ないほうがいいんじゃない？　全然出ないで帰ったほうが、ネタになるでしょ。ギャラはあげるから」との提案が。これに対しきよしは、「いいですよって喜んで帰りましたよ」とサラリと明かした。そして大島監督の予言通り、40年たった今、出演していない映画のトークショーに登壇するという”ネタ”になった。

　先にたけしの出演が決まっていたことにつていどう思ったのか？という樋口氏の質問に対しては、「大島監督は異色の俳優を並べて撮りたかったんでしょうね」と語り、生放送中に丸刈りになり、撮影地まで赴くも出演せず帰ってくるという自身の境遇については、「現地で出番前に頭刈るならまだしも、坊主頭になった意味がなかった」とこぼした。

　また毎晩ほとんどの映画関係者が集まる夕食会場には、デヴィッド・ボウイが毎日のようにギターを持参し、目の前で歌を披露したという贅沢なエピソードも明かした。実際に会ったボウイの印象を聞かれたきよしは、「大変気さくな方で、映画で見てもかっこいいですけど、近くで見たらすごくいい男でかっこよかった」と懐かしそうに語った。

　「第36回カンヌ国際映画祭」で、そのテーマを巡って大きな話題を巻き起こした同作は、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしなどの本業が俳優ではない個性的なキャスティングで描かれる戦闘シーンが一切登場しない異色の“戦争”映画。日本軍俘虜（ふりょ＝捕虜）となるジャック・セリアズ少佐を演じたデヴィッド・ボウイの美しさと存在感が随所で際立ち、坂本扮するヨノイ大尉が次第にセリアズにひかれていく様が描かれる。

　東洋と西洋の文化の対立と融合という複雑なテーマゆえに企画は難航し、製作費は膨らんだが、たけしがラジオやテレビでネタにしたことで話題が独り歩きするなど、従来の映画プロモーションとは違う展開になったことも功を奏して、配給収入10億円の大島監督最大の大ヒットにつながった。2023年に大島渚作品が国立機関に収蔵される予定のため、今回が最後の大規模ロードショーとなる。

　都内では、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、立川シネマシティ、アップリンク吉祥寺ほかにて上映中。ほか全国順次公開。