ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

新海誠作品の強さはメッセージの一貫性「あなたはきっと大丈夫」

 日本アニメをけん引するアニメーション映画監督の新海誠氏の3年ぶりの新作『すずめの戸締まり』が11日より公開中。『君の名は。』(2016年)、『天気の子』(19年)と、興行収入100億円を超える大ヒット作品を飲み込んでさらに大きく、強く、観る者の心を揺さぶる「感動」と「見ごたえ」を兼ね備えた力作だ。『すずめの戸締まり』に込めた思いを聞いた。

劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)を制作した新海誠監督

劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)を制作した新海誠監督

写真ページを見る

【写真】その他の写真を見る


■すべては『すずめの戸締まり』を作るための準備期間だった

――3年に1本のペースで作品を世に送り出してきましたが、新海監督をアニメーション映画づくりに駆り立てるものは何でしょうか?

【新海監督】映画に限らないことだと思いますが、何かを作って世の中に出す時に、作り手としては何らかの思いを込めて作っているし、期待もある。誰かを少しでも勇気づけることができたらいいなとか、多くの観客に「こういう映画を観たかった」とほめてもらえるような映画を作りたいな、といった承認欲求みたいなものも含めて、ですね。

 いざ作ったものが世の中に出て、いろんな人たちの目や耳に触れると、本当にいろんな反響があるんですね。特に『君の名は。』で観客の層が広がって、まったく想像していなかったこともあって、批判的な意見も耳に入ってきました。そうなると、やっぱり次こそは、という気持ちが生まれますよね。もちろん、それだけではありませんが、『君の名は。』の反響に対するある種のカウンター、あるいはレスポンスみたいなつもりで『天気の子』を作ったところもありました。

 『すずめの戸締まり』は、『君の名は。』『天気の子』とさらに膨らんだ観客のいろんな言葉を受けて、じゃあ次に、自分ができることは何か、ということに向き合って作った作品です。観客の誰も取りこぼさないような映画にしたいと思ったんですよね。家族とか、カップルとか、おじいちゃんと孫とか、僕が『ほしのこえ』(2002年※商業デビュー作)を作り始めた頃には全くイメージしていなかったような観客が観ても、その人たちなりに楽しんでもらえるようなものにしたいと思いました。

 特にお子さんですよね。僕はデビュー時から30歳前後の男性向けみたいな気分がずっとありましたし、「新海の作品は観客が限られてる」と言われてきましたが、『君の名は。』以降、ありがたいことに観客の層が広がって、小学生、あるいはもっと小さな子どもを連れた方も観に来てくださるようになりました。

 だけど、上映中の映画館にこっそり見に行くと、退屈そうにしているお子さんたちの姿も目にしてきました。そのたびに子どもにはまだちょっと早いよね? きっと面白くないよね?と申し訳ない気持ちになって(笑)。次は子どもたちも楽しめるところがある作品にしよう。そう思って『すずめの戸締まり』を作りました。

 (ルミの子どもの)幼い双子が出てくるシーンがまさにそうで、おもちゃの野菜をパパバっと切って、それを口に入れちゃったり、ティッシュを全部ワーッと出しちゃったり、うちの娘が全部やってたことなんですが、子どものお客さんに「等身大の君たちがいるよ」というメッセージも込めて作りました。自分でもすごく気に入ってるところです。

 今の時点で自分の全力を込めて作ろうと思ったときにたどり着いたのが、今回の『すずめの戸締まり』です。過去に作ってきた『ほしのこえ』から始まって、『天気の子』までの作品は、全て『すずめの戸締まり』を作るための準備期間のようなものだった、とさえ今は思います。

――新海監督は、これまでもエンターテインメントでありながら、『君の名は。』では彗星衝突という人間の力では回避不可能な自然災害を、『天気の子』では気候変動の影響が顕在化した世界を背景にした作品を発表されてきました。『すずめの戸締まり』には、どのようなメッセージを込めたのでしょうか?

【新海監督】2019年に前作『天気の子』が公開されてから、次回作に向けていろいろな本を読んだり、国内外の舞台あいさつなどで公開後の反響を体感しながら構想をまとめていったのですが、最初の起点としてはふたつのことを考えていました。

 ひとつは、「場所を悼む物語」にしたいということ。舞台あいさつで各地を回ったり田舎の実家に帰ったりしたときに、かつて栄えていたのに人が減って廃れてしまい、寂しくなった場所を目にする機会が増えたなと思っていました。僕の実家は建築業をやっていて、子どもの頃、父親たちがさまざまな建造物を作るのをよく見ていたんですが、そこで建てられた建物の中には今はだれも住んでいなくて、周りは人よりも緑や動物ばかりになっている場所が少なくない。

 そして、何かを始めるときは地鎮祭のような儀式をするけれど、何かが終わっていくときには何もしないですよね。人が亡くなったときにはお葬式で悼むのに、土地や街にはそれがない。じゃあ、人がいなくなった土地や場所、つまり廃墟を悼む、鎮めるという物語はどうだろうかと、ここ何年かずっと考えていました。

 そして廃墟という舞台から、その出入り口として自然と“扉”というモチーフにもつながっていきました。扉は“後ろ戸“という名前なのですが、造語ではなく、古典能楽における概念です。神様や精霊の世界に繋がる扉という意味だそうで、神様は普段、人目につかない後ろ側の扉から出入りしていて、日本古来の芸術表現はその“後ろ戸の神”から超常的なインスピレーションを得るものだと考えられていた、といったことを本で読んだんです。神様の通路みたいな意味合いで神秘的であることが物語に通じる気がして、かつ、表の玄関ではなく、後ろ側にある扉から何かが出入りしてるという感覚がなんとなく分かる気がして、いい言葉だなと思い、映画で使わせてもらいました。

■人々の記憶から薄れていく中で震災と向き合う覚悟

劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

写真ページを見る

――公開前に「劇中で、地震描写および、緊急地震速報を受信した際の警報音が流れるシーンがある」ことを明かして、注意喚起されていましたね。この警報音についてはとても熟慮されたそうですが。

 【新海監督】劇中で緊急地震速報の音がいくつかのバリエーションで鳴るんですが、ビデオコンテを作った時点から速報の音が流れる描写は入れていました。緊急地震速報に限ったことではないのですが、スマホから聞こえてくる着信音や通知音の類は、僕たちの日常の生活音の一つになっていますよね。スマホやテレビから「緊急地震速報」の音が鳴り響くというのが、今の僕たちの日常になってしまった。今回、地震を描写するというのは企画の最初から考えていたものだったので、音に関してもそこは切り離せないなと思っていました。とはいえ当然、実際の音を使うわけにもいかないので、そこは慎重に音響効果の伊藤瑞樹さんと相談しながら、聞いたことがあるようで、明解に違う音を探りながら作っていきました。

――最初から「地震」を描こうと思っていたということですか?

【新海監督】2011年3月11日の東日本大震災というのは、ある年齢以上の日本人に刻み込まれた大きな出来事だと思います。『君の名は。』を作る時も、1000年に一度やってくる彗星は、周期性の災害という意味では地震のメタファーでもありました。ただ、当時はストレートに地震そのものを描くための準備が自分にも整っていなかったし、観客の皆さんも見たくはないだろうと思いました。これはなかなかうまく言葉にできないのですが、あの大震災が起きて、僕の中で大きく揺さぶられるものがありました。その揺さぶられた何かが、自分の作品の裏側にはずっとあったように思うんです。そして、『君の名は。』の時は自分の力量の面でもタイミング的にも描けなかったけれど、今ならどうか、と。

 直接、地震を描写しなくても、『君の名は。』のようにメタファーで扱う選択肢もあったと思うのですが、あれから11年経って、人々の記憶からどんどん薄れていってしまっているな、と感じています。僕の娘は震災が起きた年に0歳だったので、リアルタイムでは知らないんですよね。若い観客には同じ方も多いと思います。だからこそ、いつかではなく今、きちんと向き合っておかないと、何だかこの先ずっと後悔しそうな気がしたんです。

 『すずめの戸締まり』は震災を描いていますが、そういう話にしたいと、最初にプロデューサーに伝えて、スタッフ一同覚悟を決めて制作を始めました。一方で、エンターテイメントで扱っちゃいけない領域があるとも僕はやはり思えないんですよね。時間がかかることもあるかもしれないけれど、僕たちはあらゆる過去の出来事をいろんな戯曲であったり、文学であったり、映画であったり、広くエンターテイメントの形にしてずっと残し続けてきたわけで、僕も歴史の流れの一端にいる者として、今回は東日本大震災に直接触れることにしました。

――マスコミ・映画関係者向けの試写会で、会社員を辞めて、アニメーション作品を作り始めた頃に、『すずめの戸締まり』のような作品を作る自分になるとは思わなかった、とおっしゃっていました。そんなご自身の経験を踏まえて、いろいろな問題が起きて先の見えない時代にこの映画を観る観客に伝わったらいいなと思うことはありますか?

【新海監督】今、おっしゃってくださったことをまさに考えながら作ってきたんですが、僕は多分、最初の作品からずっと、「あなたはきっと大丈夫だよ」ということを、根拠なんかなくてもいいから「大丈夫だよ」と言ってほしい、という映画をずっと作ってきたような気がするんです。『天気の子』の最後のせりふも帆高の「僕たちはきっと、大丈夫だ!」でした。変わり果てた街を目の前にして、とても大丈夫そうには見えないのだけれど、「大丈夫だ!」と叫んでほしいという気持ちであのシーンを作ったんです。

 『秒速5センチメートル』でも、明里が貴樹に言ったせりふで、「貴樹くんは、きっとこの先も大丈夫だと思う」というものがありました。その後、あんまり大丈夫じゃない感じの貴樹を描いてはいるんですが、それでも「大丈夫だ」と言いたいし、言ってほしいし。自分にとっても、一番言ってほしい言葉がそれなんですよね。

 『すずめの戸締まり』でも僕が言いたいことを一つ挙げるとしたら、それ。でも、今までとは違う語り方ができるんじゃないか、と思って取り組んでいました。それを具体的に話してしまうと、映画をこれから観る人にとってネタバレになってしまうので、言えませんが(笑)。観てくださった方が、「自分はきっと大丈夫だ」と思ってもらえるような映画になっていたら、いいのですが…。今回もまた反響が楽しみでもあり、ドキドキもしています。

>このニュースの流れをチェック

  1. 1. 新海誠監督『すずめの戸締まり』真夜中の最速上映であいさつ「皆さんが導いてくれた作品」
  2. 2. 新海誠作品の強さはメッセージの一貫性「あなたはきっと大丈夫」

関連写真

  • 劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)を制作した新海誠監督
  • すずめ・草太=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • すずめと環=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • ダイジン=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 岡部稔=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 海部千果=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 二ノ宮ルミ=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 芹澤朋也=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 岩戸環=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 環と芹澤=劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
  • 劇場アニメ『すずめの戸締まり』(11月11日公開)(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索