鎌倉の銘菓としておなじみの「鳩サブレー」。バターたっぷりの豊かな風味とコロンと可愛い鳩のデザインで、100年以上にわたって愛され続けるロングセラーだ。最近は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)の期間限定缶を発売し、話題に。また、鳩をモチーフにした本店限定のグッズも人気で、鎌倉観光の楽しみの1つになっている。そんな身近に銘菓として親しまれている鳩サブレーについて知らないことが多い。なぜあの大きさなのか。なぜ販売は関東圏だけに限定しているのか。製造・販売する豊島屋に鳩サブレートリビアを聞いた。
■約130年、大きさや味を変えないこだわり
鳩サブレーを製造販売する豊島屋は、神奈川県の古都・鎌倉に鎮座する鶴岡八幡宮の参道に本店を構える。創業は明治27年(1894年)、今年で128年を迎えた老舗の銘菓店だ。
「鳩サブレーの誕生は明治30年頃。初代店主がふらりと来店した外国人からもらった焼き菓子のおいしさに感動し、『これを鎌倉のみんなにも食べてもらいたい』と工夫を重ねて鳩サブレーを完成させました。それ以来、形や大きさ、原材料の配合はまったく変わっていません」(豊島屋 広報・宮井通昌さん)
原材料は小麦粉、砂糖、バター、鶏卵、膨張剤と極めてシンプル。素朴で滋味深い味わいと、さくさくほろりとした食感を明治から令和まで5つの時代にわたって守り続けている。
「大正12年の関東大震災でお店や工場が完全に焼失してしまったため、創業当時の資料はほとんど残っていません。それでも鳩サブレーの型はいくつか持ち出すことができ、今も大切に保管されています」
サイズは女性の手のひらならハミ出すほどで、一般的なサブレーと比べるとかなり大きい。ダイエット志向もかまびすしい昨今、ミニサイズ展開を考えたことはなかったのだろうか?
「初代店主が外国人からいただいたのが、こぶし大ほどの楕円形をした焼き菓子で、それをヒントにあの大きさになったようですね。ミニサイズについてはお問い合わせもあり、過去に試作をしたことがあったと聞いています。ところが配合はまったく同じなのに、味が変わってしまった。やはりあの大きさ、あの形でないと鳩サブレーにはならないんです。4代目現社長も『自分は今の鳩サブレーを変えることはしない』と断言しています」
■実は販売地域は東京と神奈川だけ! 鳩サブレーが全国展開しない理由
昨今は鳩サブレーとともに、本店限定で販売されている鳩をモチーフとしたオリジナルグッズ「鳩これくしょん」も人気だ。2002年に始まった「鳩これくしょん」は文具や雑貨など常時20種類ほど展開。可愛いデザインはもちろん、色合いから質感まで鳩サブレーそっくりのチャームがついた根付の「鳩三郎」など、クスッとさせるネーミングにも心をくすぐられる。
「この名前は駄洒落ではないんです。初代店主が当時は耳慣れなかった『サブレー』という言葉を聞いたときに『三郎』と連想。鳩サブレーのことを愛称のように『鳩三郎』と呼んでいた、という逸話にちなんでいます。鳩三郎は第一弾グッズにして、今も一番人気ですね。ネット販売のご希望や他の店舗でも扱って欲しいというご要望も多いのですが、4代目社長の『たくさんの方に鎌倉に来てほしい』という思いから、本店限定とさせていただいております」
鳩これくしょんの商品詳細や画像はホームページに掲載されているが、そのページにもすんなりとは辿り着けない。豊島屋公式サイトのトップページの"ある場所"をタップすると飛べる仕掛けになっているので、ぜひ探してみてほしい。
なお、鳩サブレーそのものも鎌倉に5店舗ある直営店のほか、東京と神奈川の百貨店と公式オンラインショップのみの販売となっている。創業当時からははるかに物流が発達した現代、全国展開は考えていないのだろうか。
「コロナ禍には鎌倉を訪れる方が激減し、一時期は売上も通常の半分まで落ち込みました。今はだいぶ持ち直してきましたが、それでも7〜8割程度。インバウンドが戻っていないのも厳しいところです。それでも、経営方針である『作るのも売るも目のも行き届くところで』という想いはあります。1日にたくさんの鳩サブレーを製造している工場も和菓子の工場も鎌倉にあります。」
鎌倉という土地への深い愛着と商品への頑固なまでのこだわり。それと相反するような遊び心も満載な鳩グッズ、やはり一筋縄ではいかない存在である。
■昭和時代には存続危機も 鳩サブレーが販売停止に陥った出来事
鳩サブレーといえば、最近、SNSではアイシングでデコレーションを施した鳩サブレーがたびたびバズっている。「スチームパンク風」や「近未来サイバー風」に変身した鳩サブレーには「ゆるい見た目の鳩サブレーがこんなにカッコよく!」「噛んだら歯が折れそう」などのコメントが踊った。
「個人的にはそのまま召し上がっていただくのが一番おいしいとは思うのですが(笑)、それだけあの鳩の形に親しんでくださっているのはうれしいことです」
そもそも鳩サブレーはなぜ「鳩」の形をしているのか?
「初代店主は八幡さま(鶴岡八幡宮)をこよなく崇敬しており、八幡さまにちなんだお菓子を作りたいと常々考えていたようです。鳩は八幡さまの使いで、本宮の掲額の『八の字』も2羽の鳩が抱き合わせになった意匠になっています。境内にはたくさんの宮鳩がいて、昔から鎌倉の人々に愛されてきたんですよ」
鳩サブレーもまた、明治から令和まで変わらず鎌倉の人々に愛されてきた。しかしその長い歴史の間には、一時期だけ鳩サブレーが売られなかった期間がある。
「昭和16年から25年頃まで、豊島屋はお店を閉めています。理由は戦争。小麦粉や砂糖、バター、鶏卵といった原材料が入ってこなくなったんですね。『おいしいお菓子を作れないのなら』と、戦後しばらくも経済統制が終わるまで商売を再開しなかったようです」
そう言えば鳩は平和のシンボルでもある。きな臭いニュースも多い昨今、鳩サブレーの優しい甘みを、さくさくほろりと平和を願いながら噛みしめたい。
(取材・文/児玉澄子)
■約130年、大きさや味を変えないこだわり
鳩サブレーを製造販売する豊島屋は、神奈川県の古都・鎌倉に鎮座する鶴岡八幡宮の参道に本店を構える。創業は明治27年(1894年)、今年で128年を迎えた老舗の銘菓店だ。
「鳩サブレーの誕生は明治30年頃。初代店主がふらりと来店した外国人からもらった焼き菓子のおいしさに感動し、『これを鎌倉のみんなにも食べてもらいたい』と工夫を重ねて鳩サブレーを完成させました。それ以来、形や大きさ、原材料の配合はまったく変わっていません」(豊島屋 広報・宮井通昌さん)
原材料は小麦粉、砂糖、バター、鶏卵、膨張剤と極めてシンプル。素朴で滋味深い味わいと、さくさくほろりとした食感を明治から令和まで5つの時代にわたって守り続けている。
「大正12年の関東大震災でお店や工場が完全に焼失してしまったため、創業当時の資料はほとんど残っていません。それでも鳩サブレーの型はいくつか持ち出すことができ、今も大切に保管されています」
サイズは女性の手のひらならハミ出すほどで、一般的なサブレーと比べるとかなり大きい。ダイエット志向もかまびすしい昨今、ミニサイズ展開を考えたことはなかったのだろうか?
「初代店主が外国人からいただいたのが、こぶし大ほどの楕円形をした焼き菓子で、それをヒントにあの大きさになったようですね。ミニサイズについてはお問い合わせもあり、過去に試作をしたことがあったと聞いています。ところが配合はまったく同じなのに、味が変わってしまった。やはりあの大きさ、あの形でないと鳩サブレーにはならないんです。4代目現社長も『自分は今の鳩サブレーを変えることはしない』と断言しています」
■実は販売地域は東京と神奈川だけ! 鳩サブレーが全国展開しない理由
「この名前は駄洒落ではないんです。初代店主が当時は耳慣れなかった『サブレー』という言葉を聞いたときに『三郎』と連想。鳩サブレーのことを愛称のように『鳩三郎』と呼んでいた、という逸話にちなんでいます。鳩三郎は第一弾グッズにして、今も一番人気ですね。ネット販売のご希望や他の店舗でも扱って欲しいというご要望も多いのですが、4代目社長の『たくさんの方に鎌倉に来てほしい』という思いから、本店限定とさせていただいております」
鳩これくしょんの商品詳細や画像はホームページに掲載されているが、そのページにもすんなりとは辿り着けない。豊島屋公式サイトのトップページの"ある場所"をタップすると飛べる仕掛けになっているので、ぜひ探してみてほしい。
なお、鳩サブレーそのものも鎌倉に5店舗ある直営店のほか、東京と神奈川の百貨店と公式オンラインショップのみの販売となっている。創業当時からははるかに物流が発達した現代、全国展開は考えていないのだろうか。
「コロナ禍には鎌倉を訪れる方が激減し、一時期は売上も通常の半分まで落ち込みました。今はだいぶ持ち直してきましたが、それでも7〜8割程度。インバウンドが戻っていないのも厳しいところです。それでも、経営方針である『作るのも売るも目のも行き届くところで』という想いはあります。1日にたくさんの鳩サブレーを製造している工場も和菓子の工場も鎌倉にあります。」
鎌倉という土地への深い愛着と商品への頑固なまでのこだわり。それと相反するような遊び心も満載な鳩グッズ、やはり一筋縄ではいかない存在である。
■昭和時代には存続危機も 鳩サブレーが販売停止に陥った出来事
鳩サブレーといえば、最近、SNSではアイシングでデコレーションを施した鳩サブレーがたびたびバズっている。「スチームパンク風」や「近未来サイバー風」に変身した鳩サブレーには「ゆるい見た目の鳩サブレーがこんなにカッコよく!」「噛んだら歯が折れそう」などのコメントが踊った。
「個人的にはそのまま召し上がっていただくのが一番おいしいとは思うのですが(笑)、それだけあの鳩の形に親しんでくださっているのはうれしいことです」
そもそも鳩サブレーはなぜ「鳩」の形をしているのか?
「初代店主は八幡さま(鶴岡八幡宮)をこよなく崇敬しており、八幡さまにちなんだお菓子を作りたいと常々考えていたようです。鳩は八幡さまの使いで、本宮の掲額の『八の字』も2羽の鳩が抱き合わせになった意匠になっています。境内にはたくさんの宮鳩がいて、昔から鎌倉の人々に愛されてきたんですよ」
鳩サブレーもまた、明治から令和まで変わらず鎌倉の人々に愛されてきた。しかしその長い歴史の間には、一時期だけ鳩サブレーが売られなかった期間がある。
「昭和16年から25年頃まで、豊島屋はお店を閉めています。理由は戦争。小麦粉や砂糖、バター、鶏卵といった原材料が入ってこなくなったんですね。『おいしいお菓子を作れないのなら』と、戦後しばらくも経済統制が終わるまで商売を再開しなかったようです」
そう言えば鳩は平和のシンボルでもある。きな臭いニュースも多い昨今、鳩サブレーの優しい甘みを、さくさくほろりと平和を願いながら噛みしめたい。
(取材・文/児玉澄子)
2022/10/14