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戦争体験や平和の願いを受け継ぐ手法としてのドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』

 今月5日より劇場公開中のドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』は、原爆の惨状を身をもって知る人が年々減っている中で、世代を超えて平和の願いを受け継いでいく一つの方法を示したドキュメンタリーだ。

ドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』(公開中) (C)The Postman from Nagasaki Film Partners

ドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』(公開中) (C)The Postman from Nagasaki Film Partners

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 77年前の長崎で郵便配達中に被爆し、生涯をかけて核廃絶を世界に訴えた故・谷口稜曄(スミテル)さんを取材したノンフィクション小説の著者、故・ピーター・タウンゼンドさんの娘が、父の著書とボイスメモを頼りに、2018年の長崎をめぐり、父と谷口さんの想いをひも解いていく。

 谷口さんは、1945年8月9日、長崎市で郵便局員として働いていた16歳の夏、配達中に被爆し、背中一面に重度の火傷を負った姿が写真に撮られ、「赤い背中の少年」として世界的に知られることになった。被爆から約3年7ヶ月の治療を経て、郵便局員として復職。その後、日本原水爆被害者団体協議会の代表をつとめるなど、2017年8月に亡くなるまで、約70年にわたり被爆者運動をけん引し、長崎の人々にとって「ヒーローのような存在」であるという。

 タウンゼンドさんも波乱万丈の人生を歩んできた。元英空軍大佐で、戦時中にパイロットとして英雄となったタウンゼンドさん。退官後、英国王室に仕えた彼は、エリザベス女王の妹にあたるマーガレット王女と恋に落ち、1953年、「ハンサムな空の英雄」と「若く美しい王女」のロマンスという世紀のスクープに世界は賑わい、日本のマスコミも違わず彼の姿を躍起になって追いかけた。しかし、周囲の猛反対で2人は破局。この一連のエピソードはNetflixの人気ドラマ『ザ・クラウン』でも描かれ、映画『ローマの休日』(1953年)のモチーフになったとも言われている。

 その後、『ローマの休日』でグレゴリー・ペックが演じた新聞記者ジョー・ブラッドレー同様にジャーナリストとなったタウンゼンドさんは、1978年に取材で長崎を訪れ、谷口さんに出会い、1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を出版。今回の映画につながっていく。

 監督を務めた川瀬美香は、谷口さんより出版についての相談を受け、さらに、ピーター・タウンゼンドさんの娘で、女優のイザベル・タウンゼンドさんとも出会ったことで、映画制作を決意。2017年、谷口さんが突然帰らぬ人となり、プロジェクトは一時中断しかけたが、奇跡的にイザベルさんが父の取材テープを発見。天のふたりから導かれるようにして歩みを進めていった。

ピーターさんと谷口さん(C)The Postman from Nagasaki Film Partners

ピーターさんと谷口さん(C)The Postman from Nagasaki Film Partners

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 18年8月、長崎を訪れたイザベルさんは、父の著書をなぞり、時に父のボイスメモに耳を傾けながら、本に書かれた場所を巡り、父と谷口さんの間に芽生えた特別な友情、初めて知る父の姿、そして平和への願いに触れていく。

吉永小百合から応援コメントも

 映画には、15年に米ニューヨークの国連本部で開催された「核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議」に出席するため渡米し、国際会議でスピーチをする谷口さんの姿を川瀬監督が撮影した映像も収められている。

 谷口さんにとって最後の渡米となってしまったが、この時のスピーチで谷口さんは、「赤い背中の少年」の写真をかかげ、「3年7ヶ月の闘病生活の間、1年9ヶ月うつぶせの状態で身動き一つできなかったので、胸が床ずれで腐りました。胸は今でもえぐり取られたようになり、肋骨の間から心臓の動いているのが見えます。私はこんな状態で今日まで生きてきました」と、原爆によって心身に深い傷を負った姿をさらし、その恐ろしさを訴えた。

タウンゼンド親子(C)The Postman from Nagasaki Film Partners

タウンゼンド親子(C)The Postman from Nagasaki Film Partners

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 ピーター・タウンゼンドさんの著書「THE POSTMAN OF NAGASAKI」の復刊を誰よりも望んでいたという谷口さんは、川瀬監督に「許せないんだよ。原爆が悲惨なことは明らかにも関わらず、世界はまだ核を保有している。この本が後世に残っていくことが重要なのだ」と話していたという。また、川瀬監督は、谷口さんの素顔について「公の場では寡(か)黙でしかめっ面が多かったのですが、タウンゼンドさんとの思い出を話す時の楽しそうな表情と、ふと黙った時に遠くを見つめる目が印象に残っています」と明かしている。

 被爆者の生の声があり、その生の声を取材してペンの力で世界に伝えたジャーナリストがいて、その娘が意志を受け継ぎ、本に書かれた場所を巡るという行為をもって、核被害を想像して、今の自分にできることの考えていく。この一連がより多くの人に“配達”できる映画という形に結実したことに大きな意味がある。

 同映画の公開にあたり、35年以上にわたり原爆詩の朗読活動を行う、俳優の吉永小百合も応援コメントを寄せている。

 「2015年の夏、長崎で私は谷口さんのスピーチ『平和への誓い』を聴きました。被爆後1年半以上もうつぶせのまま治療を受けていた谷口さん。核兵器廃絶への強い思いに、私は胸がいっぱいになりました。『長崎の郵便配達』を多くの方たちに観ていただきたい。そして核兵器の無い世界の実現のために、みんなで努力できたらと願っています」(吉永小百合)


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  • ドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』(公開中) 本編映像より、2015年にNYの国連本部で開催された「核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議」でスピーチをする谷口稜曄さん(C)The Postman from Nagasaki Film Partners

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