「第75回カンヌ国際映画祭」オフィシャルセレクション「ある視点」部門正式出品され、カメラドール(新人賞)スペシャルペンション(特別表彰)を受けた映画『PLAN 75』(早川千絵監督)。少子高齢化が一層進み、満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が人々の間で定着しつつある近い将来の日本を描いた物語。6月17日の公開から約1ヶ月で興行収入2.8億円を突破し、上映館も170館を超えるなど、反響を呼んでいる。
国連のデータによると、日本の高齢化率(65歳以上人口割合)はダントツで世界のトップなのだが、平均寿命の延伸と出生率の低下によって人口高齢化は地球規模で進行していることもあり、カンヌから全世界に一石を投じた映画でもある。
カンヌで表彰された5月29日(日本時間)以降、YouTube「オリコン洋画館」にアップしていた同映画の予告編の視聴回数は急増。視聴者の内訳は、男性41.3%、女性58.7%。年齢別では、45〜54歳が最も多く23.3%、以下、55〜64歳(20.9%)、65歳以上(20.5%)、35〜44歳(13.8%)、25〜34歳(13.2%)、18〜24歳(8.1%)となっている(4月25日〜7月28日の期間、視聴回数14.8万回)。
また、210件以上のコメントが寄せられ、「このプラン今の日本にはいいかもね」「僕個人的にはPLAN75の様な制度が有っても良いのではないかと思っています」「老後破産とか、老後貧乏とかで苦しんで生きるよりも良いのかもしれない」「30代ですけど割とコレいい制度だと思う」と、“架空の制度”への肯定的な意見が多く見られた。
そして、映画鑑賞後に、「行き場のない独居老人の有様がリアル過ぎて、他人事と思えない映画でした。(中略)自分の数十年後を心配せずにはいられませんでした」「将来不安を抱えながら生きている自分にとって身につまされる内容だった。(以下略)」「予告編見た時は『自分で死を選べるなんていい制度じゃん、自分が高齢者になったら迷惑かけたくないしこうなってればいいのに♪』って呑気に思ってたけど 実際劇場で見たらそんな単純な話じゃないことが分かって頭殴られたようなショック受けた 私みたいな浅はかな考えを見透かされてるような映画だった」と書き込んでくれた人も。
こうしたコメントから何が読み取れるのか? 『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス)など、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わり、その知見から多数の一般著書を刊行し、評論家としても活躍する精神科医師の和田秀樹氏に話を聞いた。
――「満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>」があってもいいのでは?と言ったコメントを見て、どう思いますか?
【和田】75歳になったらどうなるか、若い人ほど想像がつかないと思うんですよね。病気になっていそう、介護が必要になっていそう、認知症を患っていそう、という想像はできる。でも、いざ、75歳まで生きてみると、それほどおじいちゃん・おばあちゃんでもない人はたくさんいる。というか、老いは平等にやってくるけど、みんな同じように老いるわけじゃなくて、年をとればとるほど個人差は大きくなるんです。
例えば、小学生が50メートル走をしたら、速い子で6秒ぐらい、遅い子でも15秒はかからないはずです。だけど、年を取ってくると、80代後半で100メートルを15秒台で走る人もいれば、寝たきりの人もいる。それくらい個人差が出てくるんです。
1970年の国勢調査で人口の7%が高齢者になって「高齢化社会」と言われるようになり、94年の人口推計(総務省統計局、以下同)で高齢化率が14%を超え、日本は「高齢社会」になりました。2007年に高齢化率が21%超えて「超高齢社会」に、19年に28.8%となったので「超超高齢社会」なのですが、この50年で高齢者がどんどん増えていった一方で、核家族化も進んで、おじいちゃん・おばあちゃんと同居していない人が増え、年をとるとどうなるのか、どう衰えていくのか、逆にどれくらい元気なのか、イメージできない人も多いのではないでしょうか。
高齢期の実態がよくわかっていないから、“満75歳になったら、後はいつでも死にたいと思ったら死んでいい、行政がサポートします”と聞いて、いい制度なんじゃないか、と反応してしまうのもわかる気がします。
――1988年から精神科医として高齢者医療の現場に携わっている和田先生は、「満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>」という映画の設定をどう思いますか?
【和田】すでに終末期医療の現場では、生死の選択を迫られているわけで、衝撃的でもなんでもないのですが、この国では議論が十分になされていないことが問題なんですよね。すでに自分で意思決定を実行できない状態にある患者の延命治療はどうするのか。生き続けた人がいる一方で、延命治療が始まると中止することは容易ではないですし、医療費だってかかります。
若い頃は寝たきりになるくらいなら、死んだほうがマシだと思っていても、いざそうなってみたら死にたくないと思うかもしれない。リビングウィルを用意していたとしても、いざそうなってみたら、延命治療を受けてでも生きていたいと思うかもしれない。気が変わった時はどうするのか、といったことも含めて、考えられていないんですよ。どう生きたいと思っているのか、人生の最期をどう迎えたいのか、50代、60代の元気なうちから考え、伝え、残しておくことが大事だと思います。
――日本では「縁起でもないことを言わないで」と、死について語ることはタブー視され、家庭でも公でも、考える機会がほとんどないかもしれないですね。最近は「終活」がブームとなり、和田先生が執筆された高齢者向けの本もベストセラーを連発しています。映画『PLAN 75』も考えるきっかけを与えてくれるものだったからこそ、ヒットしているのかもしれません。
【和田】高齢者医療に携わって約30年、6000人くらいの高齢者と向き合ってきて、人生の最期に後悔しないように生きてほしいという思いから本を書いてきました。健康診断を受けて異常値が出たとして、医師の言いつけを守って脂っこいものやしょっぱいものを我慢するのもありだし、寿命が縮んでもいいから好きなものを我慢しないで生きたいという選択もある。人それぞれ自由でいいんですけど、僕の実感としてあるのは、高齢者にとって大事なのは「長生きすること」よりも、「元気でいること」。
『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』では若さを維持する人と一気に衰える人の差は70代の過ごし方にかかっていますというメッセージを込めて、実践的な習慣や心がけ、健康法について書きました。高齢者やその予備軍に多く読んでいただいているということは、みんな関心のあることだったんだなと思います。
――『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』の中で、「いまの70代、80代がはっきり言いたいことを言って、どんどん進展していく超高齢社会に道すじをつけなければ、年齢を重ねるほど我慢を強いられる世の中になってしまうような気がします」と書かれていますが、年齢を重ねることにポジティブになれる世の中になれば、<プラン45>でも<プラン30>でもいい、と書き込んでいた人にとっても希望になると思いました。
【和田】数年前、医学部の入試で女性受験者を差別していたことが発覚して騒動になったけれど、浪人を重ねた男子受験者にも不利になる点数操作をしていた。日本は、大学は現役、就職は新卒、それで失敗したら負け組、みたいな風潮が根強くて、逆転は起こりにくいと思っている人も多いと思うけど、高齢期を「元気に生きられれば」逆転できますからね。寝たきりになってしまったら学歴や地位は役に立たない。年をとればその日その日を楽しむということに価値が出てくるわけだから、脳と身体の機能さえ健全なら、人生の最終コーナーで逆転できるってことを若い人にも知ってもらいたい。いずれにせよ、最期に後悔しないように生きてほしいですよね。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
国連のデータによると、日本の高齢化率(65歳以上人口割合)はダントツで世界のトップなのだが、平均寿命の延伸と出生率の低下によって人口高齢化は地球規模で進行していることもあり、カンヌから全世界に一石を投じた映画でもある。
カンヌで表彰された5月29日(日本時間)以降、YouTube「オリコン洋画館」にアップしていた同映画の予告編の視聴回数は急増。視聴者の内訳は、男性41.3%、女性58.7%。年齢別では、45〜54歳が最も多く23.3%、以下、55〜64歳(20.9%)、65歳以上(20.5%)、35〜44歳(13.8%)、25〜34歳(13.2%)、18〜24歳(8.1%)となっている(4月25日〜7月28日の期間、視聴回数14.8万回)。
また、210件以上のコメントが寄せられ、「このプラン今の日本にはいいかもね」「僕個人的にはPLAN75の様な制度が有っても良いのではないかと思っています」「老後破産とか、老後貧乏とかで苦しんで生きるよりも良いのかもしれない」「30代ですけど割とコレいい制度だと思う」と、“架空の制度”への肯定的な意見が多く見られた。
そして、映画鑑賞後に、「行き場のない独居老人の有様がリアル過ぎて、他人事と思えない映画でした。(中略)自分の数十年後を心配せずにはいられませんでした」「将来不安を抱えながら生きている自分にとって身につまされる内容だった。(以下略)」「予告編見た時は『自分で死を選べるなんていい制度じゃん、自分が高齢者になったら迷惑かけたくないしこうなってればいいのに♪』って呑気に思ってたけど 実際劇場で見たらそんな単純な話じゃないことが分かって頭殴られたようなショック受けた 私みたいな浅はかな考えを見透かされてるような映画だった」と書き込んでくれた人も。
こうしたコメントから何が読み取れるのか? 『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス)など、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わり、その知見から多数の一般著書を刊行し、評論家としても活躍する精神科医師の和田秀樹氏に話を聞いた。
――「満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>」があってもいいのでは?と言ったコメントを見て、どう思いますか?
【和田】75歳になったらどうなるか、若い人ほど想像がつかないと思うんですよね。病気になっていそう、介護が必要になっていそう、認知症を患っていそう、という想像はできる。でも、いざ、75歳まで生きてみると、それほどおじいちゃん・おばあちゃんでもない人はたくさんいる。というか、老いは平等にやってくるけど、みんな同じように老いるわけじゃなくて、年をとればとるほど個人差は大きくなるんです。
例えば、小学生が50メートル走をしたら、速い子で6秒ぐらい、遅い子でも15秒はかからないはずです。だけど、年を取ってくると、80代後半で100メートルを15秒台で走る人もいれば、寝たきりの人もいる。それくらい個人差が出てくるんです。
1970年の国勢調査で人口の7%が高齢者になって「高齢化社会」と言われるようになり、94年の人口推計(総務省統計局、以下同)で高齢化率が14%を超え、日本は「高齢社会」になりました。2007年に高齢化率が21%超えて「超高齢社会」に、19年に28.8%となったので「超超高齢社会」なのですが、この50年で高齢者がどんどん増えていった一方で、核家族化も進んで、おじいちゃん・おばあちゃんと同居していない人が増え、年をとるとどうなるのか、どう衰えていくのか、逆にどれくらい元気なのか、イメージできない人も多いのではないでしょうか。
高齢期の実態がよくわかっていないから、“満75歳になったら、後はいつでも死にたいと思ったら死んでいい、行政がサポートします”と聞いて、いい制度なんじゃないか、と反応してしまうのもわかる気がします。
――1988年から精神科医として高齢者医療の現場に携わっている和田先生は、「満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>」という映画の設定をどう思いますか?
【和田】すでに終末期医療の現場では、生死の選択を迫られているわけで、衝撃的でもなんでもないのですが、この国では議論が十分になされていないことが問題なんですよね。すでに自分で意思決定を実行できない状態にある患者の延命治療はどうするのか。生き続けた人がいる一方で、延命治療が始まると中止することは容易ではないですし、医療費だってかかります。
若い頃は寝たきりになるくらいなら、死んだほうがマシだと思っていても、いざそうなってみたら死にたくないと思うかもしれない。リビングウィルを用意していたとしても、いざそうなってみたら、延命治療を受けてでも生きていたいと思うかもしれない。気が変わった時はどうするのか、といったことも含めて、考えられていないんですよ。どう生きたいと思っているのか、人生の最期をどう迎えたいのか、50代、60代の元気なうちから考え、伝え、残しておくことが大事だと思います。
――日本では「縁起でもないことを言わないで」と、死について語ることはタブー視され、家庭でも公でも、考える機会がほとんどないかもしれないですね。最近は「終活」がブームとなり、和田先生が執筆された高齢者向けの本もベストセラーを連発しています。映画『PLAN 75』も考えるきっかけを与えてくれるものだったからこそ、ヒットしているのかもしれません。
【和田】高齢者医療に携わって約30年、6000人くらいの高齢者と向き合ってきて、人生の最期に後悔しないように生きてほしいという思いから本を書いてきました。健康診断を受けて異常値が出たとして、医師の言いつけを守って脂っこいものやしょっぱいものを我慢するのもありだし、寿命が縮んでもいいから好きなものを我慢しないで生きたいという選択もある。人それぞれ自由でいいんですけど、僕の実感としてあるのは、高齢者にとって大事なのは「長生きすること」よりも、「元気でいること」。
『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』では若さを維持する人と一気に衰える人の差は70代の過ごし方にかかっていますというメッセージを込めて、実践的な習慣や心がけ、健康法について書きました。高齢者やその予備軍に多く読んでいただいているということは、みんな関心のあることだったんだなと思います。
――『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』の中で、「いまの70代、80代がはっきり言いたいことを言って、どんどん進展していく超高齢社会に道すじをつけなければ、年齢を重ねるほど我慢を強いられる世の中になってしまうような気がします」と書かれていますが、年齢を重ねることにポジティブになれる世の中になれば、<プラン45>でも<プラン30>でもいい、と書き込んでいた人にとっても希望になると思いました。
【和田】数年前、医学部の入試で女性受験者を差別していたことが発覚して騒動になったけれど、浪人を重ねた男子受験者にも不利になる点数操作をしていた。日本は、大学は現役、就職は新卒、それで失敗したら負け組、みたいな風潮が根強くて、逆転は起こりにくいと思っている人も多いと思うけど、高齢期を「元気に生きられれば」逆転できますからね。寝たきりになってしまったら学歴や地位は役に立たない。年をとればその日その日を楽しむということに価値が出てくるわけだから、脳と身体の機能さえ健全なら、人生の最終コーナーで逆転できるってことを若い人にも知ってもらいたい。いずれにせよ、最期に後悔しないように生きてほしいですよね。
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このニュースの流れをチェック
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2022/07/29