日本の家電業界は元気がない、そう言われて久しい昨今。そんななか、ネッククーラーやおひとりさま用の弁当箱炊飯器など、アイデア家電でヒットを飛ばしている会社がある。個性的な商品たちは、SNSや『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)などのメディアでも取り上げられ、「その発想はなかった!」と目からウロコの反響を集めている。この会社があるのは、かつて電気街として名を馳せた秋葉原。“世界最小の家電メーカー”はいかにして躍進したのか。商品柄、尖った人物かと思いきや至って「普通の人」であるという、サンコー株式会社の山光博康社長に聞いた。
■“世界最小”なのに年間100の新商品、「ゼロからイチを生み出せることなんて、めったにない」
2003年に創業し、秋葉原を拠点にアイデアグッズやおもしろ家電をネット中心に販売してきた同社。生み出される商品は、日常生活のかゆいところに手が届くオリジナリティに溢れたものが多く、コアなファンを獲得した。猛暑の夏の必須アイテムとなった「ネッククーラー」、コロナ禍でも自宅で焼き鳥が楽しめる「自家製焼き鳥メーカー」、さらにはいつでも簡単に炊き立て御飯が食べられる「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」などは生産が追いつかないほど飛ぶように売れたという。
「従来は大手メーカーさんがマスメディアを通じてドカンと商品を出して、それをユーザーが認識していくという方法でしたが、インターネットの普及によって、一人一人が情報を簡単に得られるようになりました。SNSで情報を共有し合えることで、『これはいいね』というものが急速に伝わりやすくなっています。商品発想の原点も、『どういうものをマーケットに出せば反応してもらえるか?』というところにあります」。
「あったら便利だな」と思う人が多ければ多いほど、需要は高まる。それが世の中になければ、マーケットに出たときの反響は大きくなる。言葉で言うのは簡単だが、そんな商品を同社では、年間100近く発売する。単純計算すれば週に2商品だ。一体、どうやって生み出しているのだろうか――。
「厳密に計算されたマーケットデータを元に、ということではまったくないのです。動物的な勘といいますか、なんとなく肌感覚でお客さんの嗜好性というものを経験値として捉えているというのが正直なところ。データを精査しても、そこから導き出されるのは8割〜9割だと思うのです。ならば、データにないものを発信することが大事。『よくそんなに企画が出ますね』と言われることもあるのですが、本当の意味でゼロからイチを生み出せることなんて、めったにない。もともとゼロではなく、0.01とか0.001とかみたいなものがあって、少しずつ発想を変えたりして膨らませていく作業がほとんど。だから、“種”になるものを広く集めることが重要なんです」。
企画の“種”は社員みんなで出し合うこと。そこにもサンコーなりの培ってきたものがあるという。
「社員は年齢も性別もバラバラなので、まずは提案しやすいような環境を作ること。そこには報奨だったり、商品化されてヒットしたときに自分の手柄だとしっかり言えるような形を作ったり。でもやはり、週一で提案してもらうのは非常にハードルが高い。些細なことでも気になったことを心に留めておいてもらって、出してもらうというスタンスです」。
企画の種を実現するために大切なのが、作り手の視点ではなく、マーケットニーズで捉えること。だが、同社の商品が「おもしろい」「これまでにない」と反響を集めたせいで、プレッシャーを感じることもあるという。そのバランスはどう取っているのか。
「もちろん熱意は重要ですが、作り手の思いが強すぎると視野が狭くなり、ターゲットが狭まってしまいます。みなさんから期待されることで、『もっと尖ったものにしなくては!』という声も出ますが、ニッチな方に行き過ぎたら売れなくなるじゃないかと(笑)。ビジネスですから、ニーズのありか、コストも含めてそのバランスは重要です」
■ほとんどハズさない中で厳しかった『電動うちわ』、「まだ諦めてません」
これまで世に送り出してきた商品は枚挙にいとまがないが、ほとんどが採算をクリアしているという。
「オリジナル商品は全体の10%くらいで、その他90%は、日本では販売されていないような商品を海外から調達したもの。とはいえ、売上の8割以上がオリジナル商品なので、その意味でほとんどハズしていないと思います。発売した瞬間に売り切ってしまうものもありますが、時間が掛かるものもある。そうした商品も、少しコンセプトを入れ替えることで、じわじわと結果が出ることが多いですね」。
「ハズれがない」なか、予想をはるかに超えてヒットした商品も多い。
「『ネッククーラー』や『おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器』は、想定よりもはるかに売れました。あとは『俺のラーメン鍋』(袋麺専用設計で温度調整機能付き、そのまま食べられるラーメン鍋)というものを最近発売したのですが、すぐに1万個ほど売り切ってしまって、あと1万個追加しました。家電はだいたい3000〜5000個を緩やかなペースで売っていくのですが、『〜炊飯器』などは1年ちょっとで十数万個売れています」。
逆に、期待まで届かなかった商品もあるのだろうか。
「『電動うちわ』はちょっと難しかったですね。どうもウケ狙いと認識されてしまったようで。でもうちの商品は改良を重ねていくものなので、次のモデルで起死回生を狙っています。まだ諦めていません(笑)」。
マーケットニーズに沿った商品開発という意味で、いま注目しているキーワードが「プチぜいたく」だという。
「時短やおひとりさま向け商品は多いですが、私たちは『家電を使って過ごす時間を価値のあるものにする』というコンセプトを大切にしています。例えば『自家製焼き鳥メーカー』なども、自分の好みの焦げ目で焼くという時間自体がプライスレスになる。そこにはお金を使っていただけるのかなと考えています」。
社会の変化、生活する人の心の変化――。そこに寄り添うから、商品を使って満足した人が、さらに伝えたくなる。『王様のブランチ』(TBS系)や『タモリ倶楽部』などで商品が取り上げられ、売上が跳ね上がったこともあった。
「番組にしてもSNSにしても、こちらから仕掛けたのではなく、商品を良いと思ったからこそ自然に取り上げてくれる。これが最も効果のあることだと思っています。もちろん、番組などで取り上げられると、社内の士気も爆上がりしますし、開発した人間のやりがいにもなります(笑)」。
そんな同社は“世界最小の家電メーカー”と言われているが、いまは家電だけにこだわっているわけではない。
「『うつぶせ寝クッション』や『仰向けゴロ寝デスク』など、おうち生活を便利にするような家具なども販売しています。こうして変化していくのは、時代によって変わっていく秋葉原に会社があることも関係しているかもしれません。以前は電気の街でしたが、いまは新しいものが生まれる場所。『おかえりなさいませ、ご主人さま』というお店が増えたのも、とても新鮮でした。うちが今後メイド喫茶をやるかどうかはわかりませんが(笑)、お客さまを喜ばせるサービスにも興味を持っています」。
創業19年を迎えたが、まだまだ歩みを止めないという山光社長。今回、書籍『スキを突く経営〜面白家電のサンコーはなぜ受けるのか〜』(集英社インターナショナル新書)を発表したことで、社内で社長を見る目が変わったという。
「まったく威圧的なタイプではなく、本当に普通の人なのですが。結構ビビられているみたいなので(笑)、この本を出したことで親近感を持ってもらえたのかなと思っています。本を読んで、我々と一緒に働いてみたいという方がいたらいいなと思う一方で、起業しようと考える方のヒントになればという思いもあります。書いたことがそのまま役に立つとは思っていませんが、なにかの参考にしていただけたら嬉しいですね」。
(文:磯部正和)
■“世界最小”なのに年間100の新商品、「ゼロからイチを生み出せることなんて、めったにない」
2003年に創業し、秋葉原を拠点にアイデアグッズやおもしろ家電をネット中心に販売してきた同社。生み出される商品は、日常生活のかゆいところに手が届くオリジナリティに溢れたものが多く、コアなファンを獲得した。猛暑の夏の必須アイテムとなった「ネッククーラー」、コロナ禍でも自宅で焼き鳥が楽しめる「自家製焼き鳥メーカー」、さらにはいつでも簡単に炊き立て御飯が食べられる「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」などは生産が追いつかないほど飛ぶように売れたという。
「従来は大手メーカーさんがマスメディアを通じてドカンと商品を出して、それをユーザーが認識していくという方法でしたが、インターネットの普及によって、一人一人が情報を簡単に得られるようになりました。SNSで情報を共有し合えることで、『これはいいね』というものが急速に伝わりやすくなっています。商品発想の原点も、『どういうものをマーケットに出せば反応してもらえるか?』というところにあります」。
「あったら便利だな」と思う人が多ければ多いほど、需要は高まる。それが世の中になければ、マーケットに出たときの反響は大きくなる。言葉で言うのは簡単だが、そんな商品を同社では、年間100近く発売する。単純計算すれば週に2商品だ。一体、どうやって生み出しているのだろうか――。
「厳密に計算されたマーケットデータを元に、ということではまったくないのです。動物的な勘といいますか、なんとなく肌感覚でお客さんの嗜好性というものを経験値として捉えているというのが正直なところ。データを精査しても、そこから導き出されるのは8割〜9割だと思うのです。ならば、データにないものを発信することが大事。『よくそんなに企画が出ますね』と言われることもあるのですが、本当の意味でゼロからイチを生み出せることなんて、めったにない。もともとゼロではなく、0.01とか0.001とかみたいなものがあって、少しずつ発想を変えたりして膨らませていく作業がほとんど。だから、“種”になるものを広く集めることが重要なんです」。
「社員は年齢も性別もバラバラなので、まずは提案しやすいような環境を作ること。そこには報奨だったり、商品化されてヒットしたときに自分の手柄だとしっかり言えるような形を作ったり。でもやはり、週一で提案してもらうのは非常にハードルが高い。些細なことでも気になったことを心に留めておいてもらって、出してもらうというスタンスです」。
企画の種を実現するために大切なのが、作り手の視点ではなく、マーケットニーズで捉えること。だが、同社の商品が「おもしろい」「これまでにない」と反響を集めたせいで、プレッシャーを感じることもあるという。そのバランスはどう取っているのか。
「もちろん熱意は重要ですが、作り手の思いが強すぎると視野が狭くなり、ターゲットが狭まってしまいます。みなさんから期待されることで、『もっと尖ったものにしなくては!』という声も出ますが、ニッチな方に行き過ぎたら売れなくなるじゃないかと(笑)。ビジネスですから、ニーズのありか、コストも含めてそのバランスは重要です」
■ほとんどハズさない中で厳しかった『電動うちわ』、「まだ諦めてません」
これまで世に送り出してきた商品は枚挙にいとまがないが、ほとんどが採算をクリアしているという。
「オリジナル商品は全体の10%くらいで、その他90%は、日本では販売されていないような商品を海外から調達したもの。とはいえ、売上の8割以上がオリジナル商品なので、その意味でほとんどハズしていないと思います。発売した瞬間に売り切ってしまうものもありますが、時間が掛かるものもある。そうした商品も、少しコンセプトを入れ替えることで、じわじわと結果が出ることが多いですね」。
「ハズれがない」なか、予想をはるかに超えてヒットした商品も多い。
「『ネッククーラー』や『おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器』は、想定よりもはるかに売れました。あとは『俺のラーメン鍋』(袋麺専用設計で温度調整機能付き、そのまま食べられるラーメン鍋)というものを最近発売したのですが、すぐに1万個ほど売り切ってしまって、あと1万個追加しました。家電はだいたい3000〜5000個を緩やかなペースで売っていくのですが、『〜炊飯器』などは1年ちょっとで十数万個売れています」。
逆に、期待まで届かなかった商品もあるのだろうか。
「『電動うちわ』はちょっと難しかったですね。どうもウケ狙いと認識されてしまったようで。でもうちの商品は改良を重ねていくものなので、次のモデルで起死回生を狙っています。まだ諦めていません(笑)」。
マーケットニーズに沿った商品開発という意味で、いま注目しているキーワードが「プチぜいたく」だという。
「時短やおひとりさま向け商品は多いですが、私たちは『家電を使って過ごす時間を価値のあるものにする』というコンセプトを大切にしています。例えば『自家製焼き鳥メーカー』なども、自分の好みの焦げ目で焼くという時間自体がプライスレスになる。そこにはお金を使っていただけるのかなと考えています」。
社会の変化、生活する人の心の変化――。そこに寄り添うから、商品を使って満足した人が、さらに伝えたくなる。『王様のブランチ』(TBS系)や『タモリ倶楽部』などで商品が取り上げられ、売上が跳ね上がったこともあった。
「番組にしてもSNSにしても、こちらから仕掛けたのではなく、商品を良いと思ったからこそ自然に取り上げてくれる。これが最も効果のあることだと思っています。もちろん、番組などで取り上げられると、社内の士気も爆上がりしますし、開発した人間のやりがいにもなります(笑)」。
そんな同社は“世界最小の家電メーカー”と言われているが、いまは家電だけにこだわっているわけではない。
「『うつぶせ寝クッション』や『仰向けゴロ寝デスク』など、おうち生活を便利にするような家具なども販売しています。こうして変化していくのは、時代によって変わっていく秋葉原に会社があることも関係しているかもしれません。以前は電気の街でしたが、いまは新しいものが生まれる場所。『おかえりなさいませ、ご主人さま』というお店が増えたのも、とても新鮮でした。うちが今後メイド喫茶をやるかどうかはわかりませんが(笑)、お客さまを喜ばせるサービスにも興味を持っています」。
創業19年を迎えたが、まだまだ歩みを止めないという山光社長。今回、書籍『スキを突く経営〜面白家電のサンコーはなぜ受けるのか〜』(集英社インターナショナル新書)を発表したことで、社内で社長を見る目が変わったという。
「まったく威圧的なタイプではなく、本当に普通の人なのですが。結構ビビられているみたいなので(笑)、この本を出したことで親近感を持ってもらえたのかなと思っています。本を読んで、我々と一緒に働いてみたいという方がいたらいいなと思う一方で、起業しようと考える方のヒントになればという思いもあります。書いたことがそのまま役に立つとは思っていませんが、なにかの参考にしていただけたら嬉しいですね」。
(文:磯部正和)
2022/07/21