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“隠す”から“拡散”へ 『E.T.』40周年特別上映で明かされた映画宣伝の変化

 宇宙人(E.T.)と少年エリオットの心の交流を描いた、スティーブン・スピルバーグ監督による不朽のSFファンタジー『E.T.』(日本公開82年)。BMXの前カゴにE.T.を乗せたエリオットが、夜空を飛翔して大きな満月を横切るシーンは、本編を見たことがない人でもたやすく思い浮かべられるはず。真似する子どもたちが続出した作品きってのこの名シーンで、主人公のエリオットが操るこのBMXは、実は日本の自転車メーカー「クワハラ」ブランドのバイクだった。

スティーブン・スピルバーグ監督作品『E.T.』製作40周年を記念したトークイベントの登壇者 (左から)桑原崇氏、浪川大輔、大森淳男氏

スティーブン・スピルバーグ監督作品『E.T.』製作40周年を記念したトークイベントの登壇者 (左から)桑原崇氏、浪川大輔、大森淳男氏

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 その『E.T.』の製作40周年とアースデイを記念して4月22日、オリジナル版での特別上映イベントが東京・丸の内ピカデリーで開催された。40年前の映画が公開日に因んでのイベントであったが、奇しくもこの日、日本で初開催された世界最高峰のアクションスポーツの国際大会「X GAMES Chiba」(千葉・幕張)、日本の早川紀生が“BMX フラットランド”で金メダルを獲得した。今や国内外を問わず大人気のBMXだが、その存在が日本でも認知されるきっかけとなった映画の特別上映と重なったというのは、不思議なめぐり合わせというほかないだろう。

 特別上映前のトークイベントには、本作にまつわるスペシャル・ゲストとして、公開当時の配給元で宣伝を担当した元UIP映画宣伝部長・大森淳男氏、劇中に登場するBMXを提供した自転車メーカー・桑原インターナショナル社長・桑原崇氏、そして吹替版で主役エリオットの声を担当した声優の浪川大輔の3名が登場。エリオットを意識した赤いパーカーを着た浪川を中心に、公開当時の貴重なエピソードや作品に寄せる思いが語られた。

映画『E.T.』(C)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.

映画『E.T.』(C)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.

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■E.T.の姿を隠せ!宣伝方法も話題を集め大ブームに

 『E.T.』は公開当時、『スター・ウォーズ』(77)を抜いて全世界で史上最高の興行収入を更新、第55回アカデミー賞では音響効果賞など4部門を受賞した。国内でも『もののけ姫』(97)に記録を塗り替えられるまで約15年にわたって歴代興行収入1位に君臨し続け、今でも映画リクエスト企画で上位にランクインするなど、日本人にも馴染み深い作品だ。そんな社会現象ともなった大ヒット作は、現在では考えられないような宣伝手法がとられていた。今や映画の宣伝はSNSを活用した情報拡散が当たり前となってるが、『E.T.』の国内での公開は、アメリカでの公開日6月11日から半年ほど遅れること12月4日。それまでの間、シルエットと指先だけのポスターなど、公開までE.T.の造形を徹底して伏せられるという、今とは真逆の宣伝スタイルだった。「40年前はPCもスマホもない時代。E.T.のキャラクターがポイントの作品ですので、写真を最後まで伏せることで、期待感や飢餓感がより膨らむようにしました」(大森)。インターネットが発達しておらず、海外からの情報もマスメディアの外電に限られる時代だからこそ可能な戦略だった。

 その大胆な宣伝手法が功を奏し、公開初日から全国の映画館には、映画をいち早く観たいという人々が押し寄せた。名画座などを除けば、シネコンに代表される現在の映画館は全席指定の入替制が主流。だが、40年前は限られた一部の指定席を除き自由席、入退場の入替もないため、気に入れば何度でも繰り返し観ることが可能だった。この夜の会場の丸の内ピカデリーは、当時と場所こそ異なるものの、公開当時の封切館。つまり『E.T.』の聖地で開催された凱旋上映となった。大森は「1回の上映に2000人近くは入っていたでしょう。丸の内ピカデリーの周囲から人の波が途切れることなく、立ち見はもちろん、通路まで人が座って見る」ような状態だったと、公開当時の喧騒ぶりを振り返った。『E.T.』を立ち見で見た覚えがあるという浪川も「子どもながらに感動しました。実際にE.T.はいるんじゃないかと思うくらい面白い映画でした。E.T.の真似もよくしていましたね」と懐かしんだ。

不朽の名作『E.T.』の名セリフのアフレコ秘話を語った声優の浪川大輔

不朽の名作『E.T.』の名セリフのアフレコ秘話を語った声優の浪川大輔

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■浪川大輔が吹替で感じた子役あるあるの一場面

 浪川がエリオットの声を担当したのは、実は公開からしばらく経ってから。今でこそハリウッドの大作は字幕版、吹替版ともに公開されるようになったが、当時の洋画は字幕版のみの公開が一般的だった。吹替版はビデオソフト化、テレビ放送まで待つしかなかった。後年、『E.T.』のビデオソフトのリリースにあたり、まだ小学生だった浪川が初めてエリオットの声優として起用されたのだ。機材もまだアナログの時代、今のようにデジタル音源を、インターネットを介して海外に即座に送れるような技術はない。「スピルバーグ監督が吹替版の声優を決めるということで、僕の声も録音したテープを船便で2週間くらいかけてアメリカに送ったそうですが、ボイスマッチ(実演者との声質が合っているかを判断)したのがたまたま僕の声だったんです。この作品をきっかけにいろいろな作品で子役の吹き替えをやらせていただけるようになり、僕にとって『E.T.』は大きなキャリアとなった作品です」(浪川)

 数えきれないほどの名シーン、名セリフがあるなかで、浪川にとって忘れられない難しかったシーンが1つあるという。「E.T.が死にそうになる場面があって、エリオットがE.T.に向かって『君はどこかへ行っちゃうの? 僕は君のことを一生忘れないよ、死ぬまで。E.T.愛しているよ』と言うんですけれど、日本の子どもはなかなか『愛しているよ』や『一生忘れない、死ぬまで』とは口にしないですよね。それを自然に言わなくてはならないところに吹替の難しさを感じました。でも、幼いながらもいいシーンなので気持ちを込めてやらせていただきました」と、「吹替あるある、子役あるある」なカルチャーギャップがあったことを披露した。

映画『E.T.』(C)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.

映画『E.T.』(C)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.

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■復刻版BMXの発売、地上波での放送も決定

 桑原インターナショナルの桑原社長は、公開当時10歳。「E.T.より先にBMXに乗っています」と会場を笑わせたが、世間を騒がす大ヒット映画に、家業で生産する自転車が使われていることに正直ピンときていなかったという。自社のBMXが採用された背景を「当時、BMXをアメリカに輸出していたんです。全米を転戦するレーシングチームもあり、子供たちが憧れる有名選手が所属していました。スピルバーグ監督が撮影に入る前に、自宅の前にいる子どもたちにどこの自転車がよいのかを尋ねたら、「クワハラ」と口を揃えて答えたそうです。そこでアメリカの代理店に連絡が入ったというわけです。とりあえず25台を送れということになったのですが、情報公開の制限もあり、正直、日本で劇場公開されるまでどういう映画で使われているのか社内では誰も知りませんでした」と当時の裏話を明かした。

劇中に使用されたBMXを忠実に再現した復刻版モデル「E.T.40(イーティー・フォーティ)」発売

劇中に使用されたBMXを忠実に再現した復刻版モデル「E.T.40(イーティー・フォーティ)」発売

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 『E.T.』が公開された80年代は「国内ではまだBMXは一般的ではありませんでした」(桑原)というが、『E.T.』の公開を機に大きな注目を浴びた「クワハラ」のBMXは、現在に至るまで国内外のBMXの隆盛の一翼を担ってきた。22年秋には、劇中に使用されたBMXを忠実に再現した復刻版モデル「E.T.40(イーティー・フォーティ)」が発売されることもこの日発表された。フレームをイチから作り直し、パイプの材質も変更し、80年代よりクオリティーがグレードアップしたバイクになるというから、子どもたちや若者をはじめ、当時、憧れの眼差しを向けた今の中高年世代がBMXに改めて挑んでみるのも楽しそうだ。

 会場にはE.T.をカゴに乗せた「クワハラ」のBMXと記念撮影できるフォトスポットも設けられ、多くの観客が上映前後にE.T.と撮影を楽しむ姿が見られた。かつての場面写真を伏せる宣伝方法からSNSを活用した積極的な情報拡散へ。映画宣伝の手法はこの40年間ですっかり様変わりしたが、コロナ禍や戦争など辛い出来事が報じられる現在、心の絆、ヒューマニティを訴える『E.T.』は、今見ても作品から受ける新鮮な驚きと感動は失われず、その価値は輝きを増していくようだ。40周年を記念して、5月14日にはフジテレビ系でも地上波放送される。浪川はイベントの最後にこう締めくくった。「この作品の吹替をした頃の声はもう出ませんが、名作はこの先ずっと40年も50年も残っていくもの。見る機会のなかった方もこの機会にぜひご覧いただき、心に刻んでほしい」

『E.T.』フジテレビ・土曜プレミアムで5月14日放送(C) 1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

『E.T.』フジテレビ・土曜プレミアムで5月14日放送(C) 1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

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文・桑原雄太

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https://nbcuni.co.jp/et-goods/

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