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最高の非日常感を味わう ライブ・エンタメ空間は新たなフェーズへ

 ポスト・コロナを見据えるかのように、ぴあアリーナMM(2020年オープン)、東京ガーデンシアター(同)、Kアリーナ横浜(23年秋オープン予定)と、新しいライブ会場が続々に開業、もしくは予定されている。いずれも、従来の同クラスの会場よりもアーティストとの距離感の近さや、客席からのステージの見やすさが大きな特徴となっている。コロナ禍でライブ・エンタテインメントが足踏みせざるを得なかった2年間に、会場、そしてライブ演出もさまざまな進化を遂げているようだ。

ぴあアリーナMMにて開催された『PIA MUSIC COMPLEX 2021 -ぴあフェス-』(21年10月)

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■ライブ感を追求した音楽特化型アリーナ続々開業の理由

 ぴあアリーナMM構想が立ち上がったのは10年代半ば。当時、音楽ライブの市場規模は5年間ほどで倍に跳ね上がったが、アリーナ規模の公演数はそこまで伸びていなかった。その理由は会場不足で、さらに東京五輪前後には問題が深刻化するだろうと予測されていた。

「市場が伸びていて、さらにニーズがある。それならば我々がホール事業にトライする価値は十分にあると考えたんです。そうした経緯もあり、当初から、音楽に最適化した会場を作ることを大前提としていました」(ぴあ アリーナ事業創造部部長・鈴木悠太氏/以下同)

コロナ禍に開業した音楽特化型アリーナ・ぴあアリーナMM

コロナ禍に開業した音楽特化型アリーナ・ぴあアリーナMM

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 同社が設計段階から重要視したのがライブ感。それを実現するために自ずと導き出されたキーワードが、ステージとの距離感だった。そこで、一般的なアリーナで採用されているすり鉢状構造ではなく、地上4階までスタンド席を積み重ねるように配置した箱型構造とすることで、同アリーナはステージをより近くに感じられる作りとなっている。

 座席に関しても、会場全体の一体感が得られやすいように、隣席と近すぎず、かつ離れすぎない距離を吟味。さらに設計段階では、VRなどを活用して前席に高身長の人が座った場合、あるいは立った場合のシミュレーションを行い、出来るだけステージが見やすいスタンド席の傾斜を検討したという。また、多数の扉や広々とした各階のホワイエで入退場がスムーズに行えるため、コロナ禍の現状においても、密になりにくい環境が提供されている。

 こうした観客目線の工夫に加え、ライブ制作・舞台設営側のニーズも事前に汲み取り、数々の細かなアイデアが取り入れられている。その1つが、黒に統一された壁や座席の色。ライブで一番高揚する照明がより映えるように考慮されたものだ。

「昨年12月に開催された、『RADWIMPS「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」』では、ものすごい量の照明を使ったこともあって、とてもライティング映えしていました。また、昨年8月の『Perfume LIVE 2021 [polygon wave]』は、広大なアリーナ面すべてをステージとし、そこにプロジェクションマッピングを投影したりしながら、観客は2階、3階、4階のスタンド席から見下ろしてもらうという新しいスタイル。この公演は主催者側、来場者側の双方に好評で、年明け1月9日から6日間の再演も決まりました」

ぴあ アリーナ事業創造部部長・鈴木悠太氏

ぴあ アリーナ事業創造部部長・鈴木悠太氏

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■ライブ演出も新たなフェーズに移行 アーティスト個々の世界観を表現する演出が人気

 もちろん音響面にも注力。不要な響きを押さえることで歌や演奏をクリアに聴かせつつ、観客の歓声が程よくこだまするという残響時間1.8秒(満席1万人収容時)で設計を行い、J-POP向きの熱気溢れる音空間を演出。しかも繊細なサウンドだけでなく、ライブハウスで鳴らすような大迫力の重低音や爆音にも耐えうる環境となっている。

 さらに、天井から様々な機材をワイヤーで吊り下げる“吊りポイント”も、その位置や数、ピッチ、1ヶ所あたりの荷重を事前にヒアリング。結果、一般的なアリーナでは全体の許容荷重が20〜30トンであるのに対して、ぴあアリーナMMでは、吊りポイントを132ヶ所用意し、全体で60トン(エンドステージ側で50トン、センターステージで10トン)と国内トップクラスの許容荷重を実現している。

「昨年6月の『Official髭男dism Road to 「one - man tour 2021-2022」』では、当会場のスペックをフル活用いただき、スペシャルな演出でライブを行ってくださいました。このように、巨大なLEDスクリーンや物量感が圧倒的な照明を吊れる構造と、他の会場ではあり得ないほどの大音量も鳴らせる音響設計で、アーティストさんがやりたいと願う演出を実現できるアリーナになっていると思います」

 昨今、これまで以上にアーティスト個々の世界観を表現するライブ演出が増え、それを楽しむ観客も、従来の“観た・聴いた”という想い出的な体験から、より味わいが増すような深みのある体験へと新たなフェーズに移行しつつある。ぴあアリーナMMは、まさにそれに対応できるポテンシャルと可能性を有した会場だと言えるだろう。

 こうした非日常感を楽しめる演出の新しさ、ライブ会場としての居心地のよさ、快適さに加えて、今、改めて見直されているライブ・エンタテインメントの大きな魅力は、ライブ前後を含めた1日の有意義な過ごし方ではないだろうか。

■ライブ・エンタテインメントは “ハレの日” コロナ禍で再認識された重要性

 1年以上もの間、多くの音楽ファンがコロナ禍の影響でライブ・エンタテインメントから足が遠のいてしまった。ただ、その期間があったことで、本番のステージだけでなく、会場に向かうまでの時間、開演までに過ごす時間、そしてライブ後に余韻に浸りながら自宅に戻る時間、そのすべてを含めてライブの楽しさなのだということを、多くの人々が再認識したはずだ。

新しいライブ会場の共通点はアーティストとの距離感の近さ、客席からのステージの見やすさ

新しいライブ会場の共通点はアーティストとの距離感の近さ、客席からのステージの見やすさ

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「まさにおっしゃる通りで、我々も部署内で『その1日が、もっと楽しい』というコンセプト、スローガンを掲げ、常にお客様の気持ちを高める会場のあり方を探っています。例えば、物販を買いに早く来場されるお客様が多いことを考えると、開演までに休める場所も必要ですし、せっかくなら美味しいものも食べて欲しい。アーティスト・来場者の高ぶった“今”の気持ちをお互い伝え、残し合うデジタルメッセージボードがあってもいい。そうやって、主催者、アーティスト、来場者の三者にとっての“こうだったらいいよね”というものを作っていくと、自然とステージと客席との距離感や、ライブ前後をどう過ごしてもらうかという視点にたどり着く。それがまさに、最近開業したライブ会場のトレンドになっているのではないでしょうか」

 つまり、これまで多くの場合は、在り物の会場を利用してアーティストと観客を組み合わせてきたのに対し、ぴあアリーナMMや東京ガーデンシアター、そして建設中のKアリーナ横浜は、ここにきて初めて、アーティストと観客をつなげる場所として、イチからライブ・エンタテインメント空間を作り出したと言える。そして、その実現に重要だったこととして、鈴木氏は3会場のある共通点を挙げた。

「3会場とも民間が基本的に単独で運営しているというのが大きなポイントです。通常、大会場を作るとなると収支バランスが取れないことが多く、行政が主導して作るか、行政の支援を受けることが前提となります。しかし、税金が投入されれば公益性の観点が強くなり、やりたいことの自由度が利かない場面に遭遇することもあります。でも民間であれば、主催者、アーティスト、お客様を中心に物事を考え、自分たちの裁量で進めていけます。その重要さは、いざ運営を始めてから余計に強く感じています」

■創業50周年を迎えたぴあ 音楽で街づくりに貢献しようとする新たな試み

 さらに同アリーナは、民間運営である強みを活かし、横浜周辺のライブ会場との連携や街づくりとの一体化も推し進めようとしている。同アリーナが建つ横浜・みなとみらいエリアには、前出の2万人収容のKアリーナ横浜のほか、5000人収容のパシフィコ横浜国立大ホール、2000人規模のKT Zepp Yokohamaが隣接。さらに赤レンガ倉庫や神奈川県民ホール、Billboard Live YOKOHAMAなど、横浜市内には多数の会場が点在している。

 同社はそれらをリンクさせながら、音楽でつながるこれからの横浜をテーマに、20年3月にメッセージBOOK『Music City YOKOHAMA』を発行。地域と共に新たなブランディングを図ると同時に、同年5月には三菱地所と業務資本提携を発表。エリア内の他商業施設とも連携し、集客エンジンとしてエリア全体の活性化も図っていくという。

メッセージBOOK『Music City YOKOHAMA』

メッセージBOOK『Music City YOKOHAMA』

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「昨年10月に開催した『PIA MUSIC COMPLEX 2021 -ぴあフェス-』では、“横浜ランドマークタワー”さんや“MARK IS みなとみらい”さんとコラボしました。ぴあフェスのチケットでランドマークタワー展望フロアに無料で登れるなどの特典を付けたところ、想像以上に好評で、ライブ前後の時間も楽しんでいただけました。こうした街と相互に集客・発信できる取り組みを、今後も実施していきたいですね。そして、これは当会場の企画段階からずっと思い描いている夢ですが、他会場と連携した大規模な都市型音楽フェスを開催したい。我々が起点となり街に音楽やエンタメを波及させていくと同時に、街に遊びに来た人が楽しめる企画を考えていきたいと思っています」

 ぴあは今年創業50周年を迎えた。今ではチケット販売会社のイメージが強いだろうが、そのスタートはエンタテインメント情報を網羅した雑誌『ぴあ』の出版だった。それもあり、長きにわたり街と深く強いつながりを持ち続けている。そういった街を知り尽くす同社が運営するぴあアリーナMMを拠点に、今後、横浜という街全体をどう盛り上げていくのか。そこに、22年、そしてポスト・コロナ時代に向かう新しいエンタテインメントの理想像が見えてくるのではないだろうか。

文・布施雄一郎
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