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スタジオポノック、独自の次世代アニメーター育成プログラム始動 トップクリエイターの高齢化に危機感

 劇場長編アニメーション映画『メアリと魔女の花』(2017年)、劇場短編アニメーション映画『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』(18年)を制作したアニメーション制作会社「スタジオポノック」は4月1日、次代の長編アニメーション映画制作で活躍するアニメーター育成のための教育プログラム「Ponoc’s“ Principles of Animation” Program(略称:P.P.A.P.)」を新設すると発表した。将来的に長編アニメーション映画制作で活躍できるアニメーターを志す若者を募集し、同社の有期雇用契約として雇用、給与を支給しつつ、一年間にわたり、アニメーション映画の基礎を学べるプログラムを提供する。日本のアニメ業界としては画期的な試みだ。小さな制作会社が若手の人材育成に本気で乗り出すに至った経緯を、代表取締役/プロデューサー・西村義明氏に聞いた。

スタジオポノック・代表取締役/プロデューサー・西村義明氏 (C)ORICON NewS inc.

スタジオポノック・代表取締役/プロデューサー・西村義明氏 (C)ORICON NewS inc.

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――「P.P.A.P.」では、どういうことをするのですか?

【西村】第一線で活躍するトップアニメーターを講師陣に迎え、観察・デッサン力、演出・表現力、レイアウト・作画力を中心に、アニメーション映画の基礎となる「アニメーションの原則」を習得してもらいます。キャラクターが生き生きとして見えるのは、なぜか。何を描いているからそう見えるのか、あるいは何を描いていないのか。どのように動かしているのか。そういった基礎を学ぶ機会を作りたいと思いました。基礎ができていなければ応用することも、磨きをかけることもできませんから。

――アニメーターになるための専門学校やアニメーション学科を置く4年制大学で学ぶのとどう違うのですか?

【西村】我々の映画作り、我々が目指す最高のアニメーション映画を作るために必要なクリエイターを誰か育ててください、といった姿勢でいてはダメだと思ったんです。「一本の映画で世界を変えられる」といった映画作りの想いも伝えていきたいですし、まずは自分たちでできることからはじめていこうと思いました。

 「P.P.A.P.」では、既存のスタジオポノックの社員スタッフ向け研修プログラム「Ponoc Extension Program」も聴講してもらおうと思っています。企画や脚本・絵コンテといったプリプロダクション工程、作画から音響効果・現像までのプロダクション・ポストプロダクション工程および、資金調達から配給興行、海外販売までの製作業務という、スタジオポノックが行っている、劇場用アニメーション映画を「考え」「作り」「届ける」という一連の映画製作についても概観をつかんでもらえたらと思います。

――アニメーターになるのに必要な基礎的なスキルを、収入を得ながら身につけることができる、アニメーターを志す若者にとっては、夢のような話だと思いますが…

【西村】これをすれば必ずプロとして仕事をこなせるアニメーターが育つ、という確信があってやるわけではないです。野球少年が全員プロになれないのと一緒。ですが、才能をより早く、より大きく開花させるために、できることはあると思うんです。そのための「P.P.A.P.」でもあります。人材育成には時間も資金も必要という前提に立って、これまでのように、クリエイター同士の善意による教育、徒弟制度的な教育のみではなく、制作スタジオとして、適切な成長機会を提供しなければ、また、併せてクリエイターの待遇をさらに改善していかなければ、日本のアニメーションの現場に参加したい、就職したいといった若者たちはいなくなり、手描きアニメーションの未来はなくなってしまうのではないか。これまで、10年かかっていたものが、「P.P.A.P.」によって1年でも2年でも短くできればいいと思いますし、トライアンドエラーしながら構築していきたいと思っています。

■誰かがやらねば 10年先を見据えた人材育成が急務な理由

――危機感を抱いていらっしゃるのはひしひしと伝わってきました。

【西村】日本発の手描きアニメーション作品は、今はまだ、世界から注目を集めています。弊社の『メアリと魔女の花』も世界で多くの方々に見ていただいた。ですが、砂上の楼閣になっていないか?という危機感ですよね。隣の中国もものすごい勢いでアニメに力を入れていて、クリエイターのレベルも上がっている。もう追いつかれていると言う人もいます。世界から評価される日本のアニメーションを作ってきた、高畑勲宮崎駿、それから富野由悠季押井守庵野秀明、さらに彼らとともにアニメーションを作ってきたトップクリエイターが高齢化していく中で、彼らが現役のうちに学べる時間はそう多くないんです。でも今、手を打てば、ギリギリ間に合うかもしれないと思って、準備してきました。

――会社経営としてはかなりリスクがあるのではないですか?

【西村】それはあります。でもできるかできないか、ではなくやるかやらないか。それは、ポノックを立ち上げた時と同じです。

――西村さんは以前、スタジオジブリにいたんですよね。『かぐや姫の物語』、『思い出のマーニー』のプロデューサーを務め、2014年にジブリの制作部門解散に伴って退社され、ポノックを起こした。

【西村】ジブリにいて魅力的に思っていた、今、作るべき作品を作る、ということ。子どもから大人まで楽しめて、日本のみならず世界中の人々の心に届く作品を作るという志を消したくなかった。人は失ってみないと、失ったことに気づかない。クリエイター不足という問題も、失われた後だともう遅くて、巻き戻すことはできない。最高のアニメーション作品を作りたくても作れなくなってしまう危機だと思っています。

――「P.P.A.P.」の優秀修了者は、スタジオポノックの正社員として継続雇用する予定とのことですが、ポノック以外の制作会社に行ってしまう可能性もあるということですか?

【西村】はい。「P.P.A.P.」を修了した後、ポノックよりも自分の力を発揮できそうなところを見つけたら、そちらで存分に活躍していただきたい。アニメーション業界から去らないでいてくれたら、それでいいと思っています。巡り巡って一緒にやることもあるかもしれないですし。自分たちだけ潤えばいい、なんて考えではもうやっていけないですよ。

 ですが、一緒に作りたいと思ってもらえる作品を我々は作り続けていきます。現在、スタジオでは複数本の劇場長編アニメーション映画の制作に取り組んでいて、「P.P.A.P.」と併せて、2022年度の新卒・第二新卒を中心として各職種の募集もします。アニメーション制作に関わる待遇改善、才能あるクリエイターの育成に積極的に取り組み価値あるアニメーション映画を作ろうという仲間が、一人でも二人でも増えていってくれたら良いなという想いです。

■取材後記

 アニメーショ会社WIT STUDIOも、次世代のアニメーション業界を支えるスキルの高いアニメーターの育成を目的とした『WITアニメーター塾』を開講することを発表。こちらは、受講料および在籍期間中の生活費をNetflixが支援するという取り組みだ。

 日本のアニメーション文化を守り、より一層発展させていくために今、何をすべきか。アニメーション制作の現場は非常に過酷? 給料も低く、長時間労働が当たり前? 課題がわかっているということは、そもそも解決の糸口も、見えているはず。そのプロセスを見直していくポノックの英断は、業界内外の認識に一石投じるものになりそうだ。

■スタジオポノック
https://www.ponoc.jp/recruit/

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  • スタジオポノック・代表取締役/プロデューサー・西村義明氏 (C)ORICON NewS inc.
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