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『新聞記者』で示した日本アカデミー賞のプライド 大手の意向「ない」

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第38回 『第43日本アカデミー賞』協会 事務局長・村松秀信

映画『新聞記者』メインビジュアル(C)2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

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 3月6日にグランドプリンスホテル新高輪にて開催された第43回日本アカデミー賞授賞式。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、一般観覧を取りやめ、報道関係者も、オフィシャルと日本テレビとニッポン放送のみという形で行われた。最優秀作品賞は、東京新聞記者・望月衣塑子氏の著書を原案にした『新聞記者』が受賞。大手配給ではなく、内容的にも政権批判を含むきわどい作品だけに、結果発表後、SNS等では多くの意見が飛び交った。日本アカデミー賞協会の事務局長を務める東映株式会社・取締役の村松秀信氏に今年の日本アカデミー賞を総括してもらった。

■新型コロナウイルスの余波を受けて例年とは違う形態での開催でも俳優陣は全員参加

――新型コロナウイルスの拡大に伴い、開催が危ぶまれるなか、規模を縮小して行いましたが、経緯をお聞かせください。

村松:世間的に自粛ムードが出ており、当然協会内でも開催の是非は議論されました。いろいろな意見が出るなか、日本アカデミー賞は、映画人による映画人のための祭典なので、1年間の総括としてやるべきではないかという結論に至りました。ただ、そのなかでも感染のリスクは最小限にとどめなければならない。まずは一般のお客様には来場をご遠慮いただき、受賞者と協会の役員だけという小規模で開催することにしました。

――毎年600人ほどの一般客が観覧していますが、その方々のチケットを払い戻しするということは、運営費という部分でも大きな負担になったのでは?

村松:運営費は会員の会費、賛助法人の会費、協賛企業、テレビ、ラジオの放映料などで賄っていますが、一番大きいのは一般の方々の授賞式入場料です。正直大きな赤字ですが、それでもここまで42年間続けてきた歴史を考えれば、運営収支を今回は考えずにでもやるべきだという結論でした。

――その他、例年と違ったところは?

村松:マスコミ各社にも自粛いただきました。規模縮小という意味も大きいのですが、どこを入れてどこにご遠慮いただくかの判断も難しいので、オフィシャルと日本テレビだけでやることにしました。あとは、できるだけ時間を短くするために、普段は3時間半ぐらいの時間を、2時間半程度で終わるような編成も考えました。

――この決断をしたのはどのタイミングで?

村松:今回の形で行うことが決定したのが2月27日。開催まで1週間しかなかったので、本当に厳しい状況でした。でも一番怖かったのが、お客さんも入れなく規模も縮小した状況で、しかもコロナウイルス感染拡大の不安もあるなか、受賞者の方々が当日参加してもらえるのだろうかということ。そんなとき、(優秀主演男優賞を受賞した)菅田将暉さんが「授賞式にはどんなことがあっても出たい」とラジオかなにかで話しているということを聞いて、個人的には絶対に開催しなければという思いになりました。

■“大手配給の持ち回り”ではないということを強く印象付けた『新聞記者』の作品賞受賞

――最優秀作品賞は、スターサンズ、イオンエンターテイメント配給という、インディペンデント系の『新聞記者』でした。以前から一部では「大手配給の持ち回りでは?」などという意見も出ており、今回の作品賞受賞は「意外」という意見もSNSでは見受けられました。

村松:確かに「大手の意向が強いのでは」とか「日本テレビでやるからフジテレビの映画は獲れない」などという意見は聞いたことがあります。でもそういうことは一切ありません。日本アカデミー賞は、映画制作や配給に従事している協会会員の投票によって選ばれますが、いわゆる邦画メジャー4社と言われている東宝、松竹、東映、KADOKAWAの割合は一番多い東宝でも全体の7.5%ぐらいであり(注:2019年の会員数は3,959名で、東宝が298名、松竹298名、東映281名、KADOKAWA133名)、それ以外は賛助法人個人会員やフリースタッフ、俳優、プロデューサーや監督などです。仮に自分の所属している会社の作品を応援したいと思っても、それだけで1位になることまず考えられない。今回は特にインディペンデント系の作品が受賞したことで、そういう意見が多く見られたのかもしれませんが、毎年やっていることは変わっていません。

――確かに、男優賞や女優賞などに目を向けると、必ずしも大手配給作品ばかりではないですよね。

村松:今年の最優秀主演男優賞・女優賞は『新聞記者』でしたし、第41回の最優秀主演女優賞を獲った蒼井優さん(クロックワークス配給『彼女がその名を知らない鳥たち』)、第40回の最優秀主演女優賞・助演女優賞の宮沢りえさん、杉咲花さん(クロックワークス配給『湯を沸かすほどの熱い愛』)、第39回の最優秀主演女優賞の安藤サクラさん(SPOTTED PRODUCTIONS配給『百円の恋』)など、受賞作品は大手配給ではありません。

――『新聞記者』の受賞はどのように感じましたか?

村松:政権批判的な視点もある作品で、フィクションですが、実話を連想させます。そんな社会派の作品が選ばれたということは、映画人の気概を感じました。やはり日本アカデミー賞は、映画人が選ぶ賞であるので、製作サイドにも配給サイドにも、映画への思いやプライドがある。こういう作品が選ばれることで、日本アカデミー賞自体のクオリティを上げることにもつながると思います。この社会情勢のなか、受賞した俳優さんたちがみな参加してくださったのも、ある種のプライドの表れだと思います。

■得票数を開示しない理由

――いまさらですが改めて選考過程を教えてください。

村松:4000人近い日本アカデミー賞会員の方が、対象作品(注:東京地区の商業映画劇場にて有料で初公開され、40分以上の新作劇場用劇映画およびアニメーション作品で、同一劇場で1日3回以上、かつ2週間以上継続し上映された作品。ドキュメンタリー、オムニバス映画、再上映映画、映画祭のみの上映作品、2週間限定公開作品、イベント上映作品は除く)のなかから、作品賞や主演男優・女優など全16部門について1人3つずつ選び、上位5作品(名)に優秀賞を授与します(新人俳優賞は男女各2〜4名)。さらに優秀賞に選ばれた5作品(名)を対象に、また全員が1票を投じて、最優秀賞を決めます。最初の段階で3作品を選ぶのと、最優秀を決める際の1作品では意味合いも変わるので、優秀賞で5番目の得票数だった作品が、最優秀を獲ることもあります。

――なにかと比較されるキネマ旬報の日本映画ベスト・テンは、誰がどの作品(俳優)に投票したのか、また得票数が可視化されています。誰がというのは人数が多いので難しいとは思いますが、得票数は公表しないのでしょうか?

村松:作品に明確な順位づけすることをあまり良しとしていないという部分が大きいと思います。映画の製作に携わっている人間は誰もが作品に対する強い思いで映画作りをしています。それは映画人が選ぶ賞として、優秀賞、そのなかから最優秀を選んではいるのですが、基本的に作品には優劣をつけないというのが映画人の考え方、ポリシーなんです。そこは批評家とは違う視点なのかもしれません。

■『パラサイト 半地下の家族』の存在で浮き彫りになった日本映画の問題点

――アメリカのアカデミー賞では、韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が作品賞を受賞しました。

村松:かなり日本映画界にも大きな影響を与えたと思います。ある監督は「韓国映画が世界に認められたということ。僕らはなにをやっているんだ」と嘆いていました。我々もああいう場でフィーチャーされるような作品を作っていかなければいけないと思います。完全に韓国映画界に置いてけぼりにされたという危機感は大いにあります。

――どこに原因があると思われますか。

村松:市場にも問題があるというか、僕ら日本映画界は、まず国内でリクープすることを第一に考えて企画を立てています。かなりドメスティックです。でも韓国は人口が日本よりずっと少ないので、最初から海外でどれだけ通用するかという視点で企画を考えている。そこが大きな違いかなと思います。

――日本アカデミー賞はどんなことで日本映画界に貢献していこうと考えていますか?

村松:今回の『新聞記者』の藤井道人監督は、これまでも良い作品を作られていますが、今回の受賞でかなりオファーが殺到していると聞きます。『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督もメジャー(2020年10月公開予定の映画『浅田家!』は東宝配給)で撮るようになっています。監督にとってなにが目標かは人それぞれだと思いますが、日本アカデミー賞の授賞式は地上波放送もされ、拡散力はあるので、才能のある人が、より多くの人に広く知ってもらえる機会だと思っています。その意味で、この賞を目標にしてもらえるような存在にしていかなければいけないと感じています。今年で43回を数えました。「継続は力なり」という言葉もありますが、しっかり回を重ねていくことで、格式も出てくると思います。その意味で、厳しい状況でしたが、こうして開催できたことはとても大きかったです。(取材・文・撮影:磯部正和)

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  • 日本アカデミー賞協会・事務局長の村松秀信氏 (C)ORICON NewS inc.

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