■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第35回 三池崇史監督
各国の映画祭で作品が上映されるなど、世界的にファンが多い三池崇史監督が「昔の作品のような映画を作ろう」と東映とオリジナル脚本でタッグを組んだ『初恋』。“昔のような”という言葉の意味を「Vシネマとか『DEAD OR ALIVE』シリーズのようなメインストリームではないもの」と語った三池監督。歌舞伎町を舞台に、いまとなっては“隅っこ”に追いやられてしまったアウトローたちが暴れまわるなか“初恋”を三池流に描いた。そんな圧巻の“三池劇場”で主役を務めるのが、いまや日本の映像界にはなくてはならない俳優となった窪田正孝だ。「ケータイ捜査官7」で窪田を見出したとき「10年後に窪田を選んだ理由が分かる」と話していた三池監督に、その言葉の真意を聞いた。
■“面白いもの”で波長の合った東映とのタッグ
東映ヤクザ映画全盛だった時代は去り、いまや映画のなかでのヤクザやアウトローたちは隅っこに追いやられてしまった。三池監督は「映画のなかでのヤクザはもはやファンタジー」と語ると、時代的に“ヤクザ”が映画の真ん中にくることは難しいと語る。そんななか、“仁義なき戦い”シリーズや“実録シリーズ”で鳴らした東映が、2018年『孤狼の血』を送り出し、その流れで三池監督と“面白いものがやりたい”という思いの波長が合った。
「『孤狼の血』もそうですが、『翔んで埼玉』や『麻雀放浪記2020』など、東映がなんか突飛なものを作り出したなと思っていたら、『昔のような映画を撮れないか』と声をかけてくれた。いわゆる傍流という意味では、現代では完全に隅っこに追いやられてしまったアウトローというものを題材にすることは、ピッタリ波長が合うなと……。そうこうしているうちに企画が進んでいったんです。とはいえ、ヤクザ映画というジャンルではなく、とにかくさまざまな事情を抱えたどん詰まりのヤツラが、歌舞伎町で暴れまくる。そんななか、窪田演じるプロボクサーのレオと、モニカ(小西桜子)という二人が出会い、最後にささやかだけれど恋が生まれる……。いろいろな人物が出てきて、ジャンル分けできないような映画が出来上がったなという印象です」。
■本当の意味での主役になると手がかからない 窪田は安心して放っておけた
三池監督の言葉通り、登場人物は多彩だ。オールドスタイルの武闘派ヤクザ・権藤に内野聖陽、組織のなかでうまく立ち回り上り詰める策士のヤクザ・加瀬に染谷将太、アンダーグランドを渡り歩き加瀬と手を組む悪徳刑事・大伴に大森南朋、半グレの彼氏を殺され、復讐の鬼と化す女・ジュリにベッキーなど、劇中ではところせましと活躍し、作品の“動”の部分を担う。
そんななか、主役として立つのが前述した窪田だ。以前窪田を取材したとき、三池監督との出会いが彼の俳優人生にとって非常に大きなものになっていると語っていたが、その思いは三池監督も同じようだ。「なにより今回は放っておけた」と独特の表現で窪田への信頼を述べる。
「レオという人間が巻き込まれていくさまを面白く撮るための映画。でもレオを立たせるために周りが動くとつまらなくなってしまう。それは彼のための道具という存在になってしまうから。本当になにもしないで巻き込まれていく必要がある。でもそういう役ってかなり不安になると思うんですよ。ほかのキャラクターは存分に個性を発揮するなか、台本を読んでも『なにもしてないじゃん』って感じますからね。ある意味で、俳優は熱演してワ―となって、肉体的に疲れることで安心するもの。普通だったら『もっと演じたい!』ってなると思うのですが、彼はそういうことも全部分かっていて、一言も不安を口にすることはなかった。窪田君は放っておいても大丈夫だった。本当の意味での主役になるとあまり手はかからない。こちらもその分、ほかのことに集中できたんです」。
窪田の相手役となった小西は、本作が劇場映画2本目という新人であり、現場ではフォローする必要があった。「さりげなく見てくれていました。彼女がNGを出し続けているときも、まったくテンションが変わることなく、嫌な顔一つせず『仕事なんだから当然だよ』という顔をしてさらっと超然とそこに存在していました」。
■結婚してもファンは減らない 俳優・窪田正孝としての認知
企画があがったとき、台本を書くとき、すでにレオという役は、三池監督の頭のなかでは、窪田が前提だったという。ほかの俳優を想定していたら、もっと主人公を動かして語らせる必要があった。窪田だからこそ、こうした作品が出来上がった。その佇まいは出会ったときからあったという。
「『ケータイ捜査官7』のオーディションのとき、窪田君は俳優をこのまま続けていくか悩んでいましたが、僕は彼を見たとき、芝居をする前に『こいつしかいない』と思った。もし芝居がダメだとしても、なんとかなると思わせてくれるオーラがあった。もちろん、オーディションに来ていたほかの俳優より、芝居もしっかりしていたんですよ。でもそれ以上に魂が感じられたんです。でもそれは僕が見つけ出したのではなく、彼の持つ力なんです。もちろん、出会えた幸運はありますが『自分と出会わなければ、いまの窪田はない』なんてことは決してない。それだけのものを窪田君は最初から持っていたんです」。
窪田の持っている魅力を、しっかりと育んできたのも、窪田自身の努力の賜物だと三池監督は断言する。
「あの顔立ちだと、アイドル的な人気に向かっていってしまう可能性もある。でも彼は、どの仕事にも真剣にぶつかって、演じることに没頭してきたんだと思う。ルックスに惹かれてファンになった人たちも、彼のお芝居を観て、役者・窪田正孝という魅力に気づいていると思う。それはなかなかできないこと。素敵ですよね。だからこそ、結婚の発表があったとき、もちろん悲しんだりショックを受けたりする人はいただろうけれど、役者・窪田正孝から離れていく人はいないんじゃないかなと思う。それは窪田君がしっかりと芝居に向き合ってきたからですよね」。
■お互い必要だと思えば仕事を一緒にする――三池監督が考える理想の関係
『ケータイ捜査官7』のときに感じた俳優としての魅力。「10年後に窪田を選んだ理由が分かる」という言葉から、“師弟愛”的な関係性を想像してしまいがちだが、三池監督は「仕事でつながっている関係性」を強調する。「スタッフ、役者に限らず誰でもそうですが“この人のために”という気持ちはない。映画に必要だから、作品に欠かせないからという関係性。だから仕事をしていないとき、スタッフや役者に連絡を取ったりはしないんです」。
窪田についても、作品以外では一度だけ横浜で三池監督が撮影しているとき、窪田がヒョコっと顔を出したことがあったが、プライベートでの交流はないという。ただ、同じ映像業界で働いていれば、相手の活躍は自然と耳にすることがある。
「手を差し伸べてほしいとも思っていないだろうし、こちらも助ける気持ちで声をかけるつもりはない。友情とかではなく、こちらはあくまで役者として必要だと思えば声をかけるし、向こうも監督として自分のためになると思わなければ、やるべきじゃない。そういう関係が理想ですよね」。三池監督にとって窪田は常に魅力的な俳優として存在し続け、『初恋』という映画には窪田が欠かせないと強く感じたからタッグを組んだ。
今年60歳を迎える三池監督。「この映画を作れたことで、僕らが自分たちらしく映画を作れる可能性が少しでも拡がるといいなと思います」と語っていたが、“三池ワールド”全開の本作は、若い人間には到底かなわないほどのパワーと映画愛に満ち溢れている。いろいろと厳しい指摘が多い日本映画界だが、オリジナルで挑んだ意欲作をぜひ堪能してもらいたい。(取材・文・撮影:磯部正和)
各国の映画祭で作品が上映されるなど、世界的にファンが多い三池崇史監督が「昔の作品のような映画を作ろう」と東映とオリジナル脚本でタッグを組んだ『初恋』。“昔のような”という言葉の意味を「Vシネマとか『DEAD OR ALIVE』シリーズのようなメインストリームではないもの」と語った三池監督。歌舞伎町を舞台に、いまとなっては“隅っこ”に追いやられてしまったアウトローたちが暴れまわるなか“初恋”を三池流に描いた。そんな圧巻の“三池劇場”で主役を務めるのが、いまや日本の映像界にはなくてはならない俳優となった窪田正孝だ。「ケータイ捜査官7」で窪田を見出したとき「10年後に窪田を選んだ理由が分かる」と話していた三池監督に、その言葉の真意を聞いた。
■“面白いもの”で波長の合った東映とのタッグ
東映ヤクザ映画全盛だった時代は去り、いまや映画のなかでのヤクザやアウトローたちは隅っこに追いやられてしまった。三池監督は「映画のなかでのヤクザはもはやファンタジー」と語ると、時代的に“ヤクザ”が映画の真ん中にくることは難しいと語る。そんななか、“仁義なき戦い”シリーズや“実録シリーズ”で鳴らした東映が、2018年『孤狼の血』を送り出し、その流れで三池監督と“面白いものがやりたい”という思いの波長が合った。
■本当の意味での主役になると手がかからない 窪田は安心して放っておけた
三池監督の言葉通り、登場人物は多彩だ。オールドスタイルの武闘派ヤクザ・権藤に内野聖陽、組織のなかでうまく立ち回り上り詰める策士のヤクザ・加瀬に染谷将太、アンダーグランドを渡り歩き加瀬と手を組む悪徳刑事・大伴に大森南朋、半グレの彼氏を殺され、復讐の鬼と化す女・ジュリにベッキーなど、劇中ではところせましと活躍し、作品の“動”の部分を担う。
そんななか、主役として立つのが前述した窪田だ。以前窪田を取材したとき、三池監督との出会いが彼の俳優人生にとって非常に大きなものになっていると語っていたが、その思いは三池監督も同じようだ。「なにより今回は放っておけた」と独特の表現で窪田への信頼を述べる。
「レオという人間が巻き込まれていくさまを面白く撮るための映画。でもレオを立たせるために周りが動くとつまらなくなってしまう。それは彼のための道具という存在になってしまうから。本当になにもしないで巻き込まれていく必要がある。でもそういう役ってかなり不安になると思うんですよ。ほかのキャラクターは存分に個性を発揮するなか、台本を読んでも『なにもしてないじゃん』って感じますからね。ある意味で、俳優は熱演してワ―となって、肉体的に疲れることで安心するもの。普通だったら『もっと演じたい!』ってなると思うのですが、彼はそういうことも全部分かっていて、一言も不安を口にすることはなかった。窪田君は放っておいても大丈夫だった。本当の意味での主役になるとあまり手はかからない。こちらもその分、ほかのことに集中できたんです」。
窪田の相手役となった小西は、本作が劇場映画2本目という新人であり、現場ではフォローする必要があった。「さりげなく見てくれていました。彼女がNGを出し続けているときも、まったくテンションが変わることなく、嫌な顔一つせず『仕事なんだから当然だよ』という顔をしてさらっと超然とそこに存在していました」。
■結婚してもファンは減らない 俳優・窪田正孝としての認知
企画があがったとき、台本を書くとき、すでにレオという役は、三池監督の頭のなかでは、窪田が前提だったという。ほかの俳優を想定していたら、もっと主人公を動かして語らせる必要があった。窪田だからこそ、こうした作品が出来上がった。その佇まいは出会ったときからあったという。
「『ケータイ捜査官7』のオーディションのとき、窪田君は俳優をこのまま続けていくか悩んでいましたが、僕は彼を見たとき、芝居をする前に『こいつしかいない』と思った。もし芝居がダメだとしても、なんとかなると思わせてくれるオーラがあった。もちろん、オーディションに来ていたほかの俳優より、芝居もしっかりしていたんですよ。でもそれ以上に魂が感じられたんです。でもそれは僕が見つけ出したのではなく、彼の持つ力なんです。もちろん、出会えた幸運はありますが『自分と出会わなければ、いまの窪田はない』なんてことは決してない。それだけのものを窪田君は最初から持っていたんです」。
窪田の持っている魅力を、しっかりと育んできたのも、窪田自身の努力の賜物だと三池監督は断言する。
「あの顔立ちだと、アイドル的な人気に向かっていってしまう可能性もある。でも彼は、どの仕事にも真剣にぶつかって、演じることに没頭してきたんだと思う。ルックスに惹かれてファンになった人たちも、彼のお芝居を観て、役者・窪田正孝という魅力に気づいていると思う。それはなかなかできないこと。素敵ですよね。だからこそ、結婚の発表があったとき、もちろん悲しんだりショックを受けたりする人はいただろうけれど、役者・窪田正孝から離れていく人はいないんじゃないかなと思う。それは窪田君がしっかりと芝居に向き合ってきたからですよね」。
■お互い必要だと思えば仕事を一緒にする――三池監督が考える理想の関係
『ケータイ捜査官7』のときに感じた俳優としての魅力。「10年後に窪田を選んだ理由が分かる」という言葉から、“師弟愛”的な関係性を想像してしまいがちだが、三池監督は「仕事でつながっている関係性」を強調する。「スタッフ、役者に限らず誰でもそうですが“この人のために”という気持ちはない。映画に必要だから、作品に欠かせないからという関係性。だから仕事をしていないとき、スタッフや役者に連絡を取ったりはしないんです」。
窪田についても、作品以外では一度だけ横浜で三池監督が撮影しているとき、窪田がヒョコっと顔を出したことがあったが、プライベートでの交流はないという。ただ、同じ映像業界で働いていれば、相手の活躍は自然と耳にすることがある。
「手を差し伸べてほしいとも思っていないだろうし、こちらも助ける気持ちで声をかけるつもりはない。友情とかではなく、こちらはあくまで役者として必要だと思えば声をかけるし、向こうも監督として自分のためになると思わなければ、やるべきじゃない。そういう関係が理想ですよね」。三池監督にとって窪田は常に魅力的な俳優として存在し続け、『初恋』という映画には窪田が欠かせないと強く感じたからタッグを組んだ。
今年60歳を迎える三池監督。「この映画を作れたことで、僕らが自分たちらしく映画を作れる可能性が少しでも拡がるといいなと思います」と語っていたが、“三池ワールド”全開の本作は、若い人間には到底かなわないほどのパワーと映画愛に満ち溢れている。いろいろと厳しい指摘が多い日本映画界だが、オリジナルで挑んだ意欲作をぜひ堪能してもらいたい。(取材・文・撮影:磯部正和)
2020/02/22