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『アナ雪』日本語吹き替え版が高評価 演出/音楽演出・松岡裕紀が語る「技術よりも突き詰めた芝居」

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第30回 松岡裕紀 演出/音楽演出

『アナと雪の女王2』メインカット(C)2019 Disney. All Rights Reserved.

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 11月22日の公開以来、早くも興行収入86億円を突破するなど、前作に続き現象となっている『アナと雪の女王2』。美しい映像に共感しやすいキャラクター、さらにシンプルながらも力強いストーリーラインなどさまざまなヒット理由はあげられるが、日本語吹替版のクオリティーの高さも、ヒットの大きな要因となっているのではないだろうか。前作同様、吹替版の監督を務めた松岡裕紀氏に話を聞いた。

■『アナ雪』ならではの表現の面白さ

 前作、エルサ役の松たか子が劇中で歌った『レット・イット・ゴー〜ありのままで〜』は、公開前から大きな反響を呼んだ。そのほか、アナ役の神田沙也加をはじめ、吹替版の出来の良さは評判になり、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が行った「『アナ雪』を吹替えと字幕のどちらで見たか?」というアンケートでは、7割以上が“吹替版”と回答するなど、日本語吹替版の果たした役割は大きかった。

 松岡氏はこれまで、『トイ・ストーリー』シリーズや『塔の上のラプンツェル』シリーズ、『アラジン』、『ライオン・キング』など数々のディズニー作品の吹替版の演出を担当してきたが「『アナと雪の女王』が作品として面白いなと思ったのは、歌だけでその人の進む道を表現しているところ。例えば、パート1でエルサは自分が魔法をコントロールすることができずすごく傷つきますよね。それで城を出てスノーマウンテンに向かうわけですが、そのとき『レット・イット・ゴー』を歌います。歌いはじめと歌い終わりの表情が全然違いますよね。あの歌だけでエルサの気持ちが切り替わる。そういう表現方法はこれまでの作品とは明らかに違うなと感じました。以前担当した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に共通する面白さです」とポイントとしてあげる。
 
■大切なのは日本の文化にアジャストさせること

 では実際、こうした表現の面白さを吹替えで伝えるためにはどんな工夫が必要なのだろうか。
 
 「当たり前のことですが、しっかりと意図を汲んだ日本語で伝えること。日本語と英語は文法も違うので、絵の口の動きに合わせて情報をしっかりと伝え切るのは難しい。さらに文化的な違いもありますよね。例えば料理のシーンで『おいしい』という表現に材料を言うセリフがあったとします。アメリカでは一般的な食べ物でも、日本ではあまりなじみがなければ、言葉を変えなければ美味しさは伝わりません。その意味で“通訳”ではなく“翻訳”がとても大切なのです」。

 日本人を捉えた翻訳。さらにそれを感情に乗せて表現する演技力も求められる。

 「日本語の吹替えに限ったことではないですが、演じる人間はそのキャラクターをしっかり理解することがとても大切です。エルサとアナは性格が違うと言葉遣いも当然変わってきますよね。収録では台本はありますが、微妙なニュアンスなどは、その場で演じる声優さんに合わせて変化していくこともあります。そこでも演じる側の理解度がとても大切です」。

■歌を芝居で表現してくれた――松さんは素晴らしい!

 『アナと雪の女王2』では、エルサとアナがキャラクターとしても成長し、大人の女性になった。松岡氏は「なかなか珍しいですよね」と語ると「キャラクターの成長に合わせて松さんも神田さんもうまく変化を見せてくれています。その部分でもお二人とも才能溢れる方たちなので、台本や映像をご覧になって、その変化をすぐに吸収してくれたと思います」と太鼓判を押す。

 収録前に松岡氏が松と神田をはじめ、本作の声優陣にディレクションしたことは「お話しをする声と歌う声を同じにしてください」ということだった。本作では、セリフの直後に歌うシーンが多々ある。「しゃべっている声と歌声がガラリと変わると、嘘に聞こえてしまうのです」と松岡氏は肝になる部分に触れる。それはエルサとアナだけではなく、オラフも同じだという。「まずは歌える声でしゃべってください」と武内駿輔にもオーダーを出したという。「無理して作った声というのは変化しやすい。そのあたりも武内さんはすごく勘がいい。以前アニメーションでお仕事をしたことがあったのですが、とても才能がある方です」。

 「歌だけで気持ちが変わるところが面白い」と話していた松岡氏。それだけに歌に重点を置くよりは、お芝居をより大切にしたという。「音程やリズムをはじめとする技術的な部分はもちろん大切なのですが、収録のときは、『この歌で伝えたい思いはなにか』という話に終始していた気がします」と明かす。

 こうした松岡氏の思いを、松や神田は瞬時に察してくれたという。

 「『イントゥ・ジ・アンノウン』の歌の下りで、最初エルサは不思議な声に恐怖を感じて、拒否反応を示していましたが、でも抗えず心を開いていく。そして歌と共に未知の世界に旅立ってみようと一歩を踏み出す。この気持ちの変化は歌でしか表現出来ないのですが、松さんは歌をお芝居に捉えて完璧に演じてくれました。やっぱり素晴らしいです」

 同じことが神田の歌にも感じられたという。

 「物語の終盤、アナがオラフに対して感情的になる場面で歌った『わたしにできること』という歌がありますが、神田さんはストーリーに感情移入して涙を流しながらの収録だったのです。声のコンディションの良い悪いより、ストーリーを考えお芝居を優先させての判断でしたが、とてもすてきでした」。

 声優や吹替えの仕事に対して「技術面の高さは大前提」と前置きしつつも「僕は声を当てるという感覚ではいない」と語った松岡氏。続けてつぶやいた「俳優さんが『今日は声だけで演じてみました』というのがベストだと思っています」という言葉が妙に腑に落ちた。(取材・文:磯部正和)

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  • 『アナと雪の女王2』メインカット(C)2019 Disney. All Rights Reserved.
  • 『アナと雪の女王2』場面カット(C)2019 Disney. All Rights Reserved.
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