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コンプラに立ち向かう発想力や想像力 映像業界の変化を“楽しむ”映画監督

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第21回 木村ひさし監督

 『ATARU』や『民王』、『99.9 -刑事専門弁護士-』、先日まで放送していた『Heaven? -ご苦楽レストラン-』など、約20年にわたり数々のテレビドラマの演出を務めてきた木村ひさし監督。撮影中に生まれるライブ感を大事にし、随所でセリフやシーンを足していく演出は俳優陣からの信頼も厚い。そんな木村監督の最新映画が、西島秀俊&西田敏行を主役に迎えた『任侠学園』だ。長くドラマに携わってきたからこそ見えてきたものとは――木村監督に自身のポリシーを聞いた。
 
■現場でセリフを足したり、演出を変えたりする理由

映画『任侠学園』のメガホンをとった木村ひさし監督 (C)ORICON NewS inc.

映画『任侠学園』のメガホンをとった木村ひさし監督 (C)ORICON NewS inc.

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 社会奉仕がモットーの弱小ヤクザ・阿岐本組が、倒産寸前の私立高校や病院、出版社などを救う姿を描いた今野敏の人気小説「任侠」シリーズの一作「任侠学園」を木村監督で映画化した本作。阿岐本組・組長に西田敏行、組のナンバー2の若頭に西島秀俊、そのほか、伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、桜井日奈子、生瀬勝久らが作品を彩る。

 ヤクザと学校という組み合わせの妙もあるが、笑えてホロっとさせられる“人情”溢れる物語に仕上がっている一つの要因は、魅力的なキャラクターの描き方にあるだろう。木村監督と言えば、本番直前でセリフが追加されたり、演出が変わったり、撮影現場で感じたことを作品に反映させることが多いという評判を聞く。「どうしても台本上にあるセリフだけだと、ストーリーを追うことがメインになりがちなんです。よりキャラクターを膨らませていくうえでは、アドリブという言葉が正しいかわかりませんが、現場で足したりすることは多いです」と理由を説明する。

 その意味では“西田敏行”という稀代の俳優は、現場でアドリブを駆使することで有名だ。「子どものころから拝見していた俳優さんなので、どこか地に足がつかないフワフワした感じはありました」と撮影を振り返ると「この作品でも、西田さんのアイデアで足されたアドリブは結構ありました。全体の尺があるので、編集で切らざるを得ないところはありましたが、多くはそのまま残っています」と絶妙のコンビネーションで撮影は進んでいったようだ。

■テレビドラマで培った経験「脚本にはあまり縛られない」

 
 こうした手法は、長年テレビドラマの仕事をしてきたからこそ得られた感覚だという。
 
 「映画って基本的に脚本があって、それに対してお金を出してくれる人がいるので、本というのは絶対的なものだと思うんです。でもテレビドラマ、特に連続ドラマは、オンエアしながら撮影もあるし、脚本も全話出来上がっていないこともある。なので、脚本にあまり縛られてしまうと、作品が育っていかないような感じがするんです。脚本家が書いたものに対して現場のスタッフは準備をするのですが、そこに役者さんが加わったとき、違うニュアンスが出てくることがある。役者側も自分が発するセリフに対して感じることもあると思う。そういうのを現場で臨機応変に対応することで、作品は育っていく気がするんです。もちろん、大筋や結末を変えるようなことはしませんが、映画にもそういう手法は取り入れています」。

 木村監督は、映画監督になりたくて映像の世界を志したというが、実際の仕事の多くはテレビドラマ制作だった。「正直、初期のころは連ドラなんてやりたくないと思っていたんです」と胸の内を明かすが、経験を重ねるにつれて「連ドラの魅力」を感じるようになっていった。きっかけとなったのが、堤幸彦監督がメインの演出を務めた「TRICK」シリーズだという。「『TRICK』は何人かの演出家で撮っていたのですが、堤監督が撮ったものを、ほかの監督が繋いで膨らませて、またほかの人が……というように作品を作り上げていったんです」。

 確かにこうしたやり方によって、キャラクターを膨らませていくという手法がとれる。また各演出家たちも、より客観的に作品やキャラクターと向き合えるため、自然と視聴者の目線でものを見る力が養われるのかもしれない。

■エンタメ業界、足枷が増えてきたからこそ、どうしたら面白くなるか考える発想力が鍛えられる

 小さいころから父親の影響で映画館によく言っていたという木村監督。さらに父の友人が映画監督だったため、撮影現場に行く機会もあったという。多感な時期によく観ていた作品は「角川映画」。「どうしても人間ドラマよりも、エンターテインメントが好きですね」と語ると「今回の映画も目指したのは『戦国自衛隊』なんです。話は全く違いますが、それぞれのキャラクターの心に残るシーンが撮れたらいいなという思いでやっていました」と裏話を披露してくれた。

 20年にわたり、エンターテインメント業界の中心で活躍してきた木村監督。平成も終わり令和へと時代は変わったが、映像業界の変化も感じているのだろうか。

 「コンプライアンスという言葉をよく聞くように、いろいろとやりづらくなっていることは確かですね」と冷静な視線を向ける。しかし一方で、木村監督は逆の発想も持っているという。「こうした現状を先頭に立ってぶっ壊していくという考え方もあると思いますが、僕は逆にがんじがらめでやりづらいからこそ『どうやったら面白くできるんだろう』と考えるようになった。足かせがあることで、発想力や想像力が鍛えられると思うんです」と前向きに捉えているようだ。

 “想像力”や“発想力”。これは作り手側だけではなく、受け取る視聴者側の問題でもある。“より分かりやすいこと”が優先順位として高くなると、作られる映画も画一化されていく。木村監督も「一つの作品が受けると、それに類似した企画が多くなるのは否めないですよね」と苦笑いを浮かべると「僕はまだ、続けて似たような作品を任されることがないので、それはありがたいなと思うのですが、少し考える必要がありますね」と問題を投げかけていた。(取材・文・撮影:磯部正和)

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  • 映画『任侠学園』のメガホンをとった木村ひさし監督 (C)ORICON NewS inc.
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