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矢口史靖監督、俳優の知名度は無視 関口大輔Pが10年ぶりタッグでこだわり明かす

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第15回 関口大輔プロデューサー

矢口史靖監督のこだわりを明かしてくれた関口大輔プロデューサー (C)ORICON NewS inc.

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 『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』など、まるでドキュメンタリーを観ているかのように、登場人物に感情移入してしまう映画を世に送り出し、邦画界に“矢口映画”という一つのジャンルを確立した矢口史靖監督。そんな矢口監督と『ハッピーフライト』以来、約10年ぶりにタッグを組み、最新作映画『ダンスウィズミー』を完成させたワーナー・ブラザース ジャパンの関口大輔プロデューサーが、矢口監督の魅力を大いに語った。
 
■『ウォーターボーイズ』制作秘話

 関口氏と矢口監督の出会いは2001年に公開され大きな反響を呼んだ妻夫木聡主演の『ウォーターボーイズ』まで遡る。「当時『報道ステーション』で、埼玉県川越高校水泳部の男子シンクロナイズトスイミングの特集をしていたのを見て、アルタミラの桝井さんと企画を考えたんです。監督を誰にしようかという話になったとき、矢口監督の名前が挙がりました。ぴあフィルムフェスティバルでも賞を取っていましたし『ひみつの花園』(1997年公開)も面白かったので、矢口さんに合う企画かなと思ったんです」。
 
 しかし、フジテレビ映画という看板を持ってしても、企画段階で矢口監督にはあっさりと断られたという。関口氏は「そのときから矢口監督は、映画に対する思いや、自分がやりたいと思うことがはっきりしている方でした。お金持ちになりたいとか、有名監督になりたいという思いがまったくない人なんです」と当時を振り返る。

 逆に言えば、矢口監督が「やりたい」と思えば、どんなに困難でも企画は進む。最初矢口監督は男子シンクロに対して「イロモノ」的なイメージを持っていたというが、実際の映像を見せ「爽やかさ」をアピールすると「面白い」と乗り気になったという。取材を重ね、矢口監督は魅力的なストーリーを構築した。
 
■矢口監督にとって俳優の知名度やマーケティング的発想はどうでもいい

 ここで矢口監督は、また“らしさ”を発揮したという。この作品の条件は「キャストをオーディションで選ぶこと」。プロデューサーの立場からすれば、ある程度知名度のある人を選びたかったというが「演者が本当にシンクロをやることに意味がある。そうしないとラストで感動できない」と考えた矢口監督は、数多くの著名な俳優がオーディションに訪れるなか、知名度や芝居ができるかは無視。泳げて、3ヶ月間みっちりシンクロのレッスンができるスケジュールがとれる人=暇な人を選んだ。「スケジュールが忙しい人気の人を入れて、大切なところを吹き替えでやるような映画にしたら、絶対成功しない」というのが矢口監督の一貫した考えだったという。

 関口氏は「矢口監督が狙っているのは本物なんです」と語る。『ウォーターボーイズ』はコメディ要素の強い作品だったが「本人たちが一生懸命やっているから笑えるし、感動ができる。矢口監督が目指しているものが具現化できた作品」と胸を張る。

 ただ、今でこそ日本を代表する俳優となったが、メインを張った妻夫木聡、玉木宏は、まだブレイク前であり、名前で劇場に足を運ばせる存在ではなかったという。「スタートは『シャンテ・シネ』の単館公開という提案だったのですが、どうしても全国の人に観てほしいという思いで、ボーイズたちは毎日舞台あいさつを行ったりして、コツコツ映画を広めていったんです。劇場のスタッフさんたちも、とても協力的で最終的には99館まで劇場も増えました。こうした努力も『いい映画ができた』という自信があったからできたことなんです」。

■『スウィングガールズ』上野樹里は泣きながらサックスを特訓

 『ウォーターボーイズ』の成功で、自分たちのやり方が間違いではないと自信を持った関口氏と矢口監督が、次に挑んだのが『スウィングガールズ』だ。こちらのモデルのひとつとなったのが、兵庫県高砂高校のジャズバンド部。女子高生とジャズというアンバランスさが、矢口監督の琴線に触れた。「こちらも取材に行ったのですが、そのとき関西弁は耳に馴じみがあるので、もう少し違う言葉を探そうと東北地方を旅したんです。そこで山形の置賜弁のイントネーションが面白いということになって、舞台をそこにしたんです」。

 「矢口監督というのは、本ができたところで、すでに映像のイメージができているんです。そこがすごい。絵コンテを描くのですが、ほぼ映像と一緒」。だからこそ、オーディションは「矢口監督のイメージ」に近い人を選ぶ作業になる。この作品でも、すでに売れている若手女優がたくさんオーディションに来たというが、矢口監督はどんどん落としていく。選ばれた上野樹里や貫地谷しほりも、矢口監督がイメージしていた人物像と瓜二つだというのだ。

 この作品でも、選ばれたキャストに対して、矢口監督は長い時間をかけて、演奏の練習を課した。楽器未経験だった上野は、唇から血を流し泣きながらサックスを特訓したという。映画公開時「そこまで有名な人はいなかった」と関口氏は語っており、ここも『ウォーターボーイズ』と同じだった。各地で行ったガールズたちのコンサートも最初は人が少なかったが、徐々に人気を博し、最後はプラチナチケットになるほどに大きな盛り上がりを見せた。そして最終興収は20億円を超える大成功を収めた。

 ちなみに関口氏×矢口監督3作目となった『ハッピーフライト』の綾瀬はるかも監督のセレクションだったという。「最初矢口監督は、綾瀬さんに会うのが嫌だと言っていたんです。綾瀬さんが嫌というより、会ったら強引にキャスティングさせられると思ったんでしょうね。でも実際面接すると、矢口監督のイメージしていたおっちょこちょいの客室乗務員にピッタリだったようで、すぐに合格になったんです」。
 
■矢口監督の映画へのこだわり

 そこから関口氏はテレビドラマ制作の部署に異動になり、矢口監督との映画作りはいったん終了した。「『ドラマを一緒に作りませんか』と声をかけたのですが、矢口監督にはやらないですと断られました」と関口氏は振り返るが、ここでも矢口監督のクリエイターとしての資質が出ているという。「ドラマと映画の作り方ってまったく違うんです。これまでも話してきましたが、矢口監督は徹底的に題材の取材をして企画を練る。役者さんにしても、長い時間を共有する方なので、有名人を使ってスケジュールを縫いながらの撮影では、矢口監督がやりたいことができない。正直興味がないんでしょうね」。
 
 確かに矢口監督は2〜3年に1作という制作スパンであることが多い。「とにかく映画を愛している方で、CMや小説、漫画の仕事は基本的にはお受けしていないので、僕がドラマ部に異動になってまで、無理してご一緒するのは違うなと思ったんです」。

■最新作『ダンスウィズミー』は“ザ・矢口映画”

 そんななか、関口氏はワーナー・ブラザースに移籍し『ハッピーフライト』以来、久々にタッグを組んだのが『ダンスウィズミー』だ。

 本作のテーマは“ミュージカル”。一流商社で働くOLの鈴木静香は、幼少期の苦い思い出のため、ミュージカルを毛嫌いしていたが、ある日姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術にかかってしまい「曲が流れると踊らずにはいられない」というカラダになってしまう――という物語だ。

 「時間は空きましたが、こうしてまたご一緒するからには、矢口監督の最も得意なジャンルで勝負したい」という関口氏の言葉通り、キャストはオーディション、劇中のミュージカルシーンは、吹き替えなしで演じるという、従来のパターンを採用した。厳正なる選考により、三吉彩花やしろ優chayという個性的なキャストたちがスクリーンを彩った。

■主人公の名前はもちろん“鈴木”!

 約10年ぶりのタッグに「演出にしても脚本にしても、監督としての腕が格段に上がった」と関口氏は証言する。特に「突然歌い出すミュージカル映画」という特徴を「催眠術にかけられる」というストーリーラインに乗せて表現する発想に「舌を巻いた」という。「矢口監督の最も得意なコメディ映画になったと思います。この作品の主人公もまた“鈴木”なのですが、これは監督の映画が、普通の生活の延長線上にあるというメッセージでもあります。映画館に足を運んだ人が、気持ちを明るくして劇場を後にできるような映画。それが矢口映画の特徴なんです。思っていた映画ができました」と出来に自信をのぞかせていた。

 「マーケティング的にはなかなか難しいですよ」と苦笑いを浮かべた関口氏。確かに、人気原作の実写化で、超売れっ子俳優を主役にすることがヒットの王道なのかもしれないが、「僕の役割は、矢口監督がやりたいことを忠実に作れるような環境を整えること」と胸を張る。この言葉通り『ダンスウィズミー』は“ザ・矢口映画”と思わせてくれるようなワクワク感と推進力が感じられる作品になっている。(取材・文・撮影:磯部正和)

関連写真

  • 矢口史靖監督のこだわりを明かしてくれた関口大輔プロデューサー (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『ダンスウィズミー』で主演を務める三吉彩花(C)2019映画「ダンスウィズミー」製作委員会
  • 映画『ダンスウィズミー』のメインカット(C)2019映画「ダンスウィズミー」製作委員会
  • 映画『ダンスウィズミー』の場面カット(C)2019映画「ダンスウィズミー」製作委員会
  • 映画『ダンスウィズミー』の場面カット(C)2019映画「ダンスウィズミー」製作委員会

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