■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第14回 浅沼直也監督、上田慎一郎監督、中泉裕矢監督
2017〜2018年の日本映画界に大きな話題を提供した『カメラを止めるな!』。本作で監督を務めた上田慎一郎、助監督の中泉裕矢、スチールを担当した浅沼直也の3人が共同監督として完成させたのが『イソップの思うツボ』だ。オムニバス映画ではなく1本の作品で3人が監督を務めるというのは非常に稀なケースだが、いったいどんな思惑があったのだろうか――。
■なぜ三人で一本の映画を作ったのか
――アクション監督、VFX監督など、明確な役割分担がある場合、共同監督という形態をとることはこれまでの作品でもありましたが、3人にはそういったすみ分けはあったのでしょうか?
上田:技術的な特徴をいかすために集まった3人ではなかったので、そういう役割での分け方はなかったです。
――では、一本の映画のなかで、それぞれはどんな役割分担をしたのですか?
上田:この映画には、3組の家族が出てくるので、大きな分け方としては、それぞれ担当家族を決めて、担当した家族のシーンはその人がメイン監督で、あとの二人がサブに回るという感じですね。ちなみに僕が兎草家、中泉さんが亀田家、浅沼さんが戌井家です。後半は三家族が入り混じるので、そこはシーンごとに話し合いながら分担していきました。
――3人で一つの映画を作ろうと思った動機はなんなのですか?
中泉:成り立ちとしては、僕らともう一人で『4/猫 ねこぶんのよん』というオムニバス映画を作ったのですが、その打ち上げで3人とも長編映画をやりたいという思いを話し合ったのが始まりでした。「なんで3人なのか」という部分では、僕はどこかで自分の力だけではできないと思っていることが、3人だったらできるかなと思っていたからなんです。
上田:それこそ3人で映画を撮るという話が上がったときは、「上手くいくわけない」と多くの人に反対されました。正直言うと、僕も3人で1本の映画を撮ることは不正解だと思うんです。ただ『カメラを止めるな!』でも、30分以上ワンカットの長回しという一般的には不正解だと言われていることを選びました。不正解を選んで、死ぬ気で正解にすることこそ、自分のなかでは正解の生き方だと思うんです。そういった楽しさを味わいたいという思いが強かったですね。
浅沼:映画って1人の視点を覗くもののような気はするのですが、この3人はみんななにかがそれぞれ足りなくて、でもそれを出し合ったらいいものができるんだろうなという思いがありました。三つの視点で世界を覗いた様な映画が出来たら楽しいだろうなという思いもありました。
■『カメ止め』より前にスタートした企画
――本作の企画は、『カメラを止めるな!』よりも前にスタートしたとお聞きしました。
上田:そうですね。2016年ぐらいから企画会議をしたのですが、なかなかまとまらず……。その間に『カメラを止めるな!』の製作があったりして、より遅くなった感じですね。
――『カメラを止めるな!』のヒットによって、本作製作のうえでなにか影響はありましたか?
浅沼:予算とかを含めて、製作の面での大きな影響はありませんでした。撮影自体は、9日間ですし、予算も、「カメ止め」の3倍程度なので。
上田:忙しくなったのでスケジュール面ではどんどん後ろ倒しになってしまって、ご迷惑をおかけしました。予算の面ではないですが、僕は『カメラを止めるな!』のあとに脚本を書き始めたので、作品への影響はあると思います。
中泉:出来上がったあと、大きな恩恵を受けているなとは感じていますね。公開前の段階からある程度注目してもらえるのも『カメラを止めるな!』のヒットがあったからだと思いますから。
上田:でも、ツイッターとか見ていると「カメ止めヒットして二番煎じみたいなもの作りやがって」なんて意見もありましたから『カメラを止めるな!』がヒットしたから、この映画を作ったと思っている人も多いのかもしれません。
――なかなか進まなかった理由はなんなのでしょうか?
中泉:一番大きな理由は、3人の構想が上手くまとまらなかったということですね。一気にプロジェクトが進んだきっかけは、埼玉県の支援を受けたSKIPシティの「創る・魅せる支援プロジェクト」に採用され、期間までに作らなければいけないという物理的な問題と、制作会社が決まったことが大きいと思います。でもこのタイミングじゃなければ、この3人の座組はなかったでしょうね。『カメラを止めるな!』のヒットのあと、この構想が上がっても、上田さんはやろうと言わなかったと思うんですよ。
■それぞれの映画監督としての未来
――上田監督は「不正解」を正解にするチャレンジと話していましたが、実際作品が完成して、どんなことを得られましたか?
上田:『カメラを止めるな!』が絶賛公開中のときに本格始動したのですが、正直、僕は自信過剰になっていたと思うんです(笑)。でも現場で自分がメイン監督をしているとき、浅沼さんや中泉さんから「こうした方がいいんじゃない?」というアドバイスをされて「あーなるほど!」と思うことが結構あったんです。自分はまだまだ、たいしたことないんだなと思うと同時に、映画監督って、周囲にどれだけ良いアイデアを出してくれる人がいることが大切なんだなと改めて実感できました。健全に自分を疑うことの大切さを学びました。
――『カメラを止めるな!』によって大きく環境が変化したと思いますが、今後の進む道は明確に見えてきましたか?
中泉:僕は映画監督としての目標の一つに、おばあちゃんに映画館で映画を観てほしいというのがあります。おばあちゃんは足が悪いので、都内に映画を観に来ることができないのですが、今回の映画が全国公開されることで夢が叶います。作家性の強い作品も大切ですが、僕はより多くの人に観てもらえるような映画を作っていきたいですね。
上田:『カメラを止めるな!』がヒットする前は、とにかく多くの人に観てもらえるような映画を撮りたいと思っていたのですが、最近は大きなバジェットの作品は、それだけ色々な事情も絡んでくることがわかったので、少し考えが変わってきました。メジャー映画も、作家性の強い映画も、どちらも臨機応変に作っていけるような監督になりたいですね。
浅沼:売れたいとか売れないとかはあまり考えてません。でも自分が作りたいと思っているものと、世の中の求めるものが一致する瞬間があれば一番の幸せだと思います。(取材・文:磯部正和)
2017〜2018年の日本映画界に大きな話題を提供した『カメラを止めるな!』。本作で監督を務めた上田慎一郎、助監督の中泉裕矢、スチールを担当した浅沼直也の3人が共同監督として完成させたのが『イソップの思うツボ』だ。オムニバス映画ではなく1本の作品で3人が監督を務めるというのは非常に稀なケースだが、いったいどんな思惑があったのだろうか――。
■なぜ三人で一本の映画を作ったのか
――アクション監督、VFX監督など、明確な役割分担がある場合、共同監督という形態をとることはこれまでの作品でもありましたが、3人にはそういったすみ分けはあったのでしょうか?
上田:技術的な特徴をいかすために集まった3人ではなかったので、そういう役割での分け方はなかったです。
――では、一本の映画のなかで、それぞれはどんな役割分担をしたのですか?
上田:この映画には、3組の家族が出てくるので、大きな分け方としては、それぞれ担当家族を決めて、担当した家族のシーンはその人がメイン監督で、あとの二人がサブに回るという感じですね。ちなみに僕が兎草家、中泉さんが亀田家、浅沼さんが戌井家です。後半は三家族が入り混じるので、そこはシーンごとに話し合いながら分担していきました。
――3人で一つの映画を作ろうと思った動機はなんなのですか?
中泉:成り立ちとしては、僕らともう一人で『4/猫 ねこぶんのよん』というオムニバス映画を作ったのですが、その打ち上げで3人とも長編映画をやりたいという思いを話し合ったのが始まりでした。「なんで3人なのか」という部分では、僕はどこかで自分の力だけではできないと思っていることが、3人だったらできるかなと思っていたからなんです。
上田:それこそ3人で映画を撮るという話が上がったときは、「上手くいくわけない」と多くの人に反対されました。正直言うと、僕も3人で1本の映画を撮ることは不正解だと思うんです。ただ『カメラを止めるな!』でも、30分以上ワンカットの長回しという一般的には不正解だと言われていることを選びました。不正解を選んで、死ぬ気で正解にすることこそ、自分のなかでは正解の生き方だと思うんです。そういった楽しさを味わいたいという思いが強かったですね。
浅沼:映画って1人の視点を覗くもののような気はするのですが、この3人はみんななにかがそれぞれ足りなくて、でもそれを出し合ったらいいものができるんだろうなという思いがありました。三つの視点で世界を覗いた様な映画が出来たら楽しいだろうなという思いもありました。
■『カメ止め』より前にスタートした企画
――本作の企画は、『カメラを止めるな!』よりも前にスタートしたとお聞きしました。
上田:そうですね。2016年ぐらいから企画会議をしたのですが、なかなかまとまらず……。その間に『カメラを止めるな!』の製作があったりして、より遅くなった感じですね。
――『カメラを止めるな!』のヒットによって、本作製作のうえでなにか影響はありましたか?
浅沼:予算とかを含めて、製作の面での大きな影響はありませんでした。撮影自体は、9日間ですし、予算も、「カメ止め」の3倍程度なので。
上田:忙しくなったのでスケジュール面ではどんどん後ろ倒しになってしまって、ご迷惑をおかけしました。予算の面ではないですが、僕は『カメラを止めるな!』のあとに脚本を書き始めたので、作品への影響はあると思います。
中泉:出来上がったあと、大きな恩恵を受けているなとは感じていますね。公開前の段階からある程度注目してもらえるのも『カメラを止めるな!』のヒットがあったからだと思いますから。
上田:でも、ツイッターとか見ていると「カメ止めヒットして二番煎じみたいなもの作りやがって」なんて意見もありましたから『カメラを止めるな!』がヒットしたから、この映画を作ったと思っている人も多いのかもしれません。
――なかなか進まなかった理由はなんなのでしょうか?
中泉:一番大きな理由は、3人の構想が上手くまとまらなかったということですね。一気にプロジェクトが進んだきっかけは、埼玉県の支援を受けたSKIPシティの「創る・魅せる支援プロジェクト」に採用され、期間までに作らなければいけないという物理的な問題と、制作会社が決まったことが大きいと思います。でもこのタイミングじゃなければ、この3人の座組はなかったでしょうね。『カメラを止めるな!』のヒットのあと、この構想が上がっても、上田さんはやろうと言わなかったと思うんですよ。
■それぞれの映画監督としての未来
――上田監督は「不正解」を正解にするチャレンジと話していましたが、実際作品が完成して、どんなことを得られましたか?
上田:『カメラを止めるな!』が絶賛公開中のときに本格始動したのですが、正直、僕は自信過剰になっていたと思うんです(笑)。でも現場で自分がメイン監督をしているとき、浅沼さんや中泉さんから「こうした方がいいんじゃない?」というアドバイスをされて「あーなるほど!」と思うことが結構あったんです。自分はまだまだ、たいしたことないんだなと思うと同時に、映画監督って、周囲にどれだけ良いアイデアを出してくれる人がいることが大切なんだなと改めて実感できました。健全に自分を疑うことの大切さを学びました。
――『カメラを止めるな!』によって大きく環境が変化したと思いますが、今後の進む道は明確に見えてきましたか?
中泉:僕は映画監督としての目標の一つに、おばあちゃんに映画館で映画を観てほしいというのがあります。おばあちゃんは足が悪いので、都内に映画を観に来ることができないのですが、今回の映画が全国公開されることで夢が叶います。作家性の強い作品も大切ですが、僕はより多くの人に観てもらえるような映画を作っていきたいですね。
上田:『カメラを止めるな!』がヒットする前は、とにかく多くの人に観てもらえるような映画を撮りたいと思っていたのですが、最近は大きなバジェットの作品は、それだけ色々な事情も絡んでくることがわかったので、少し考えが変わってきました。メジャー映画も、作家性の強い映画も、どちらも臨機応変に作っていけるような監督になりたいですね。
浅沼:売れたいとか売れないとかはあまり考えてません。でも自分が作りたいと思っているものと、世の中の求めるものが一致する瞬間があれば一番の幸せだと思います。(取材・文:磯部正和)
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2019/08/15