■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第12回 永江智大プロデューサー
壮大なストーリーが展開する漫画原作の実写映画化がトレンドになっている昨今の映画界。原作の切り取り方は作品によっては違うが、多くの作品は“次”を期待させるような構成のものが多い。果たしてどんな基準で“続編”は作られるのか――。7月19日(土)に公開を迎えた映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』の永江智大プロデューサーに話を聞いた。
■続編を取り巻く現状
全世界でシリーズ累計4400万部を超える石田スイにより人気コミック『東京喰種トーキョーグール』。原作は『東京喰種トーキョーグール』と『東京喰種トーキョーグール:re』を合わせると30巻にも及ぶ大作だ。当然のことながら、企画があがった段階から「とても1本では収まらないので、シリーズにしていきたい」という共通認識はあったという。
しかし、現実的にいまの日本映画界において、企画段階から多額の予算を確保し、何部作にもなるという話はめったにない。『進撃の巨人』や『寄生獣』など、製作段階から二部作で展開することを発表している例もあるが、あくまでレアケースだ。
この点について、永江プロデューサーは「製作サイドからすれば、最初から巨大なバジェットでシリーズ化するというのは理想的な形ですが、結果を出してからではないと、続編という話に持っていけないのが現状です」と胸の内を明かす。
■劇場興収と配信・DVDなどの二次利用の総合的な“結果”
結果という意味では、2017年7月に公開された『東京喰種 トーキョーグール』は、興収11億円という数字を残した。永江プロデューサーは「昨今の邦画界の流れのなか、興収10億円というのが一つの大きな壁になっているように感じます。その意味で、10億円を超えたというのは、続編に進むための“結果”はクリアしたという認識がありました」と評価する。
そんななか、もう一つ“結果”という部分で後押しされたのが、二次利用だという。
「映画は劇場興収がフィーチャーされがちですが、我々は全体的なビジネススキームを組んでいるので、いまの時代で言う配信やDVDのセル、レンタル、さらには海外販売という二次利用の数字というのも重視しています」。
この部分で『東京喰種トーキョーグール』は非常に高い数字を残した。特に海外でのセールスは好調で、最終的には50〜60ヶ国で作品は公開されたという。こうした総合的な“結果”を鑑みて、続編への気運は高まっていった。最終的には第1弾の公開から約1年後、企画として本格的に動き出すことが決まり、2018年9月22日に公式HPにて「続編決定」の情報が解禁された。
■続編に進むうえで、数字以上に大事なものは「ファンの支持」
さらにもう一つ、“結果”意外に、続編製作を決める大きな要素があると永江プロデューサーは語る。それは「ファンの好意的な声」。特に漫画原作を実写化する場合、この声は決して無視できないと力説する。第一弾が公開されたあと「続編を観たい」という声が配給サイドには多数届いた。独自で調査したアンケートでも、作品を観た約9割の人が続編を希望していたという。
「過去を見ても、正直『東京喰種トーキョーグール』よりも興行的に成功を収めた作品はたくさんあります。でもどんなに数字が良くても、ファンに好意的に受け入れてもらえなかった作品は、なかなか次に進めないんです」。
数字的な結果、そしてファンの絶大なる支持。この二つの要素から続編が決定したが、こうした決定の仕方には、大きな足かせになることが多い。それはスケジュールだ。多部作で展開されることが最初から決まっている場合は、キャストやスタッフのスケジュール調整はそれほど難しくない。しかし、結果を見てから続編に進む場合、キャストも続投が前提だと、スケジュール調整が非常に難しい。ここでとん挫するケースもあるという。
「その意味では、キャストの事務所等の関係者には無理をお願いしました。でも主演の窪田(正孝)さんをはじめ、作品への熱い思いを持っていただけている人たちばかりだったので、そこはすごく助けて頂きました」と永江プロデューサーは感謝を述べていた。
■続編製作の流れから「月山編」は必然
続編を決断した最大の理由が「ファンからの熱望」である以上、やるべきことは、より明確になった。本作では、松田翔太演じる月山習をフィーチャーした「月山編」が描かれる。「前作のどこが評価されたかを考えたとき、一番はキャラクターと原作の世界観。その意味で、約2時間という映画のスタンダードな枠に無理なく収められるのは月山編がベストだと思いました」。
さらに前作でPG12だったレイティングは、本作でR15+になった。「もちろん社内では議論になりました。でもここでもファンに受け入れられた理由に立ち戻ると、中途半端な表現ではなく『東京喰種トーキョーグール』という世界観にしっかり踏み込もうという結論になりました。層を広げるという意識よりは、よりファンに満足してもらおうという作りになっています」。
「作る側からしたら、絶対にクオリティの面において、前作を超えなくてはいけないし、作品に新しさがなければ失礼だと思うんです。その意味で、窪田さんはもちろん、トーカ役の山本舞香さん、松田さんなどみなさんが強い意識を持って、新しいものを届けようとやってくれました」と永江プロデューサーは自信をのぞかせていた。(取材・文・撮影:磯部正和)
壮大なストーリーが展開する漫画原作の実写映画化がトレンドになっている昨今の映画界。原作の切り取り方は作品によっては違うが、多くの作品は“次”を期待させるような構成のものが多い。果たしてどんな基準で“続編”は作られるのか――。7月19日(土)に公開を迎えた映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』の永江智大プロデューサーに話を聞いた。
■続編を取り巻く現状
全世界でシリーズ累計4400万部を超える石田スイにより人気コミック『東京喰種トーキョーグール』。原作は『東京喰種トーキョーグール』と『東京喰種トーキョーグール:re』を合わせると30巻にも及ぶ大作だ。当然のことながら、企画があがった段階から「とても1本では収まらないので、シリーズにしていきたい」という共通認識はあったという。
しかし、現実的にいまの日本映画界において、企画段階から多額の予算を確保し、何部作にもなるという話はめったにない。『進撃の巨人』や『寄生獣』など、製作段階から二部作で展開することを発表している例もあるが、あくまでレアケースだ。
この点について、永江プロデューサーは「製作サイドからすれば、最初から巨大なバジェットでシリーズ化するというのは理想的な形ですが、結果を出してからではないと、続編という話に持っていけないのが現状です」と胸の内を明かす。
■劇場興収と配信・DVDなどの二次利用の総合的な“結果”
結果という意味では、2017年7月に公開された『東京喰種 トーキョーグール』は、興収11億円という数字を残した。永江プロデューサーは「昨今の邦画界の流れのなか、興収10億円というのが一つの大きな壁になっているように感じます。その意味で、10億円を超えたというのは、続編に進むための“結果”はクリアしたという認識がありました」と評価する。
そんななか、もう一つ“結果”という部分で後押しされたのが、二次利用だという。
「映画は劇場興収がフィーチャーされがちですが、我々は全体的なビジネススキームを組んでいるので、いまの時代で言う配信やDVDのセル、レンタル、さらには海外販売という二次利用の数字というのも重視しています」。
この部分で『東京喰種トーキョーグール』は非常に高い数字を残した。特に海外でのセールスは好調で、最終的には50〜60ヶ国で作品は公開されたという。こうした総合的な“結果”を鑑みて、続編への気運は高まっていった。最終的には第1弾の公開から約1年後、企画として本格的に動き出すことが決まり、2018年9月22日に公式HPにて「続編決定」の情報が解禁された。
■続編に進むうえで、数字以上に大事なものは「ファンの支持」
さらにもう一つ、“結果”意外に、続編製作を決める大きな要素があると永江プロデューサーは語る。それは「ファンの好意的な声」。特に漫画原作を実写化する場合、この声は決して無視できないと力説する。第一弾が公開されたあと「続編を観たい」という声が配給サイドには多数届いた。独自で調査したアンケートでも、作品を観た約9割の人が続編を希望していたという。
「過去を見ても、正直『東京喰種トーキョーグール』よりも興行的に成功を収めた作品はたくさんあります。でもどんなに数字が良くても、ファンに好意的に受け入れてもらえなかった作品は、なかなか次に進めないんです」。
数字的な結果、そしてファンの絶大なる支持。この二つの要素から続編が決定したが、こうした決定の仕方には、大きな足かせになることが多い。それはスケジュールだ。多部作で展開されることが最初から決まっている場合は、キャストやスタッフのスケジュール調整はそれほど難しくない。しかし、結果を見てから続編に進む場合、キャストも続投が前提だと、スケジュール調整が非常に難しい。ここでとん挫するケースもあるという。
「その意味では、キャストの事務所等の関係者には無理をお願いしました。でも主演の窪田(正孝)さんをはじめ、作品への熱い思いを持っていただけている人たちばかりだったので、そこはすごく助けて頂きました」と永江プロデューサーは感謝を述べていた。
■続編製作の流れから「月山編」は必然
続編を決断した最大の理由が「ファンからの熱望」である以上、やるべきことは、より明確になった。本作では、松田翔太演じる月山習をフィーチャーした「月山編」が描かれる。「前作のどこが評価されたかを考えたとき、一番はキャラクターと原作の世界観。その意味で、約2時間という映画のスタンダードな枠に無理なく収められるのは月山編がベストだと思いました」。
さらに前作でPG12だったレイティングは、本作でR15+になった。「もちろん社内では議論になりました。でもここでもファンに受け入れられた理由に立ち戻ると、中途半端な表現ではなく『東京喰種トーキョーグール』という世界観にしっかり踏み込もうという結論になりました。層を広げるという意識よりは、よりファンに満足してもらおうという作りになっています」。
「作る側からしたら、絶対にクオリティの面において、前作を超えなくてはいけないし、作品に新しさがなければ失礼だと思うんです。その意味で、窪田さんはもちろん、トーカ役の山本舞香さん、松田さんなどみなさんが強い意識を持って、新しいものを届けようとやってくれました」と永江プロデューサーは自信をのぞかせていた。(取材・文・撮影:磯部正和)

2019/07/20